第39話、事あるごとに勇者になれなかった彼は格差を体感し実感する
SIDE:キショウ
正しく、魔法を披露するがごとき振る舞いで。
思えば初めて目の当たりにする、カイの愛用の得物らしき小さな手斧。
何もないところから取り出して見せたから。
『収納』の魔法だ、すっげぇ! なんてキショウが瞳を輝かせている間に。
カイは特に何の詠唱めいたものをするでもなく、えいやっとばかりに手斧を中空へ放り投げる。
それは、きっちり測ったかのように飛び出してきた『虹泉』の四角付近に突き刺さったかと思うと。
透き通った緑色の魔力が目に見えて伸び上がり、泉を包み込むようにして広がっていくのが分かる。
「今度は、『結界』魔法!?」
「んまぁ、あってるっちゃぁあってるし、惜しいって言えば惜しいカナ」
「……って、あっ。虹の泉が、消えちゃった!?」
「たまにショウくんみたいな後期心旺盛な主人公体質のヒトが、勝手極まりない感じで浸かっちゃって、新たな物語が始まっちゃったりすることがあるんだヨ。まぁ、だからといって壊れたり使えなくなったりするわけじゃないんだけどサ、『不壊』の魔法もかかってるし。ショウくんみたいに偶然やってきたんならともかく、ボクの不始末が原因で『リヴァイ・ヴァース』にお客さん連れてっちゃうのもあれだからさ、ソトミ姉にえらい勢いで怒られるのいやだし、一応隠しとかないとね」
つまる所それは、結界魔法と言うよりも帰り道の目印兼、『隠蔽』魔法でもあるのだろう。
思い出して、忘れないで良かったと。
カイ随分と軽い調子で語ってくれたが。
この短い間でカイは一体いくつの魔法を、しかも片手間で、まったくもって力が入っていない様子で無詠唱でした事を考えてしまうと。
凄すぎて開いた口が塞がらないキショウである。
年の頃もほとんど変わらないように見えるカイに対し、キショウはここまで力の差があるなどとは正直な所思ってはいなかった。
正に自惚れもいいところで。
「先生! いや、カイ師匠っ。改めましてご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いしますっ」
「んん? この会話の流れでナニ急に? まぁ、ショウくんにやる気があるのはいいことだけどサ。……んじゃさっそく、こっちのダンジョン見に行こっか」
「はいっ」
何よりキショウの気持ちを新たにしたのは。
『すごい』ことをやってのけたカイ自身に、その自覚がまるでないことであろう。
これで、師匠たちの中においても、特に魔法が得意な方ではないとはっきり言うくらいなのだから、上には上がいるというか、そんな彼らに教えを請える幸せを、キショウがぐっと噛み締めていて。
自身の記憶すらツギハギだらけな不肖の弟子であるならば、粛々と師匠の言に従うのみであると言わんばかりに。
キショウは、勢い込んで……そんな勢いにやっぱりちょっと引いているカイに気づかないままに。
カイの後をついていくのだった。
※ ※ ※
「……これが、『遊園地』?」
「の、受付っていうか入口ね。中は大まかに言えば一フロアのみの大大迷路ってところカナ。今見えるアーチをくぐることによって、そんな大迷路へと転移、入れるしくみさ。ただし、同じ場所からは出られないケド」
そのアーチの先は、いわゆる時の進み方すら違う、異空間らしい。
単純計算で時間は3~4倍に引き伸ばされている、とのこと。
つまりは、一泊の予定でカイの言うところの故郷へと来たわけだが、この『遊園地』なる敷地内に留まっていれば、三日から四日程の時間の余裕が出てくるということでもあって。
「もしかしてカイ師匠、初めからそのつもりでしたか?」
「まぁね。ここの近くに出られれば、せっかくだから入っちゃおぅとは思ってたヨ。もっとも、ショウくんならここを攻略、外に出るのに三日も四日もかからないとは思うけどね」
唯一のイレギュラーというか、不確定要素として。
どうもカイがイメージしていた時代とは異なるようだが、まぁいざとなったらボクもいるし、なんとかなるサなカイの余裕っぷりは。
キショウからしてみればやっぱりカイ師匠は凄いんだなぁって、感心しきりで。
『遊園地』なる、カイの故郷におけるダンジョン。
ソトミと訓練内容が多少なりとも被ってる気がしなくもないが、ダンジョンに限らず冒険をすることがキショウ自身大好きであると改めて気づけたことは、収穫と言えば収穫であろう。
ただその時、キショウは。
ふところマスコットと化したソトミとともに潜ったダンジョンのように、失敗しやられても何度も挑戦できるようなものを想定していて。
現実的に考えて、そんな過保護に過ぎるダンジョンがそうそうあるはずがないと、気づくことはなかったわけだが。
それこそ、死ぬような目に遭わなければ修行でもなんでもないよネ、なんてカイのスパルタな考え方を、キショウが思い知らされたのは。
ある意味何もかものカタが着いた、後の祭りのことで……。
(第40話につづく)
次回は、10月25日更新予定です。