表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/86

第16話、どこかで聞いたことのある『もう一人の自分』と、男嫌いのドール




気づけば、迷い込んでしまっていた夢の世界。

何故かテンションが上がりっ放しの、だけどついてきなさいと言ってから一度もキショウを見ようともしないソトミの、これまた夢らしいひまわり色の長い髪に目を奪われつつも。


キショウはさっきまでの事を考えていた。





真っ白一色で、だけど分かる、どこまでも続く奥行きのある世界。

正しく転生前に遣わされる神との対面所のようで。

キショウが気になったのは、何故そのような事を体験したかのように知っていたのか、という事であった。


実際、ここに来るにあたって同じような事を体験したのか。

あるいはそんな寝物語を読んだ事があったのか。

キショウとしては、ツギハギだらけとはいえ思い出してきている記憶から判断するに、後者はあり得なさそうだったので、やはり同じ体験をしてきたのだろうと納得していたが。



だとするなら、キショウはなんのためにここに来たのだろう?

前日からのこの世界の人々の話を聞くに、ここは悪事を働いた者の更生施設のようなもので。

キショウ自身そう思われているからして、未だに思い出せない記憶の中に犯した罪があるのかもしれなかった。



(二重人格、かぁ……)


悪役だなんて勘違いだと断じていたキショウに対し、何の気なしに漏らしたカイの言葉。

そんなはずはないと、否定する事はできなかった。


そう言われて意識したせいなのか、自分の……魂の居場所とでも言えばいいのか。

そんな懐部分にキショウとは別の何かが在るような気がしてならなくなったのだ。



しかしそれは、どうやら一つではなさそうで。

彼らと対話する事。会う事、あるいは分かつ事。

それが、ここに来た目的なのではないかと、考えるようになっていて。


その事を話そうと思うのに、ソトミは今そんな余裕がなさそうで。




(ソトミさん、一体何を見たんだろう)


キショウは真っ白い空間でうろうろしていただけなのだが。

その下の階の映像を映し出した魔導機械のある場所では、それこそ人により脚色されたがごとく視えるものが違ったらしい。


本来なら、キショウが過去でしでかした事を暴くための、いささか趣味の悪いものだったらしいのだが。

この世界の先輩……師匠先生方の話を聞くに、どうやら違ったようで。

一言で言えば、これから師匠となる、それぞれの目標とする未来の一つが見えたようで。




(そんな風に期待されてるってことなのかな)


キショウ自身からお願いしたわけでもないのだけど。

そう思われるのは、申し訳なさより嬉しさが勝っていたのは確かで。

成り行き任せでも、それに応えたいという気持ちは確かにあって。



(とにかく、頑張ろう)


