第2話、従うままやってきたのは、異世界へ派遣されるらしい冒険者ギルド
それから。
手を引かれる勢いでキショウが案内されたのは。
『リヴァイ・ヴァース』の世界の中心にしてそのものでもある、丘に作られた住宅街……そのてっぺんに建てられた、キショウが見渡した限り一番大きな建物だった。
一言で表せば、赤茶けた煉瓦のお城と見まごう程の大きなお屋敷。
しかし、個人の建物と言うよりは、この世界の公共の建物なのか、ひっきりなしに人が行き来している。
ソトミによれば、この建物もわたしのもの、らしい。
「ソトミさんすごい。お姫様みたいだね」
「なっ。そ、そんな。あからさまに持ち上げたからって簡単に靡くような女じゃ……って、本気!? 本気で言ってる?」
「え? う、うん」
そんな事で嘘をついてどうするのか、とでも言わんばかりに首を傾げるキショウ。
単純に褒められる事に慣れていないソトミは、まずはこちらを動揺させるジャブなのね、とばかりに警戒を深くする。
ある意味最上級の褒め言葉に嬉しくならないわけはなかったが。
実際の所ニュアンスは少しばかりずれていた。
キショウとしては、すれ違う人すれ違う様々な種族に注目され、親しげに挨拶され、ついでにキショウにも挨拶が来るのを目の当たりにし、なんていうか至極あっさり自身の記憶の一部を思い出したのだ。
よその国からキショウが通う学校にやってきた、とても綺麗なお姫様。
親しげに人々と触れ合っている。
人々の中には、お姫様に対する好意だけでなく、尊敬や憧れの気持ちがあって。
ソトミも、この世界の人に好かれ尊敬されているのが分かったから。
自然とそんな言葉が出てきたわけだけど。
「いいわ。今日の夕食、デザート一つおまけしてあげる」
「え、えっと。ありがとうございます」
どうして夕御飯の話になるのかキショウには見当もつかなかったが。
悪い話じゃないので取り敢えず頷いておく事にしたようだ。
ますます、お互いのズレが加速していくのを、やっぱりお互いが気づかないままで。
※
何だか少しばかり駆け足になったソトミに連れられて。
辿り着いたのはお屋敷で一番高くて眺めのいい所……『所長室』などと書かれた部屋だった。
ソトミは自分の事をこの世界の管理者と呼んでいたが、何らかの所長さんでもあるらしい。
文字が読める事に違和感を覚えず、キショウはそんな事を考えていたが。
両開きのチョコレートブロックのようなでこぼこのついた扉の向こうには、これ見よがしにでんと大きな机があった。
ソトミは、そこまで長くしなくてもいいんじゃ、なんてキショウが思うくらい背もたれの長い椅子に座ると。
そのまま向き直りキショウを対面に置かれた椅子(逆にこちらは四足の丸椅子で小さい)に促した。
「改めまして、『リヴァイ・ヴァース』の管理者にしてこの異世界派遣冒険者ギルド所長の、ソトミ・ヴァーレストよ。早速、登録の手続きをしましょうか」
本来ならば、その登録にはここへ連れてこられた、やって来た時点でほぼ強制であり。
その登録もその後の手続きも一階のロビー受付で行われるのだが。
本人も分からないままに、気づけば迷い込んでしまったキショウは、やはり特別扱いされていたと言えよう。
それが良かったのかどうかは、それこそ神のみぞ知る、だろうが。
「ギルド? 登録……え? おれ冒険者になれるんです?」
降って湧いてきたのは、年齢制限により叶わなかった、そんな記憶。
嬉しそうに勢い込むその様は、純粋に憧れからくるものだったが。
既に最上(S)級の『悪役』だと思われていたため、当然臆面通りには受け止められない。
「まぁ、初めはこの世界のこのわたしが手づから作った楽しい施設で適正を図らせてもらうけどね。冒険に出られるようになっても、同行者をつけるから」
他の世界に行って好き勝手悪役されても問題なので、最上級の監視役を付けましょう。
ソトミの言葉には、そんな意味合いが含まれていたが、当然キショウは言葉そのままに裏があるなど気づきもせずに受け取るだけである。
「おぉ、すごい。ほんものっぽい。じゃあそれでお願いしますっ」
「受けて立つってわけね。いいでしょう。それじゃ詳しく説明するわね」
白々しくすれ違いつつも繋がる会話。
お互いの内心は裏腹に。
ソトミはこの世界、悪役更生世界兼、異世界派遣冒険者ギルドについての解説を始めるのだった……。
(第3話につづく)
次回は、7月6日更新予定です。