第37話、もしかしたら表裏一体、と言うより内外とも似てるのかもしれない
SIDE:キショウ
カイは、初めての弟子でもあるキショウを前にして。
ようやくこの時がキタ、とばかりに胸を逸らし無駄に偉そうにしつつ、口を開く。
「もし万が一出会ってしまったのならば。ほかのみんなには悪いけど、しばらくは帰ってこられないし修行もできないだろうね。【クリッター】に邂逅し『喰らわれる』ことで、十中八九滅びや危機に瀕している世界に飛ばされるはずサ。そうなったら最後、その世界を救い上げるか、自力で時渡りの方法を探さない限り戻ってこられないわけだけど……あれだね、長い時間をかけて行う修行を、究極的にショートカットしちゃうかんじかな。落とされた世界で死にさえしなければ、めちゃくちゃ強くなって帰ってくること請け合い、ってネ」
調子に乗って矢継ぎ早に放たれるカイの言葉通り。
それを解説、できれば披露、体験することこそが今回のカイの修行の醍醐味、ハイライトだったのだろう。
臨場感と、気持ちがたっぷり入っているものだから。
気圧され、少しばかりキショウが怖気づいたのは確かであったが。
冷静に考えてみると、今現在キショウに起きている、今置かれている状況自体とそう変わっていないような気がしていて。
死ぬ思いをして、だけど死ななければ強くなれるだなんて、最高じゃないかと。
キショウはやる気を漲らせていた。
それはもう、脅かすだけのつもりでいたカイですら少々引いてしまうくらいには。
「フォルの姉御どころか、【クリッター】すら恐れないとはねぇ。それだけでやっぱりショウくんって小生意気な主人公の資格があるのかもなァ。……っていうかさ、そう言えばどうしてショウくんは勇者に、いや強くなりたいんだい?」
「強く? どうしてって、ええと。ソトミさんにも聞かれたばかりなんだけど……あ、あれ? なんでだろう」
故にこそ、カイは純然たる興味半分、師匠としての義務感半分でそう訊いたわけだが。
対するキショウは、そんな事考えたことなかった……と言うよりも。
確かにソトミあたりにも訊かれていたことのはずで。
ある意味、ここにやって来るような存在ならば、誰しも一度は考えたことがあるだろうものであったが。
何故だか今、この瞬間。
よりにもよってその理由を思い出せない、もしくは忘れてしまっていることに気づかされて。
カイの方から訊いたのに、キショウの方が首を傾げ、う~んと悩み込み、カイにその答えを請おうとしてくる始末。
(うーん。ウソかホントか。どちらにしても、強くなりたい気持ちとこの世界に来た理由は繋がってはいそうダネ)
ほぼ同年代のはずではあるが、カイにはもうできないだろうあざとい態度。
それでも、表面上八方美人なカイは、自分も傍から見るとこんなカンジなのかなぁと。
実の所カイの中にある、ソトミが言う所の『もう一つの魂』めいたものが揺さぶられていることに、極力目を逸らしつつ。
気を取り直して、変わらず七色を湛え揺らいでいる虹泉に足をつける。
「うん。それもまだ思い出さないんだねぇ。思い出せないってことは、今はまだ必要ないか、ショウくん自身のコトを守っていくにはいらない情報ってことさ。きっとおいおい思い出していくんじゃないかなぁ。ショウくんがそれを本当に必要としている、その時その瞬間にさ」
「……うん。じゃなくて、はい。カイ師匠。勉強になりますっ」
「からかって……はいないんだ。本気なんだもんなぁ、照れるじゃないの。まったく」
まだカイが三人目ではあるが、何だか自分の知らないことを色々教えてくれる先生みたいだと。
本当に感心し敬う心が透けて見えるからこそ、ショウくんには叶わないなぁ、なんてカイは思わずひとりごちて。
これなら、カイにとっての『もうひとりの自分』を紹介するのも遠くはないカナ、なんて思いつつも。
話題を、本題を取り戻すかのように、改めて七色の泉を足で照れ隠しのごとくかき回す。
「それより、ほら。泉っていっても濡れないでしょ。息継ぎもできるし……視界はちょっと悪すぎて酔うかもだけど、さっそく出発しようと思うんだけど、どうカナ?」
「えっと、はいっ。いつでも行けますっ」
「その意気や良し。んじゃ、ボクが先行するから、一応背中あたりにでも捕まっておいて」
「はいっ」
今は修業中で、師匠と弟子の関係中だからなのもあるだろうが。
ほんとに返事はとっても良いんだよなぁ、お話の中心人物とは正にこれ、とでも主張せんばかりのキショウに。
カイは背中越しにまた苦笑して。
二人は七色の虹の中へと、躊躇うことなく飛び込んでゆくのであった……。
(第38話につづく)
次回は、10月17日更新予定です。