第26話、翼持ちし女戦士が、永劫幾度となく相対したもの
とにもかくにも、基本いきなり踏破できる類のものではなく。
尚且つその人の持つ運が大きく左右するのが、この『No.001』のダンジョン、『異世界への寂蒔』。
主人公補正と呼ばれるスキルを持ってそうな割には、『運ラック』の低いキショウにとってみれば。
開幕でいきなり四方八方をモンスターに囲まれ、数歩動いただけでいわゆる詰み状態となるのは。
ある意味予測の範囲内ではあったのかもしれなかった。
「うわぁっ! も、モンスターがいっぱい!?」
モンスターハウスであったのならばこんなものじゃないわよ、とツッコミたいソトミであったが。
確かに始まった途端6体の魔物に囲まれているのは中々についていないわねと、内心でひとりごちるソトミ。
(しかも、初見殺しの『ヘッド・スクイーズ』までいるじゃない。キショウくんたら、ハードラック持ちなのかしら)
そう言えば、来歴なり『役』なりはしつこく調べようとしていたのに、キショウの基本スペックを詳らかにしていないのは失念だったと言えよう。
どうやら、強者の素養の一つとも言える、魂を転換できると言う点に注目しすぎていたのが災いしたようだ。
今度『鑑定』してもらわなくちゃ、なんてソトミは思いつつ。
それでも何語る事なく、気合を入れるかのようにもふもふの尻尾でキショウの背中を叩いて。
それが開戦の合図となった。
……先の述べた通り、キショウを囲むは6体のモンスター。
そのうちの三体が、『フード・ゴブリン・シャーマン』である。
この、『異世界への寂蒔』のダンジョンでは最弱のモブモンスターであるが。
何があっても怯まず前進してきて、身体能力向上の魔法、【カムラ・キッス】を使いつつ体当たりをかましてくる厄介なところがある。
それほど身体が大きくないので人間のすねを折ることに特化した、外世界で言うならば『Cランク-(マイナス)』のモンスターである。
お次に紹介するのは、『Cランク+(プラス)』のバッタ型モンスター、『グラスホッパー』だ。
略して『フーゴブ』と同じく人の頭くらいの大きさほどの、枯れ草色の虫タイプのモンスターであるが。
その名の通り跳躍力に長け、対象の遥か上空反対側(と言うか飛びすぎて制御ができない)までひとっ飛びな勢いで、これまた体当たりをしてくるモンスターである。
この基本の二種類だけならば。
こちらの攻撃に対する耐久もさほどではないので、上手くやり過ごせたかもしれないが。
問題は最後の一種……ソトミも思わず驚いた『Bランク+(プラス)』モンスター、『ヘッド・スクイーズ』であろう。
彼奴らの真の脅威は群れをなして行動する事ではあるのだが。
薄ピンク色のスライム……宙浮かぶくらげのようなそいつは。
ダンジョンの侵入者を発見するや否や大好物の果物でも見つけたかのように獲物の頭に覆い被さるようにして吸い付き、魔力、体力ごとその中身を吸い上げてしまうという、おいしそうな見た目とは裏腹に、まさに初見殺しの凶悪なモンスターだと言えた。
はたしてキショウはそんなモンスターたちにどういった身の振り方、対処をするのか。
ソトミは結局のところちゃっかりぎゅうぎゅうにキショウのふところに収まって。
お手並み拝見しましょう、とばかりにすっかり観戦モードに入っていて……。
(第27話につづく)
次回は、9月1日更新予定です。