第24話、ふところマスコットのお約束を突っつくものだから意識しちゃって
SIDE:ソトミ
つまるところ、元々勇者(主人公)候補だったのかもしれないキショウくんは。
ある意味、悪『役』としてここに来たみんなとは一味違うんだろう。
『主人公補正』……概念系のギフトであるからして、彼を中心に世界が回ることに、誰も違和感を持たない。
まぁ、これだけで英雄になれるかってのもまた別問題なんだけどさ。
「そう言えば今更過ぎてなんなんだけど、日替わり訓練でよかったの? 勝手にごり押しして決めちゃったけど」
「はい。もちろんです。おれは強くならなくちゃ……なりたいから」
「ほうほう、そりゃまたどうして?」
「え? どうして、ですか。えっと、あーっと。待ってください。なんでだろ? 今聞かれて思わず口に出ちゃったんですけど、何か理由があったような……すいません。まだ思い出せてないところに、それもあるみたいです」
何のために強さを求めるのか。
興味本意というか、師事するにあたって基本であることを質問すると。
キショウくんはそんな風に聞き返されるとは思わなかったとばかりに、驚いた顔をしてみせ、頭痛をこらえるみたいに考え込んでしまう。
思い出せないのに、咄嗟に『強くなりたい』って意志を示したのかぁ。
きっと、その忘れている記憶の中に、そう思わせる原因があるんだろう。
あくまで勇者候補止まりだったわけだし、勇者、英雄になれなかった過去が、キショウくんにはあるのかもしれなかった。
「なるほどなるほど。ま、聞いておいてなんだけど、強くなる理由なんて後からついてくるものよ。っていうか、ここに足を踏み入れた以上、世界を護り救う……究極的には『悲しみ』を滅するって使命が自然と芽生えるようになるからね」
それを、避けられぬ運命とも言うが。
いわゆるこの世には知らない方がいいこともある、というやつだろう。
「本当の英雄かぁ。なれるかなぁ。なりたいなぁ」
とにもかくにも、キショウくんにやる気はあるようだ。
生粋の悪『役』であるなら半ば強制的に更生しなくちゃいけないけど、そうでないならこっちのわがままを押し付けるの、申し訳ないからねぇ。
本人がその気なら、ガンガンいけるってものよ。
「なれるっていうか、なるための世界だからね、ここは。ビシバシいくわよぉ。まずはわたしのきびしーしごきに耐えられる気概があるか試させてもらうから」
「はいっ。よろしくお願いしますっ」
お互い気合充分な勢いのままに。
わたしはたどり着いたお気に入りの鉄扉を開け放つ。
そこには、まっすぐなのに先が見えないくらい暗闇が広がっていて……。
SIDEOUT
※ ※ ※
SIDE:キショウ
キショウがソトミに連れられやってきたのは。
取り敢えずキショウの記憶にもある、綺麗に削られた石造りの壁や天井に囲まれたワンフロア……正しくダンジョンと呼べる場所であった。
二人は、一見すると何もないフロアの真ん中にいるらしく。
四方に伸びる……恐らくは隣の部屋に向かえるのだろう道が見えて。
ただ、黒いカーテンがかかっているかのように、通常なら見えるはずのその先が見えなかったが。
「さて、早速だけどこのダンジョンを攻略してもらうから。とりあえず最初の目標は15階ね。そこまで行けば入口に戻ってこられるアイテムがあるから、気張ってちょうだいな。あ、ちなみにアイテム武器防具、食糧なんかは現地調達でお願いね。あと、基本わたしは手伝わないから。見てるだけっていうか、むしろ守るべき存在、みたいな?」
「ええと、それって、つまり……」
後からついてきて、見守る感じなのかなと、キショウが首を傾げていると。
ソトミはそんなわけで、とばかりにキショウとの間合いを取って。
何やら魔力を練り始めた。
その、月光のような魔力を目の当たりにして。
おれって魔力が見えるんだなぁと、少しずれたところでしみじみしていると。
正に変身のためのルーティンであるかのように、一回転して見せたかと思うと、煙やら星やら光やら、派手なエフェクトがかかって……。
しばらくして。
視界が開けたその先には、ソトミの髪を思わせるひまわり色の体毛……だけどその毛先だけ白い、大きなふわもこのしっぽを持ったキツネがそこにいた。
「キツネ? ……え? もしかして、ソトミさんですか?」
「そうだよ。どう? かわいいっしょ。庇護したくなるでしょ」
「ええと、確かにかわいいですけど、どうしてそんな姿に?」
「そうそう、もーっと褒めてもいいのよ! って、キショウくんってば。『ふところマスコット』知らないの?」
「は、はい。すみません」
「ダンジョンアタックには何の役にもたたないけれど、会話と一時の癒しを与える、ダンジョンにはありがちな必須マスコットじゃない」
「そうなんですか? 知らなかった。で、でも、懐ですか? 中に入るんですか?」
しっぽ一つとっても、キショウの腕より太いくらいだ。
まさか言葉通りではないだろうと思わず聞き返すと。
何故だかうっと言葉に詰まるソトミ。
始めから見ているだけのつもりなノリであったから、その事実をすっかり失念していたソトミである。
わざわざそんな事を言わなければ特に意識をせずに『ふところマスコット』としていられたかもしれないのに。
そんな言い方するもんだから、変に意識してしまったではないかと。
ソトミは内心で文句を言いつつも。
有無を言わさず、誤魔化すようにして。
キショウの左肩口後ろに飛び上がりつつ、とりあえずはポジションを確保して……。
(第25話につづく)
次回は、8月24日更新予定です。