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第27話、モブっぽいからこそ、基礎基本はしっかりできている




SIDE:キショウ


 


―――ヘッド・スクイーズ。


薄桜色のスライムの如きモンスター。

そんなモンスターの、何が初見殺しかと言うと。

その名前が示す通り、得物とする人型の頭のある位置を覚えていて。

得物を見つけると、かなりのスピードで頭に張り付こうとする事にある。


単純にしゃがんで向かい入れるように攻撃すれば回避はできるのだが。

いかんせん素早く、今回はたまたま一体だが、群れで行動する習性がある事にも気をつけなくてはならないだろう。


一応、それら最低限の情報があれば、有利に戦えるのは間違いないのだが。

ソトミは何事も経験よ、とばかりに口を出すことはなかった。

期待を込めて、ふところの中で見守るのみである。

師匠として名乗りを上げたが、そんな簡単に指導を受けられるほど安くないのよ、とでも言わんばかりで。



そんなソトミの思惑を知ってか知らずか。

案の定真っ先に浮かび向かってきたのは、一体の『ヘッド・スクイーズ』であった。

キショウの目前、帽子のつばの上あたりまでやってきていて。



「……っ!」


それは偶然か、あるいは必然か。

キショウはほとんど無意識のままにしゃがみこんでいた。

あるいは、それをかわそうと思ってとった咄嗟の行動だったのかもしれない。

しかし、桃色の空を飛ぶスライムめいたそいつは、ぐっと弧を描いてキショウの頭に取り付こうとする。



「うわっと」


キショウはそのモンスターの動きに驚き、慌てた様子を見せるも、意外と基礎はしっかりしている気がしなくもない剣捌きで、かち上げるようにしてショートソードを打ち据える。



バチュッ!!


その瞬間。

水の入った風船が溢れるような音がして、『ヘッド・スクイーズ』は四散する。



(一撃! ひゅう、やるじゃないっ)


見た目通りのゼリーのような身体よろしく、耐久はそれほどではないのだが。

しっかり命中させ、尚且つそれを咄嗟にやってみせた事に、やはり鍛錬はしっかりこなしていたようだと、思わず声を上げるソトミ。


そのまま、キショウの戦闘の邪魔にならぬようにと、ふところを飛び出すと。

それが後押しする形になったのか、キショウは返す刀で次の標的へと向かっていった。




次なる目標は、すぐ目前にいた。

フード・ゴブリン・シャーマン。

ソトミが思っていた以上の躊躇いのなさで、ようやっと反応しかけた、ゴブリンめがけて横薙ぎにショートソードを振るう。



「ギャァッ!?」


ソトミと同郷であるならば、幼い頃から魔物、モンスターに対する教育を受け、戦う心構えがあったのだろう。

人型のものを害する忌避感なども、特には感じられず。

その草茶けたフードをすくい上げる形で、露わになった緑色の頭部を両断してみせる。


またしても、一撃。

しかも、返り血諸々まで浴びずにかわして見せるスマートさ。

やはりS級、かどうかはともかくとして。


力を隠していたか……キショウとしてはこれがソトミの前で初めての戦闘であるからして、力を隠すもなにもないのだが……普段の虫も殺せなそうというか、大人しめで貧弱な子供のイメージが先行していたのがあったのかもしれない。



実際問題、ソトミが何か口出しする暇もなくキショウは。

剣を持った利き手とは逆の手のひらを突き出し、やはりソトミにとっては懐かしの初級基礎魔法を詠唱しだす。



「火の神カムラルよ! その熱気にて敵を討て! 【ファイア・カムラ】っ!!」



それは、ソトミやキショウの故郷において、大抵の人が扱える【カムラル】の攻撃魔法である。

突き出した手のひら前方向、180度程の範囲に熱波を浴びせるものだ。

その高さは、キショウの背丈ほどではあったが、それよりは小さな魔物たちを、キショウは間髪を置かず、慈悲も躊躇いもなく燃やし尽くさんとする。


人間でも、生身で受ければ大やけど必須のそれ。

残っていたフード・ゴブリン・シャーマンは、Cクラスモンスターの特徴を示すことのないまま、橙色の熱波に飲まれて。

そのダメージが一定量に達したらしく、煙を上げるエフェクトの後に跡形もなく消えてしまう。



これで、6体のうち4体は撃破した。

元より100%ではないが、4体が4体ともドロップアイテムを落とさないのは、果してキショウの運の悪さが原因なのか。

フード・ゴブリン・シャーマンが被っているボロ布の頭巾ならば、二束三文で買い取られるくらい頻繁に落とすのだが、それすら見当たらない。


別にお金を稼ぎドロップアイテムを集めるのが今回の目的ではなかったが。

今後の特訓や、いざ救うための世界の一つに向かった時に、冒険者ギルドなどで依頼を達成し、稼ぎを得ることに苦労するとなると問題ではある。


まぁ、その辺りを鍛えるのは、テリアやサマルェの領分であるからして、そちらに丸投げしよう。

ソトミはそんな事を思いつつも、しっぽを揺らしフロアの天井付近を見上げた。


その、草原を跳ね回るもの、という名前の通りに。

強靭な足のバネにより、キショウの魔法から逃れてみせた2体のグラスホッパーたちが、天井すれすれまで飛び上がりそのまま飛び上がった足ではない方……前足のギザギザした部分をもたげ、キショウに襲いかかろうとしているのが目に入ったからだ。


上よっ!

などと茶々を思わず入れかけたソトミであったが。

先ほどの魔法で仕留めきれなかった事は、キショウも理解していたらしい。


利き手のショートソードを構え直したかと思うと。

今度は逆の手に持ち、相手を冷静に迎え入れようとしているのが分かって……。



    (第28話につづく)










次回は、9月5日更新予定です。

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