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第22話、その勘違いこそが、魂持ちし人の形にとって一番恐ろしいもので




SIDE:ソトミ




「う~ん。今まで盲目的に信じてる自分が言うのもなんだけど、本当かなぁ?」


ベッドに寝転がり、両手で掲げるようにして主さまからの返事を読み返しつつ。

わたしはそうひとりごちる。

何故かって、絶対関係あるだろうテリアのこと、ひとこともか書かれてないんだもの。



さっきは、どうしたらいいか分からない、心の準備が出来てないってはっきり分かる、まったくもってレアなテリアのリアクションと表情に免じて深くは突っ込まないまま話をまとめたけれど。

かつてはサマルェと争うくらい人形めいた……というか、人形そのものだったテリアがあんな顔をしたのだ。


サマンサが言っていたように、罰を受ける事をためらうタイプじゃないことくらいよく分かってる。

そんな、彼女の目に見えて分かる動揺。

根掘り葉掘り知りたいに決まってるのに、肝心な所が書かれてはいなかった。



まぁ、キショウくんの来歴を聞いただけだし、そこまでプライベートなことを聞けるわけじゃないんだけどさぁ。

こりゃ、知りたければ当事者たちに聞きなさいってことよね。


一応、テリアは同郷なのに。

どうしてその辺りの事情を知らないのかって?


何を言っても言い訳になっちゃうけれど、テリアが正しくもこの悪役更生世界、【リヴァイ・ヴァース】をわたしが創り上げるにあたっての初期メンバーであり、ここに来たのも同時だったからなのよね。


彼女がここに来るまで、わたしの故郷で悪さをしていたというか、悪『役』なのは知ってたんだけど。

それまでにどんな悪さをしていたのか、わたし自身にも事情があって、知るタイミングがなかったのよ。



実の所、一人で異世界へ行くのが寂しかったわたしが有無を言わさず無理矢理に力づくで連れてきちゃったのが彼女なのだ。

いわゆる決闘……バトって敗者は勝者の言うことを聞かなくちゃいけないよってやつを発動する形でね。



だから初めのしばらくは、つれない感じでいつもこの世界から出たがっていたけど。

『役』から解放されたのが大きかったのだろう。

今ではすっかり心を開いてくれて、なかったはずの表情も豊かになってきていて。



……多分、元々素養があったのだろう。

優しくておしとやかで、理想の女の子を体現してくれる彼女なら、聞けば教えてくれるとは思うんだけど。

正直、テリアがあんな顔をする理由、知りたくないて言えば嘘になるに決まってるけど。



わたしは我慢することにしたんだ。

テリアが自分から話してくれるようになるまで待っていようと思う。

それまでは、とりあえず師匠として週に一度は顔を合わせることは了承してくれたんだし、生暖かく見守っていよう。



まぁ、テリアに聞かなくてもキショウくんからは聞いちゃうんだけどね。

ごめんね、テリア。

わたしってば罪な女なの。



……なんてひとりごちつつ。

創造主さまへと繋がる日記帳に、今度また【リヴァイ・ヴァース】に足を運んでいただきたい旨をしたためて。(ただ、わたしが会いたいだけなんだけど)


再び日記帳を、【リヴァ】の魔法……『携帯虹泉』を使って送り届ける。




と。

ちょうどそんなタイミングだった。

ノックの音がしてキショウくんが現れたのは。






「失礼しますっ。ソトミさん、早速ご指導のほど、よろしくお願いしますっ」

「おはよう。キショウくん。何だか随分と張り切ってるのねぇ」


張り切っていると言うか、何だかキラキラして希望に満ち満ちているような気がするのは気のせいかしら。

初めて会った時も、暗いってわけじゃなかったけど、もう少し茫洋としていたような気がするのだけど。



「だって、ソトミさんって世界をいくつも救った英雄さんなんですよね? 世界一強いって聞きましたよ? そんな人の弟子になれるなんて最高じゃないですかっ!」

「藪から棒に何よぅ。誰からそんなことを?」

「サマルェさんとか、カイ君も言ってましたよ。クルベさんもその通りだなって」


そ、そんなわけないじゃないのぅっ。

世界一、だなんてっ!

褒めたって何も出ないんだからねっ!


っていうか、強さで褒められてもねぇ。

そんな心中とは裏腹にニヨニヨが止められないでいると。

それに、とばかりにキショウくんが尚も続ける。



「それに、命の恩人の彼女にも教えてもらえるんでしょう? 恩に報いるためにも、強くならなくっちゃ」

「んん? 命の恩人? それってもしかしなくてもテリアのこと?」

「ああ、彼女、テリアさんって言うんですか。そうなんです。おれ、会った瞬間思い出したんですよ。死ぬような目にあって、苦しくて、何かを失って、ぽっかり穴が空いたようになっていたおれを、彼女が抱きしめてくれたんです。絶望から掬い上げてもらったんです。……何に絶望していたのかは、まだ思い出してはいないんですけどね」




テリアが、『あんな顔』をしていた理由。

間接的に、キショウくんから聞き出そうと思ったら。


彼の方から話してくれたのは。

私が思い描き予想していたものとは、大分ズレたもののようで……。




      (第23話につづく)









次回は、8月19日更新予定です。

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