第15話、こんな無意識人たらしが、モブキャラであるはずがない
――ソトミ視点
「あ、あれ? 戻ってきちゃった」
「ショウくん、おかえり~」
「え? あ、うん。ただいまです。……えっと、上には白いのが広がってて特に何もなかったんですけど、あれが試練だったんですか?」
早足で降りてきたキショウくんは、カイとの挨拶を律儀にしつつも、何だか戸惑っている様子。
どうやら、見てる方はそれぞれ違ったって言うのに、当のキショウくんは何も始まらず起こらず、だったようで。
あんな夢か妄想かもつかないモノを共有されなくてよかったと安堵する一方で。
いよいよもってキショウくんの人となりと言うか、来歴が気になってくる。
「そうよっ。この上はここの住人が必ず足を踏み入れる、言わば懺悔の間なの。ここであなたが【リヴァイ・ヴァース】に来るきっかけとなった、悪『役』の来歴を知る事ができるのよ」
「でも、実際ぼうやの『役』は見えなかった……いえ、もしかしたら過去に該当するものがなかったから、未来の可能性の一つを示した?」
ついさっき、カイやクルベが言っていた別人格の事を考えなければ。
サマンサが言うようにキショウくんは悪『役』でもなんでもなくて。
創造主様の目すらすり抜け、この世界に入り込んでしまった……無関係な一般人、かどうかは分からないけど、少なくとも悪『役』ではない、と言う事になってしまう。
「あ、ほんとだ。これ、上の部屋ですよね」
まさか創造主さまがそんなミスを?
いやでも、ミスじゃないとするなら、キショウくんが役を持たずにここに来た意味があるとするなら、日記の返事を待てばいいわけけどさぁ。
一日たっても、返事来ないのよね、もう。もどかしいったらありゃしない。
……こんな事、今までなかったのに。
なんて心うちの懊悩に気づく事もなく、キショウくんはのんきにテレビの画面を興味深そうに見つめている。
う~む。こうなったら前言撤回すぎて悪いけど、やっぱりテリアとサマルェに会わせてみるべきかしら。
テリアがキショウくんの事を知っているいない以前に、二人共人の心に入り込んだり、模倣したりできる能力を有してるから、真実を顕にするにはもってこいなのだ。
まぁ、あんまり気持ちよいものじゃないし、二人がうんと言ってくれるかどうかも微妙なんだけど。
「……それで、結局どう判断すべきなんだ? 次の段階に進むのならば、予定を立てる必要があるだろう?」
「いきなりみんなでいっせいにしょーくんを鍛えるわけにはいかないもんねぇ。ボクは土日以外ならいつでもいいヨ」
そんな事を考えていると、当然始まりの試練は突破でしょう、とばかりにこの先これからのことを始めてしまう二人。
創造主さまの返事を待つ気などさらさらないようだ。
……うぬぬ。考えなしと言うかせっかちと言うか、人の事言えないのかもしれないけど。
楽しげにあやしげにそんなやり取りを見守っているサマンサを含めて、みんなでキショウくんを弟子にする事、異論はないみたいだった。
まぁ、生まれてこの方、『守ってみせる』なんて言われた事なかったしねぇ。
それがどれだけ妄想めいていても、期待しちゃってる自分も確かにいるわけでして。
「ほんとは保留にしときたいんだけどね、ま、なるようになるか。予定立てるのはいいけど、フォルトナやサマルェにも話通さなくちゃ」
「あ、えと。フォルトナさんには会いましたよ。いろいろ教えてもらえるみたいです」
「ひゅー。あねごをもう落としたってのかい? さすがしょーくん、手がはやいネー」
「?」
確かにいつの間にあの巌のような……今まで一度たりとも弟子を取った事のなかった女傑を口説くとは驚きだよね。
テリアの事といい、あの夢みたいなのの事といい、見た目によらず主人公属性の肉食系なのかしらん。
そう思っていると。
なんのこと、なんて首を傾げてるその様子が、あざとく見えてくるから不思議なもので。
「よし。んじゃサマンサ、がっこの週刊予定表みたいなやつよろしくー。スケジュール組んどいてくれない? で、キショウくんはわたしについてきて、他の師匠達にも顔見せしとかなくちゃならないから」
「あ、はいっ」
とは言え、男嫌いの偏屈ものが会ってくれるかどうかなんだけど。
それでも何かにつけてもわたしの計算を外そうとしてくるキショウくんなら、思いもよらぬ展開が待っているのかもしれない。
そんな風に早くもわたしはキショウくんに対して、根拠のない『面白いこと』の期待をしてしまってるのでした……。
SIDEOUT
(第16話につづく)
次回は、7月30日更新予定です。