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第38話、魔法が存在しないはずの世界の元悪『役』の得物は、ハンドアックス



SIDE:キショウ




今はまだ、時期ではなかったからなのか。

その資格が足りなかったからなのか。

それとも単純に、近くに『ソレ』がいなかったからなのか。


キショウとカイは、七色に視界を奪われた……しかし呼吸のできる不思議な空間を、二人一緒になってぐるぐる回りながらも無事に通過することに成功した。




「……っ、あっちに緑色がっ」

「うん。あれが出口ダネ。そういや故郷に帰るのも久しぶりだなァ。一体どのあたりに出ることやら」


七色の奔流の終わり。

それは、向かうべき世界が垣間見える、人一人が何とか通れそうな大きさの穴であった。

どうやら、水の流れは一定らしく。

二人がそんなのんきなやり取りをしている中、ぐんぐんと近づいて来るのが分かる。


キショウは、内心でその穴から七色の水が出てしまって、この場に満たされるそれが無くなったりしないんだなぁと思いつつも。

いよいよ勢いが増してきたことで、吸い込まれ前面に倒れそうになり、背中越しにカイに激突、抱きつくみたいになってしまう。



「お、おい。押すなってばョ!」

「ご、ごめんっ」


そんな言い合い、やり取りをしていた二人は。

勢いに任せてその穴に飛び込んでいくと。

新鮮な、緑の匂いに包まれたことを自覚する。



やはり、不思議な力で水の流れは二人についていくことはなく。

何か柔らかいものを突き破って弾き出される感覚。

いつもなら、カイも勢いに任せて華麗に受身なんぞとって異世界へ降り立つわけだが。

きっかり背後を取られたことで、物の見事に一緒になってゴロゴロと転がってゆく。



「ちょ、ちょっ。どわあぁっ」

「うわわ、わぁっ」


これが、固い石の地面やそれに類するものであったのならば。

かなり痛い思いをしていたことだろう。

しかし幸いにも、青々と茂る比較的柔らかい草地に受け止められ、何とか事なきを得る。




「ふうぅ。ボクとしたことが焦ったァ。さすがに大地とのキッスはカンベンしてほしいところだよ」

「ごめんっ……なさい」


気を取り直して立ち上がると。

やはりそこは案の定、それなりに深い山の中であるようだった。

まじまじと観察すれば、もしかしたら違う部分もあるのかもしれないが、確かにカイの言う通り植生はキショウの故郷や『リヴァイ・ヴァース』とも変わらないように見える。



敢えてそれでも違う点を挙げるとするならば。

『リヴァイ・ヴァース』ではとんと見ることがなかった小さな生き物……虫たちの気配がすることだろう。


常春の陽気の『リヴァイ・ヴァース』と比べると、じめじめしていて何だか暑さを感じる。

七色の水に濡れなかった代わりに、早くも汗が滲んでくるような気がして。

無意識のままにキショウが汗を拭っていると、その間に魔法でも使ったのか、カイの瞳……その焦点がブレて揺らいでいるのが分かって。


しかし、それにキショウが気づいた時には、既に付近の探査を終えていたらしい。



首をかしげ、おかしいなァとぼやき出すものだから。

何か分かったのかと、おれにもその魔法を教えて欲しいと問いかけると。

後々にね、などとおざなりに返されつつ、カイは探査サーチの魔法で見たものを告げてくる。




「いや、うん。確かにボクたちの故郷へやってきたはずなんだけどね。近くにけっこうたくさんのヒトの気配があるのはいいとして、『リヴァイ・ヴァース』の訓練用ダンジョンを徘徊していそうなモンスターっていうか、ヒトじゃなさそうな気配もけっこうするんだよネ。しかもその気配はヒトのものと混在しちゃってる」

「そ、それって……」


人と人ならざる者同士で戦ってでもいるのだろうか。

キショウの故郷においても、頻繁に起こりうることではあったので、思わずそんな予想を立てたキショウであったが。



「うんにゃ。たぶん近くに遊園地があるんだョ。『リヴァイ・ヴァース』のダンジョンみたいにモンスター的存在が、そこにやってきた人たちを楽しませようと、お出迎えしてるんじゃないカナ」

「ゆ、ゆうえんち?」



故郷で、聞いたことがあるような気がする言葉。

どうやら、近くに訓練用のダンジョンめいたものがあるらしいことまでは分かったが。

ならばどうして何かがおかしいと首を傾げたのか。

キショウが真意を問うと、カイは一つ頷いて見せて。



「ああ、うん。でもそれってさ、まだボクが悪『役』としてここにいた頃の話なんだヨネ。それももう終わって、めでたしめでたしで誰もいない廃墟にでもなってるのかなって思ってたからサ。一体誰が……この一般的に見れば魔法に類する超常的な力が存在しないとされている世界で、この素敵なテーマパークを維持しているのか、気になっちゃって」



一般的に、魔法は存在しないとされている。

そんな世界もあるのかと、根っからの幻想の住人であるキショウにとってみれば、まず驚きであったが。


あるいはカイがそうであったように、表舞台の影では幻想が、超常が、確かに存在しているのだろう。

『遊園地』とやらにも興味が尽きないとともに、カイが言うようにそのダンジョンめいたものを維持しているであろう存在が気になってくるのも確かで。



「んじゃ、せっかくだしそっちへ向かおっか。一泊二日の修行にはちょうどイイだろうし。……って、あ、そだ。念のために帰り道キープしとかないとネ」


なんやかやあって、帰れなくなってしまっても。

それはそれでアリではあるけど。

などと意地悪く笑ってみせたカイは。


そんなことを言いつつも、次の瞬間。

どこからともなく、正しく手品か、魔法そのもののように。

ハンドアックスを4本取り出してみせて……。



     (第39話につづく)









次回は、10月21日更新予定です。

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