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第3話、純粋無垢で人畜無害な少年に見えるからこそ、表向きは穏やかに




『リヴァイ・ヴァース』は、ソトミが信望する『創造神』の管轄である数多の世界において。

悪『役』を終えた者を集め、属性を善へと変え、勇者……あるいは英雄の足りない世界へと派遣するための世界である。



集められるのは、役目を終え死した者が大半であるが。

例外もあり、どういった基準で集められるのかは分かっていない。

役ではない悪、真の悪、絶対悪に染まった人物は選ばれないと言われているが。

それも、実際はどんな悪でも改心させてしまうソトミの手腕の賜物とも言えて。


この世界にやってきた、連れてこられたものは。

ソトミの館(リヴァイ・ヴァース庁舎とも呼ばれる)一階の受付にて住人登録をする事となる。


冒険者ギルドのごとく、住人には働きに応じたグレードがあって、Gクラスから始まりCクラスより上になると単独での異世界派遣が許可され、自分の住処が与えられる。

更に、Aクラスからは庁舎の一室が与えられ、Bクラス以下のものを指導する権利が与えられるらしい。


そんな元悪役の住人たちが改心し力を付け、世界を一つ救うとAが一つ増え、AAクラスとなり異世界の移住なども許可される。

(ちなみにAが三つ以上になるとSクラスと呼ばれるが、何故Aクラスの上がSクラスなのかソトミも分かっておらず、案外そのあたりは曖昧であったりする)


トップは当然ソトミで、A×10とのこと。

この世界においては、限りなく神に近い存在と言えるのだが。

得意げに嬉しげに自慢するソトミを見ていると。

何も知らないキショウとしては、ドヤ顔可愛いなぁ、なんて思うのみで。


故に、キショウも釣られるようにして笑みを浮かべていたわけだが。

そののほほんとした笑みが自分の凄さを伝えきれていないと思ったらしい。

ソトミは一層笑みを深めて。



「……分かったわ。トクベツにわたしが師匠になってあげましょう。更にわたしのお気に入りの強者を……ええと、六人つけるわっ」


どうよ、とばかりにそう宣言。


「え? いいの? よ、よろしくです」


もちろん臆面通りに受け取ったキショウは、至れり尽くせりで申し訳ないなぁと思いつつも、はにかんだ笑みで頭を下げる。




「ふふふ。大した度胸ね。……ちょっと待ってなさい。今呼ぶから」



やっぱり勘違いでフツーのいい子なのではなかろうか。

キショウに裏は感じられず、本心が別にあるとは思いたくない純真さがそこにある。


だが、そうなるとソトミの敬愛すべき創造神を疑うことになってしまうのだ。


そんなエライもんじゃないんだけどなぁ。

……なんて声が聞こえてきたかどうかはともかくとして。

再び『悪役』リストの載った【デューティ・メモリアル】を開き、その細い指先で六回ページをなぞった。


その本には、ここに暮らす者の名前が載っていて。

所謂魔力を込めて当該ページをなぞることにより呼び出す事ができるようだ。



その手慣れた格好の良い立ち振る舞いにキショウが圧倒されていると。

たまたま近くにいたのか、あるいは傍で控えていたのか、ノックとともに三人の人物が入ってきた。




最初に入ってきたのは。

濃い赤髪を無造作に伸ばした、キショウとさほど変わらないだろう年頃に見える少年だった。

溌剌とした雰囲気で子供らしさが垣間見えるが、血のように赤いその瞳には、キショウにはない凄みがある。



続いて入ってきたのは、随分と長身だが、かなり細身の青年。

色素の抜け落ちた白ではなく、虹をひそませた銀髪。

長めで前髪がかかり、視線の色は伺えない。

一見すると、赤髪の少年と同じく運動が得意そうには見えなかったが。

脇に抱えた白い板のようなものが、何だか不思議な存在感を放っていて。



最後に入ってきたのは、妖艶な、という言葉を地で行く大人の女性だった。

肩にかかるウェーブのかかった髪は濃緑で、瞳は薄い翠緑。

それこそ、悪の女幹部のごとき佇まいだが、キショウを見つめる瞳はどこか穏やかなもので。



「しつれーしつれー。ソトミ姉に呼ばれてやってきたョ。おお、キミが注目のルーキー君?

