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第36話、勇者めいたさだめは、あるいは悪運などと呼ばれるものなのか



SIDE:キショウ



そもそもキショウが未だいくつかの記憶を取りこぼしているのは。

その『トラベル・ゲート』による選別に耐えうる実力を持ち合わせていなかったから、とも言える。

最も、キショウの場合あるべき記憶が思い出せないのは、キショウ自身を守るための防衛本能が故でもあるのだが……。




「ええと、あったあった。ここだヨ。ここにある虹の泉に入ればボクの故郷に行けるんだ」


そんな内実とは裏腹に、虹泉……『トラベル・ゲート』についてキショウが(実は結構動物好きで、故にフォルトナに対しても恐怖心などを持たなかったのかもしれない)期待していると。


辿り着いたのは、人が住むのにはいささか小さすぎ、それこそ犬小屋などであるのならば大きにすぎる、緋色に彩られた木作りの建物、その目前で。


よくよく見ると玄関に数段程の階段が付いていて。

その先には、上方だけ湾曲している扉と、何やら表札めいたものが付いている。


キショウが読み取れるものからそうでないものまで、細かく字が書かれていたが。

どうやらそれは正に表札であり、中にある虹泉トラベル・ゲートがどの異世界に向かえるのかが示されているらしい。



「よぅく考えたら外国どころか異世界に行くんだし、異世界のことばの学習も必要になってくるんだよネ」

「えぇ。学習? 言葉の練習するの? いや、それはなんて言うか……」

「ははっ。イヤそーだね。見た目結構優等生っぽいのに、勉強やなタイプなんだ? 意外カモ。ま、でも今回は言葉まで違うってことはないからサ。それに、めんどくさかったら『翻訳魔法』覚えちゃえばいいしね。……そっちの方が難しいってヒトもいるにはいるけども」



ソトミ姉と同郷ならば、『翻訳魔法』覚えてしまう方が手っ取り早いかも、とは続くカイの弁。

そう言われて、勉強するくらいなら魔法を覚えた方が絶対いいと思ってしまうのは、ある意味本来のキショウの性質だと言えて。




そんなやりとりをしつつ、その扉を開け放つと。

2畳ほどしかないスペースに、そのままバスタブか、あるいは噴水池でも作ってしまったかのように。

部屋一杯、床一面ほとんど覆う形で七色の水が湛え張られているのが分かる。



「わ、本当に虹色の水、泉なんだ。きれいはきれいだけど……」

「飲むどころか、入るのにはちょっと勇気がいるカモねぇ。色がつきすぎてて、実は透き通ってるわけじゃないし、これだけの色があるとなんだか身体にも悪影響ありそうだし」



思わず二の足を踏み、ぼやくように。

初めて虹泉トラベル・ゲートを目の当たりにして、躊躇いなしにそこへ飛び込むのは勇気がいることだろう。


初めてでなくても、その躊躇いと言うか緊張感が消えることはないとは、カイの言葉で。

そこには、虹泉トラベル・ゲート生きているとも言われる由縁そのものでもある、時の狭間に棲まうバケモノとエンカウントするかもしれないから、と言った意味合いも含まれている。



それこそ、物語の主人公並みの……勇者めいた『引き』がなければ。

まず『ソレ』と出会うことはないだろうが。

絶対にないとは言い切れないのが、この虹泉トラベル・ゲートの恐ろしいところで。



「実は、一泊二日の異世界旅行を修行のテーマにしたのって、この虹泉トラベル・ゲートを体験してもらいたかったってのが大きいんだよネ。時のはざまに棲まうもの……ひと呼んで【クリッター】に出会うことは、野良の虹泉トラベル・ゲートじゃあないし、まずありえないんだけど。悪『役』ってよりいかにも生意気盛りな主人公っぽいショウくんのことだから、意外と初見で遭遇しちゃう可能性も捨てきれないんだよネ」

「えと、【クリッター】? 出会っちゃったらどうなるの?」



カイの様子を見ていると、犬や猫のように可愛がって仲良くする、なんてわけにはいかないのだろう。

恐る恐る聞いてみたキショウに、カイは少しだけもったいぶってみせた後。


よくぞ聞いて切れました、とばかりに。

何だか、ここにきてようやく師匠らしいことができるネ、などと一言置いて。

カイは口を開くのだった……。



    (第37話につづく)









次回は、10月13日更新予定です。

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