長らくそう言う立場にいたらしく、教わる事に喜びを感じていると。

まだ会ってないもう二人の師匠のうちのひとりの部屋……自室か、あるいは研究室か……そう思われる場所へと辿りついた。


キショウとしては、科目的なものごとに先生が違うのだと認識していた。

それはまさに、教科担当みたいなもので。

その指導を一心に受ける事など、夢にも思ってなかったわけだが。



そこは、僅かばかり天井が低くなった気がしなくもない地下で。

微かに香る薬めいた何かの匂いが、どこか緊張感を与えていて。



「サマルェ? いるんでしょ。お邪魔するわよ~」


掛け声とともに、ソトミは鉄めいた所の脇にあった、四角いボタンを押し込む。

途端、オークのような鳴き声が轟き、中から微かに返事が返ってくる。


当然ではあるが、キショウにとって聞いた事のない女の子の声。

やがて鉄扉特有の軋みとともに現れたのは、赤く瑞々しい苺の如き濃い赤の髪を後ろポニーテールにまとめた、キショウと同じくらいの年齢だろう少女であった。



しかし、ぶかぶかの白衣や、薬以外の様々な甘い香りに戸惑うよりも早く。

顔を合わすや否や、キッと不倶戴天の敵でも見るかのように、同じく赤く透き通った瞳で睨みつけられる。



「なんですか、お姉さま。あたしは弟子を取らないっていったでしょ。あたしに弟子を取らせるならお姉さまやテリア姉さまクラスの美幼女じゃなくちゃ」



男なんぞくそくらえ。

吐き捨てるようにそう言い、キショウから視線を逸らし踵を返そうとして。

しかし何かに気づいたかのようにキショウを二度見する。



「……ん? ちょっとまておい。ショタっ子、男の娘なの?」


それまでソトミに対しては澄ました口調だったのに、キショウをロックオンした途端、随分乱暴というか、何と話に馴染みのあるものへと変わった。

そのまま下から覗き込むように近づいてきて、瞳の奥を覗き込む仕草をしてきたからたまらない。


キショウよりも頭一つ分は小さく、無表情ではないものの、敢えて作ったかのような悪辣めいた笑顔が張り付いているので、テリアとはまたタイプの違う、アクティブでちょっと危険な人形を想起させた。



もちろんそれは、狙ってやっているわけで。

見た目通りの年頃の少年ならば狼狽えて慌てふためく所なのだが。

色々な意味をもって未だ子供であるキショウにしてみれば、嫌われているのかと思ったらそうでもなさそうな所に驚きはしたものの、特に引く事なくサマルェと呼ばれた少女を見下ろしていた。


キショウからすれば、いきなり気配もなしに後ろから急接近してきたソトミという前例があったので、慣れもあったというべきなのかもしれないが。

むしろソトミにも引けを取らない凄く可愛い娘だけど、勇者(英雄)になる事を教えてくれる先生にはこんな小さな子もいるのかと感心していたくらいで。



傍からふたりの様子を見る事となったソトミにしてみれば、随分と至近距離での開幕見つめ合いである。

もう一人の妹分への想いなのか、信望する創造主の迫る(あくまでソトミ判断)、気になるルーキーに対してのものなのか。


よく分からないままにソトミは二人の間に割って入るように……実際抱きしめるようにしてサマルェを離していた。



「ちょっとちょっと、態度一瞬で変わりすぎよっ。とにかくあいさつっ。この娘はサマルェ。主にマジックアイテムなどを使った補助魔法の得意な子よ」

「あ、そうなんですか。よろしくですっ、キショウです」



得意なものはわかりません。

視線を外さないまま、臆面もなくそう言ってのけるキショウに、なるほどソトミ姉さまが気にかけるだけはあると思ったかどうかは定かではないが。

改めてそんなキショウ……正確には彼を形作るもの……身体、魂、魔力を俯瞰し看破してみせたサマルェは。やはりな、と内心で自分を納得させていた。



それも、実力を隠すS級悪役たる所以なのか。

サマルェは、キショウに対して野郎どもに対しての嫌悪を覚える事がなかった。


それは、サマルェにとって生まれついての『役』にも絡む病みたいなものなのだが。

女性は愛するもの、男は排除するものという観念があって、それに乗じて男女の魂や魔力まで見分けられるようになっていたのだ。


魂の事に関して言えば、感覚的に姉同然なテリアの方が上ではあるが。

魔力の方では確かにキショウの中に、キショウという少年以外の別のものを感じ取っていた。




「よろしくしてあげるかどうかは、変化の状況次第ね。あんたのタイプは何? レスト族の身体、魂変換? 憑依転生型? それとも自作創造型かしら」



ソトミ自身、カイ達から別人格(役)があるようだという事は聞いていたが。

ある意味ソトミの想定通り、サマルェはキショウが知らない分からないとシラを切る? 所謂『もう一人の自分』といった、テンプレな『役』について気づいたようであった。


またしてもまくしたてられ詰め寄られているキショウは、ただただ首を傾げるばかりであったが。

この際、本当のところはどうなのかを確認してしまおう、なんてソトミは考えていて。




「サマルェはね、特に変形化シェイプシフトの魔法が好きなのよ。ちょっと調べてもらえばあなたの心に潜む『役』が分かるんじゃないかしら」


立ち話もなんだから。

ソトミの言葉にはそんな意味も含まれていただろう。



「あんまり部屋をジロジロ見ない。詮索しない。物色しない。以上の条件を考慮に入れて、入るといいわ」

「あ、は、はい。お邪魔します」



言われるままキショウは頷き、へこへこしながら二人の後についてゆく。


内心では、自分の中に誰かがいるだなんて信じられなかったが。

何ていうか言われるがままに従う今の感覚に、なんとなく覚えがあったのは確かで……。



      (第17話につづく)









次回は8月1日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