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第32話、果たして修行と言う名の世界の案内は、今度こそ行われるのか



SIDE:キショウ



そうして、攻略もピンチに陥った時に自我を保つことができないまでも、ソトミとしては手応えのあった一日目を終えて。



二日目、【アーヴァイン】の曜日がやって来る。


火曜日はフォルトナ・ラクロック。

かつては、魔獣王と呼ばれた女帝の担当日である。




「様々な種族、人物に変化できる能力を持っているといった話は聞いた。個人的にはその強靭無垢なる橙の鬼に興味はあるが……本日一回目の修行において、その能力の行使はなしだ。一度目と云う事でまずは基礎訓練だな。まずは早速だが、この我らが棲まう山を周るぞ。王にもこの世界の案内を頼まれているからな、案内がてら鍛える事にする、ついてくるといい」

「はいっ!」



ちなみに、フォルトナの言う王とは、この世界『リヴァイ・ヴァース』の創造主であるソトミのことである。

初日の訓練は、自身の作り出した世界を自慢するつもりで案内に周る予定だったのだが。

『異世界への寂蒔』が目に入ってそんな事すっかり忘れさってしまっていたからこそのフォルトナの言葉であった。


百獣の王を想起させる四肢に、黒炎を幻視させるたてがみそのものである長い髪。

怪鳥めいた銀の翼に、それ自体が意思を持ち、獲物を狙っているようにも見える、複数の尾に連なる大蛇たち。

その相貌も、獅子そのもので。

初見で女性であるとは中々に気づけないであろう立ち姿であるフォルトナ。


見た目よろしく性格も苛烈で厳しいものだと思われがちであるが。

それがフォルトナの一面に過ぎないのは確かで。


前日のソトミを引き継ぐ形で、フォルトナなりに便宜を図り気遣ってくれているようで。

それに気づいたキショウは、こんな凄い人たちに強くなるために鍛えてもらえることに、多大な感謝の気持ちを持って大きな返事をしてみせた。



相変わらず物怖じしない所に少しばかり感心しつつもフォルトナは。

その意気や良しとばかりに鷹揚に頷くと。

ではゆくぞ、とばかりに四肢をもって走り出す。


そのしなやかで大きな体躯に相応しいスピードであったが。

それでも案内すると言った手前、加減はしていたのだろう。

はっとなってキショウが慌てつつも何とかついていける程には、ゆったりとしたペースで。




「最終目的地は、この世界の頂点になる。道なりに坂を上がってゆくがよい」

「は、はいっ」


キショウが一日を過ごし、ソトミを始めとするこの世界の住人が日々暮らす建物。

城めいたそれらの裏手に周り、キショウが未だ足を踏み入れた事のない場所へと向かう。


とにもかくにも必死にフォルトナの背中を追いかけ……見上げる程の坂道に差し掛かったと思ったら。

気づけばフォルトナの声が背後から聞こえるではないか。


びっくりして坂の、正面に目を向けると。

あまりに大きすぎて目に入らないはずはないフォルトナの体躯はそこにはなかった。

それでも何とか止まることなく、言われた通り先行し坂道に向かわんとするキショウの背中をぴったり併走しているらしき位置から、再びフォルトナの声がかかる。



「取り敢えず現状の速度を維持し続けろ。でなければ夕餉までに一通り周る事叶わんからな。……なに、補助はしてやる」

「「「シャーッ!」」」

「……っ!?」



瞬間、キショウの背中に悪寒が走り抜ける。

振り返らずともその声で。

背中に当たる生暖かくも冷たい吐息に、すぐさま補助……サポートの意味を理解する。


悪寒の正体は、吐息とともに掠る大蛇の舌先だろうか。

恐らく、少しでもスピードが落ちようものならがぶりといかれてしまうのだろう。

キショウは、何とか振り返るのだけは留まり、自然と背筋がピンと伸びるのを自覚しながら、追いつかれまいとペースを上げていったわけだが。



……ガチィン!


「うわああぁぁっ!?」


ただえさえ進めば進むほど傾斜がきつくなると言うのに。

持続して走っていれば意識していようともペースに乱れが生じるのは当たり前で。

そう時間がかかることもなく、牙と牙が軋れるような、間にあるものがすり潰されるかのような嫌な音がして。

文字通りキショウは飛び上がって悲鳴を上げた。



「ペースを守れと言ったろう。なに、噛まれても死にはせん。多少は削れるだろうが、痛いだけだ」

「すぐぅっ!? すいませーんっ!」


確かに飛び上がり、思わず謝り倒したくなるほどの痛みがキショウを貫いたが。

身体自体にはさほどダメージはないようで。

キショウは変な声が出てしまったことに熱くなるものを感じつつも、気を取り直して跳ねた勢いを活かしつつ、始めのペースを維持するように心がける。



「そうだ。己の体力と向き合い、そのパフォーマンスを維持し続けられる力加減を常に模索しろ。そうすれば戦いの最中にガス欠になるリスクも減るだろう」

「はいっ、分かりました!」


基礎訓練であるからして、さほどでもないなどと一瞬でも思ってしまったのは大間違いで。

早くも一番きつい修行かもしれない、などと思いつつも。


英雄、勇者になるための修行をつけてもらっていたことに喜びを感じつつも。

キショウは再び駆け出していって……。



      (第33話につづく)










次回は、9月26日更新予定です。

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