初めまして、カイだよ。グレードはAA。よろしくぅ」

「……クルベだ。同じくAAクラス。魔絵師をやっている」

「ワタシはサマンサ。特技は裁縫。趣味は人形芝居。定期的に三階のホールで公演してるから、良かったら見に来てね、ぼうや」



気づけばキショウを囲むように、矢継ぎ早に自己紹介。

あわあわしつつキショウも名乗ろうとするも、しかしそれを遮ったのはソトミだった。



「ちょっとちょっとぉ! そこは一番偉いわたしがお互いを紹介するところでしょっ。しかも何だかいきなりフレンドリーだし! それ以前に全員来てないじゃないっ」



むきーと言った表現が似合いそうな雰囲気で肩をいからせ、わたし怒ってますよアピール。

しかし、それにいいリアクション……びっくりしているのはキショウばかりで。

自称、一番偉い彼女が普段からどんな扱いをされているのが伺える。



「まぁまぁ、そうかたいコト言わないで~。ボクらの初めての『弟子』なんでしょ。気安くいかなきゃ」

「それはそうだけど。だったら呼ばれて半分しか来ないってどういうこと?」

「……フォルトナは『部屋には入れない』から。サマルェは『弟子は美少女希望』、テリアは『申し訳ありません、辞退致します』、だそうだ」


カイは軽い調子で、クルベは淡々とソトミを宥め? にかかる。

ソトミも本気で癇癪を起こしていたわけじゃなかったのか、不思議そうな顔を浮かべて。



「フォルトナやサマルェはともかく、珍しいわね。テリアが緊急招集を断るなんて」


悩み込み、首を傾げている。

滲むのは、心配する気持ち。



「何だか少し具合が悪そうだったわね。元々肌が白すぎるからそう見えるのかもしれないけれど」

「そう。わかったわ。お見舞いに行く……ええと、それじゃあキショウ君。詳しい話は後日ってことで。

とりあえずカイ、これから過ごす部屋に案内してもらっていい?」

「りょーかーい。ついでにイロイロ案内しちゃおう」

「あ、えっと。ありがとう、よろしく」




実の所、気づけばここにいたキショウにとってみれば、未だ夢のようで。

ここで暮らすという事に対して実感がなかったのだが、帰るあてもないのも事実で。

当たり前のように部屋を提供してくれるらしいことに、ただただ純粋に感謝の言葉がついて出る。



「いいョいいョ~。んじゃ、さっそくいこか」

「う、うん!」

「……」


素直すぎるキショウに、咄嗟に言葉の出ないソトミ。

それは、役目を終えた悪『役』を無理矢理にでも連れてきて矯正させるこの世界において、住処を与える事など必要最低限の事であり、何だかいたたまれなさが先に立ったからなのだが……。


キショウはそんなソトミに気づく事もなく。

カイに引っ張られるようにして部屋を出て行ってしまう。




「ふむ。ソトミ様が警戒するだけの事はある……か。私も後を追おう。後のことはサマンサ、任せた」

「任されたわ。ソトミさま、テリアの所へ行きましょう。多分あの娘はぼうやの事、何か知ってるでしょうから」

「え、ええ」


表情変えぬまま、それでも興味を引かれたのか音もなく部屋を出るクルベに、ツーカーなやり取りでサマンサは惚けていたソトミを促す。



「でも、どうしてその事を……?」


サマンサも気づいたのか。

目を見開きそう問うと、息を吸うように妖艶な笑みを浮かべてみせて。



「ぼうやがここへやって来た時、ワタシも含めて皆が注目してたわ。あの娘も当然見ていたはず。生真面目なあの娘が、それでも貴女の呼び出しに応じなかったのだから、何かあるのでしょう。どちらが『被害者』か……それは分からないけれど」


口にしたのは、ソトミが考えついた事とそう変わらなかっただろう。


キショウが帽子の下に隠すあの傷は独特なものだった。

エクゼリオ】の魔力に焼かれ捻れたそれは、確かにテリアの得意魔法を受けた時にできる傷によく似ていた。


ここにいるのは、一角の悪『役』達であるからして、それぞれがそれぞれの業を背負っている。

しかし、片や悪『役』としての情報一つなく、テリアのこれまでの情報にも記載されていない。

故に、本人から直接聞いてみるしかないわけだが。



「何だか、面倒な事になりそうね……」


呟き、一つ息つくソトミ。

しかし口調とは裏腹に好奇心旺盛な、ワクワクした表情を浮かべていて……。



      (第4話につづく)








次回は、7月7日更新予定です。

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