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第12話、始まりの試練だって聞いていたのに、そこは異世界転移にて訪れる始まりの場所か



入門の試練……ダンジョンナンバー『000』、通称『役回想起』。


それは、その名の通り丘の麓、キショウが降り立った場所から程近くにあった。

一見すると周りとの違和感のない小さな一軒家。

少なくとも、まっとうなダンジョンには見えない。



キショウの入門試験との事だったが。

その場にはソトミだけでなく、暇つぶしにきたと何故か言い訳しているカイに、難しい顔をしつつもしっかり付いてきたクルベ、そしてどこか心配げな視線を向けてくるサマンサがいた。




みんなで強くなるための術を教えてくれる、と言うのはどうやら本当だったらしい。

キショウは、雁首揃えて引率してくれる師匠、先生達に対し単純に嬉しい気持ちでいたわけだが。




「さっきも言ったけどこの試練はひとりひとりのものだから。挑むのはキショウくん一人よ。ダンジョンと言うか、キショウくんの心象をもとにした世界がこの先に広がってるの。……一応命を落とすような危険にはないけれど、キショウくんが自ら封じ忘れているかもしれない記憶に抵触する可能性は充分にあるわ」




そこまで言ってソトミが指し示したのは、二階へ続くであろう階段。

ごく普通の、少なくともソトミが今口にしたようなダンジョンやら試練やらが待っているようには見えない。


しばらく上がると右に折れていてその先は見えないわけだが、突き当たりの背の高い所には窓があって暖かそうな陽光が差し込んでいるからだ。




「挑戦するかしないかはぼうやしだいよ。辛い記憶を無理に思い出す必要はない。どうせこちらの目的は興味本意なのだから」

「ちょ、ちょっと。ここまで来といてなんなのよ、サマンサったら。確かにそう言う部分もなくはないけど、これは必要な事なんだからね」

「……まぁ、急ぐ必要が感じられないのは確かだが」

「ボクはどっちでもいいよ~。しょーくんの事知りたくはあるけドモ」



どうやら、詳しい話を聞くに、階段脇にある居間らしき場所にて、試練を受ける者の様子をつぶさに観察出来る仕様になっているらしい。

親切に教えてくれるサマンサに、それはオフレコでしょう~と詰め寄って眉をハの字にするソトミ。


やっぱりその様はここで一番偉い人には見えない。

ただ、仲の良さと、微塵も感じられない悪役っぷりだけが伝わって来る。



キショウはその事に思わず笑みをこぼしつつ、居間を覗いてみた。

ソファやら四角い布団掛け付きの机やら、そこが居間であろうことがキショウにも分かる一室。


夜の帳を湛えた四角い窓のようなものが、きっと試験を受ける者が見られる魔道具なのだろう。

ちょっと見てみたい気もしたが、それより何より今日はその試験を受ける側なのだ。


できたたほやほやの先生達の、それぞれの思惑はともかくとして。

今キショウの心を占めるのは冒険めいたこれからのわくわくであった。

どうやら、正しくも年頃の少年らしく、そういった類のものが好きらしい。



悪『役』を背負う事になったきっかけを体験し思い出し、乗り越える事を目的にしているという『役回想起』と言う名のダンジョン。

思い出した記憶の中に、そうなるだろうものはなかったし、悪『役』であった自覚のないキショウにとって、それはどうしても躊躇い、怖がるものになるはずもなく。




「うん。とりあえずおれ、行ってくるよ」


持ち物なども必要なく、着の身着のままでいいとの事なので、

トントンと軽い音を立てて階段をかけてゆくキショウ。



「あ、ちょっと。もう行くのっ?」


どこか慌てた様子のソトミの声が聞こえてきたが、それに気づき振り返る間もなく。






「……えっ? わわ、わぁっ」


直前まで確かに見えていた右に曲がるための踊り場は。

木造りらしき感触を一切伝える事なく、キショウの踏み込んだ足をすっぽり飲み込んでいって……。







「ぅわぁぁ……あ?」


気が付けばキショウは、どことも知れぬ場所……ではなく。

何もない、眩しいくらい白いのに、だけど目を開けていられる、そんな空間に立っていた。




(……えっと、もう始まってるのかな)


上下左右、距離感すら分からなくなってくる、一面の白。

半ば呆然と呟くキショウの声も、響く事なく辺りの白に吸収されていく。


ソトミはこの場所が、【リヴァイ・ヴァース】にやってきた人が、初めに通る試練だと言っていた。

見回す限り何もないように見えるが、これもきっと試練とやらの一部なのかもしれない。

何もない真っ白な空間と言ったが、地面に足は付いているのは感じられるし、歩くこともできそうで。




(よし、とりあえず行けるところまで言ってみよう)


振り向くと、さっきまであった入口は当然ない。

ならば進もうとキショウは気の向くまま歩き出していく……。





しばらく方向決めぬまま歩いてみても、何も変わらない。



「何をすればいいのか、聞いておけばよかったかも……」


止まらずも思わずそうひとりごちて。

そう言えばこの状況をソトミ達に見てもらっている、という事を思い出す。




「ソトミさーん! 試練、初めてくださーいっ」


一旦立ち止まり、上を見て右を見て左を見て、そう訴える。

これで返事や変化がないのなら、この状況を打破することこそが、始まりの試練だと言えるのかもしれない。


正直、どうにかする術などまったくもって浮かばないキショウなので。

できれば何か変化があって欲しいと何度か声をかけ続ける。



……すると。

それが功を奏したのか、変化が訪れた。




「……ん?」


初めは視界、白一色に焼かれたからなのか、霞んできて。

すぐに感じるのは世界の揺れ。

それが世界ではなく、自分自身によるものであると気づいた時、無くなったのは大地を踏みしめる感覚。



「……あ」


力が抜けたのだと思った時には、。

ここに来た時と同じように、意識がどこかに深く沈み込んでいくのをキショウは感じていて……。



     (第13話につづく)









次回は、7月23日更新予定です。

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