第23話、世界を教えて回る事も忘れて、千回遊べるダンジョンへ
SIDE:ソトミ
「……助けた、ねぇ。結構以外かも」
というより、誰かと勘違いしてやしませんかね?
どこか熱に浮かされたようなキショウくんの言葉に。
そんな台詞も出てきてしまう。
今のテリアならば慈悲の女神を体現しちゃってるようなものだし、キショウくんの言い分も分かるのですが。
正直、彼女の第一印象は、感情を追い求めるキリングマシーンと言ってもよかったので、わたしは曖昧に首をかしげることしかできなかった。
……はっ。
もしや、テリアがキショウくんを避けようとしていたのは、そんな勘違いがあったからなのかな。
そうよ、なんでわたし、気づけなかったんだろう。
テリアは元人形……魔導人形に棲まう、スピリチュアルな存在で。
その人形にモデルがあったのだ。
わたしは、そのモデルを知っている。
少しばかりツンツンでキツめだけど、正義感の塊のような、凛々しい少女のことを。
つまるところ、人違い。
なのにテリアはそれを否定しなかった。
その理由は?
キショウくんをがっかりさせたくなかったから?
それもあるだろうけれど、多分ほかに大きな理由があるんだろう。
でなきゃあんな顔……泣き顔に近い顔をするはずがない。
「感謝するのもいいし、恩を返したいっていう気持ちは尊いものだけど、あまりそのことをテリアに言わない方がいいと思うわ」
「え? そうなんですか? どうして……」
「彼女、とっても恥ずかしがり屋なの。人に褒められたりするのも苦手だから。たぶんキショウくんに恩を売っただなんて思ってないんじゃないかな。だから、ほどほどにね?」
「あ、えっと……はい、わかりましたっ」
そんな可愛らしいテリアを想像したのか。
顔を赤くして頷いてみせるキショウくん。
……いや。なんていうか、あることないこと口にしちゃったい。
というより、部外者なわたしには、そんな風に誤魔化すことしかできなかったんだ。
軽い気持ちでテリアの卒業試験、だなんて口にしたけど、思っていた以上に大事になりそうではある。
最後の試練って意味ではあながち間違いじゃないのかもしれないけれど……。
故郷で、わたしとテリアが出会う前。
まだ悪『役』にどっぷり浸かってる頃のテリアとキショウくんとの出会い。
何か取り返しのつかない事態に陥る前に、知っておくべきなのかもしれない。
わたしは、そのことを創造主さまに追加でお伺いを立てることに決めて、気を取り直すようにしてキショウくんがここに来た本題を口にすることにする。
「さて、それはともかくとして、このわたし、ソトミ・ヴァーレストの授業、第一日目を始めるわよっ」
本当はまだ早いというか、お休みでおしゃべりとかこの世界の案内とかをするつもりだったのだけど。
気が変わっちゃったのよね。
テリアのために、キショウくんのことを、もっとよく知る必要がある。
勇者の資質を持ちながら、それが叶わずにここに来た理由も、身を持って知らなくちゃいけない。
「あ、お願いしますっ。まずは何をするんですかっ。何か必要なものはありますかっ」
「特にないわ。今度こそ、本格的なダンジョンに行くから。とりあえずついてきて。そこでキショウくんがどれだけできるのかを拝見させていただくわ。その後、何を教えるべきか組み立てていくから」
「ダンジョン、ですか。近くにあるんですか? それこそ、準備がいるんじゃあ」
「ええ。この建物内にあるわ。さっきも言ったように、持ち物はなしよ。着の身着のままね。何も持ち込めない……そう言うダンジョンだから」
「へぇ、そんなものもあるんですねぇ」
しみじみ、ふむふむと頷くキショウくんを見るに、やはり同じ故郷……しかも所謂剣と魔法の学校に通っていただけあって、ダンジョン自体の存在は知っているみたいだった。
そういう事なら話は早いと、サクサク執務室を出て目的のダンジョンへ向かうことにする。
リヴァイ・ヴァースに来て最初に放り込まれる部屋というかダンジョン、『役回想起』とは違い、文字通り本当で本格的なダンジョンであるそれは、わたしの城といってもいい異世界派遣冒険者ギルドの建物の、地下三階にある。
その名も、『No.001』ダンジョン……通称『異世への寂蒔』。
わたしが好んで使うダンジョン型の訓練施設のひとつで、日曜日担当なわたしの講義は、主にここを使って行われることになる予定だ。
実のところ、地下三階以降は(外にもいくつかあるけれど)、ここに来る元悪『役』、英雄候補の子たちのためにそれぞれの特性にあった訓練施設があったりする。
覚えていてよかった、建築魔法ってやつね。
ダンジョンクリエイトとも言うけれど、まぁとにかく日替わり師匠を持つこととなったキショウくんは。
それぞれが好きで得意な訓練施設と方法でビシバシ鍛えてもらえる、というわけなのだ。
「……って、そう言えば今更過ぎてなんなんだけど、日替わり訓練でよかったの? 勝手にごり押しして決めちゃったけど」
通常ルートでこの世界にやってきた新人悪役ならば、いきなり6人もの師匠(先生役)がつくなんてそもそもありえないだろう。
普通ならば、この世界の初級訓練施設でしばらく鍛えたあと、平和になった世界に仮派遣されて、そこで冒険者とか騎士、魔法使いの見習いとかになって、
日銭と所謂英雄ポイント的なものを貯めていく形になるわけなのに。
一見そうは見えないS級悪役だと思ってたからなぁ。
万が一というか、暴れたりとかしても抑えられるようにって、手持ち無沙汰だったみんなを集めたけれど、ちょっと大げさだったかなぁ。
うーん、でも、最初にそう思った時はそうなって当然っていうか、違和感はなかったんだよねぇ。
主人公補正ってやつなのだろうか。
これは、創造主さまから与えられるギフトのひとつなんだけど、わたしも含めて英雄寸前の今いるトップメンバーの誰もが持っていないレアなギフトだ。
まれに悪役であっても発現する人はいるようだけど。
ピカレスクもアンチもディストピアも創造主様ってばお嫌いのようで。
今の今まで見たことも聞いたこともなかったんだよねぇ……。
(第24話につづく)
次回は、8月21日更新予定です。