第14話、きっとそれぞれが、彼の主人公たる片鱗を垣間見て
―――ソトミ視点
「……はっ」
わたしとしたことが、あまりに予想だにしていなかった光景だったものだから、混乱して意識が飛んじゃってたみたい。
っていうかなんなの!?
そのお姿どころかその声を聞く事だってほとんどなかったわたし達創造主さまに相対してお話してるだけでも羨ましすぎるのに、言うに事欠いて刃を交えるですって!?
しっ、しかもわたしのために?
え、え? だってキショウくんの運命の人的ヒロインはテリアじゃなかったって言うの?
しかもあれってどう見たって過去の映像じゃないじゃない!
悪役になったきっかけを探りのぞき見するつもりだったってのに、どう言う事?
よくよく思い出してみれば、キショウくんは成長していたし、あれは未来の映像?
百歩譲ってそうだったとしても、あのシーンが悪『役』になるトリガーだとでも言いたい訳?
わたしたちの神様と対する事が?
わ、わたしのためみたいだけど、そんな馬鹿な事が……。
た、確かに創造主さまに牙を向けるなら、悪役としては十分すぎるかもしれないけど。
かと言って久しぶりに聞いた主さまの声、なんだか楽しそうだったし。
はっ。そうか、そうなのね。
きっと、キショウくんの卒業試験か何かなのよ。
我が娘、ソトミ・ヴァーレストが欲しくば我を打ち破ってみよ、的な?
って、なな何自分で言っちゃってんの!
だからキショウくんにはテリアがいるって言ってるでしょ!
……まぁ、わたしの妄想に近くで、お互いに確認したわけでもないんだけどさぁ。
「……ソトミ、ソトミさんってば!」
「わ、わひゃいっ!?」
そこまで暴走しかけたところで、サマンサに肩を揺さぶられ声をかけられ、わたしは再び我に返る。
返ると同時に、サマンサだけでなくカイやクルベにも今のを見られていたのかと思うと、ワーッとなって、逃げ出したい気分になったけれど。
「いや~。びっくりだね。いつも過去の事ばかりだったケド、あれってこれから起こるかもしれないことなのかなぁ。まさかボクがTS分裂してしょーくんとあんなことになるとはねぇ」
「……ん? なんだ、もしかして私と見ている内容が異なっていたのか。そう言う場合もあるのだな」
「え? そうなん? んじゃ、ルベ兄のはどんなのだった?」
「私が一角の童話作家となって、彼がその主人公のモデルとなる話だったな」
かと思ったら、どうやらそれぞれ見させられたものが大分違うらしい。
少なくとも、過去ではないし、悪役になった理由ってわけでもなさそうだけど。
おかしいなぁ。壊れちゃったのかな。
思えば最初からおかしかったのよね。
役になったきっかけがないならともかく、あんな何もない真っ白な部屋に行くはずないんだけど。
……やっぱり、キショウくんの記憶喪失に原因があったりするんだろうか。
そんな事を思いつつ、サマンサはどうだったのかって聞こうとしたら、今度はサマンサの方が難しい顔して考え込んでいる。
「随分怖い顔してるけど、そんなに内容ひどかったの?」
「……え? あ、そんな事はないわ。まさか生き別れの娘に会えるとは思わなかったけど」
そう、サマンサは比較的若い子達が多いこの世界の中で、お母さん的ポジションなのだ。
悪役になる前に、子供もいたらしい。
全然会ってないって聞いたけど、まるでキショウくんが導いてくれたみたいな言い方ね。
やっぱり、彼を知る夢って感じじゃないわね。
むしろ、その逆のようにも見えて。
「けど?」
「やっぱり私、あの子とどこかで会った事があるような気がするのよね」
先を促すと、そのままやっぱり考え込んじゃうサマンサ。
まぁ、時代がちょっと違うとは言えど、サマンサやクルベはわたしと同郷なのだから、キショウくんのことを見た事のある可能性、ないわけじゃないと思うんだけど。
そうなってくると不思議なのは、このわたしが覚えてないって事なのよねー。
それこそ創造主さまがど忘れしない限り、ありえないはずなんだけど。
一瞬、だからああして二人は刃を交える事になったのか、なんて益体もない考えが浮かんだけど。
「それでそれで? ソトミちゃんはどんなのだったの? 何だか凄く百面相してたケド」
……んもう。スルーできるとおもったのにぃ!
ポーカーフェイスを保とうとして、できないでいるわたし。
それを面白がったのか、是非に聞かせろ、とばかりに詰め寄ってくる三者三様。
はてさて、どうやって逃げるべきかと考えていると。
救いの手っていうか、当の本人が二階から戻ってくる気配して……。
(第15話につづく)
次回は、7月27日更新予定です。