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第17話、存在していた事を忘れられていたくらいに、影に潜むのか





立場もキャリアも違うのだから当然ではあるのだが。

サマルェの自室らしいこの部屋は、キショウに宛てがわれた未だに客室な部屋に比べ、倍近くの広さがあった。


キショウとしてはその事に気づくべくもなかったが、それより何よりいかにもなドールハウス的内装に目を引かれそうになり、入室前の言葉を思い出して慌てて自重する。



勝手知ったる妹の部屋だからなのか、お茶を用意してくるからと奥へ引っ込んでいってしまったソトミを尻目に、部屋の中心にあるソファ付きテーブルへと対面で座る事になったキショウとサマルェ。


何せ部屋を見回したり物色したりできないのだから、キショウはふんぞり返っているわけでもないのにどこか偉そうに見えてかえった微笑ましいサマルェを見つめる事にする。



「【変形化】っていうのはどんな魔法なんですか?」

「あによ薮から棒に。そんな簡単に自分のことをくっちゃべるほど安くないわ。……でもまぁ、トーシロっぽいあんたにもわかるように言えば、あたしは魔力を元に人やものに変われるの。魔力の残滓さえ残っていれば隠しても忘れても無駄よ」


癖なのか、無意識によるものなのか。

そう言ってしっかり説明した上で下から覗き込むような仕草をするサマルェ。



「へぇ、すごいなー。『夜を駆けるもの』みたいだ」


【変形化】の全てを理解したわけではないだろうが、素直に凄いとのたまうキショウに、サマルェの悪辣な仮面もさすがに緩んでしまう。


しかも言うに事欠いて『夜を駆けるもの』ときた。

サマルェの故郷はソトミやキショウとは違うのだが、サマルェはその名をよく知っていた。

悪『役』の時に関わった人物でもあり、ある意味今の病と言うか、サマルェそのものをはっきりと形にした尊敬に値する人物なのである。


ソトミがここにいて話を聞いていたら、相手の弱点と言うか打てば響く所をよくわかっている、この人たらしめと肩をいからせた事だろう。




「そんなに褒めてもソトミ姉さまの淹れたお茶しか出ないわよ。……いや、そんな事よりあんた、『夜を駆けるもの』を知っているの?」

「え? ……あ、うん。話してたら急に思い出したんだけど、夜にしか現れない正義の怪人でしょう? かっこいいよね。今思えば、憧れてたんだろうなぁ」



昔を……つぎはぎだらけとはいえ過去を思い出したからなのか、キショウの口調も少しばかりくだけたものになっていた。




本物に会った事があると口にしたらどんな顔をするだろうか、なんて思いながらも。

どうしてあたしがショタなんぞに自慢話しなきゃならんのかと内心でサマルェがツッコミを入れていると。

そこにお待たせ、とばかりにソトミがやってきた。



「まーたやってる! そんなみだりに顔を突き合わすのはやめなさいっての!」


ちゅーしちゃったらどうするの!?

そんな風に顔を赤くしているのはソトミばかりで当の二人はそんな感覚など微塵もないわけで。

二人はあっさりと離れ、ソトミの淹れたという紅茶とスコーンに注目していた。



「デザートおごるって言ったのに夕飯来なかったからね。その代わりってわけじゃないけど」

「おぉ……何か初めて見るやつだ。おいしそー」

「わざわざすいません、お姉さま」


故郷でも兄妹たちに作ったりしていたので、ソトミにとってみれば馴染みのものなのだが。

忘れているというより、本当にキショウには縁がなかったらしい。


ソトミは気づいていないが、そもそも故郷でも身分が違うのだ。

意識的には、それによる差別の印象は薄かった世界ではあるが、どこにでも格差というものはあるらしい。



「……おふ、うま、うまっ」

「ちょっと、もう少しありがたがって食べなさいよ」


口調も顔もきついのに、何故か感じるのはソトミがいない間に結構距離が縮まった気がしなくもない二人。



(カイやクルベに対してもそっけないってのに、やっぱり侮れないわね)


悪かどうかはともかく。

どうも物語であるなら、目立てそうなポジションにいられそうなポテンシャルは持っているらしい。


故に、それどころか神にど忘れされた結果ここに居るなどとは、到底思えるべくもなく。

勘違いは加速したまま、これは早くやることやって離さなくてはと紅茶に一口付けて、ソトミはサマルェに先を促した。



「ええと、そうね。とりあえずあんた、利き手を出しなさいな」

「うんと、はい」


迷わず、逆にどこか楽しげに右手をテーブルの上に手を置くキショウ。



「手のひらを上」

「あ、うん」


言われるがままにひっくり返すと、すかさずサマルェの小さな柔らかい手が重ねられた。

ここに連れてきた目的であるからして、その行為にどんな意味があるのかもソトミがわかっていたのだが。

それでもあっと声を上げてしまったのは、方や不遜に、一方は穏やかに仲睦まじく手を握り合っているように見えたからなのかもしれない。


一体どちらに対して嫉妬しているのやら。

それも分からないままにソトミがそこへ介入するよりも早く。



「いたっ」


びくりとなってサマルェから飛び上がるようにして手を放すキショウ。

よくよく見ると、サマルェの手の内側には、ハート型のビンに入った鈍色の液体が入れられていた。

ハートの先は尖っていて、注射器のごとく水が滴っている。



「マジックポーション。それも魂を具現化するタイプね」

「まぁ、そんな大それたものではないんですけどね。よくある変化の術の、薬バージョンだと思ってくれればいいわ。持続性はないけど、すぐに効果が現れるのは利点ね」



マジックポーション。

正確にはリバースが語尾につくものである。

戦闘において、マジックアイテムを使役し、補佐に特化したサマルェの秀でた力の一つ。


説明もなしにいきなりなのは、構える……身体が準備すると効きにくいからという理由があったが。

見た目以上に、身体の中を何かが這い回る痛さに、キショウは何も言えないでいた。




「本来は、先祖や複数人格の一つをピックアップしてその姿を取るとともに能力が使えるものなんだけど。例えば……何か他の魂が潜んでいるのを、暴くのにも使えるのよ」



あるいはテリアがキショウに対して何かに気づいていたように。

サマルェにはキショウの中に潜むものに気づいていたようで。


やはりカイ達の言う通り、キショウの中に本当の悪『役』がいるのかとソトミが思った時には。


キショウに劇的な変化が訪れていて……。



     (第18話につづく)









次回は、8月3日更新予定です。

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