第11話、最初の試練で暴かれるのは、勘違いか真実か
懐かしくも楽しい朝のひとときを過ごして。
キショウ達は、改めてソトミのいる『所長室』へと呼び出される事となった。
「おはよう、キショウ君! 早速だけどあなたには我らが『リヴァイ・ヴァース』の誇る悪役矯正ダンジョン入門編に挑戦してもらうわ!」
「入門編、いきなりかぁ」
「……」
開口一番ソトミの言葉に、分かりやすくも眉を潜めるカイとクルベ。
そんな、あからさまにご愁傷様といった空気が漂うと、流石のキショウも不安になってくる。
でも、それより何より、いつか言おう言おうと思っていた事を口にした。
「あの~。質問いいですか?」
「お、やる気ばっちりね。どうぞどうぞ。ちなみにこの入門編はひとりで挑戦してもらうからそのつもりでね」
「おれの記憶がないのもあると思うんですけど、おれって悪いやつだったんです?」
覚えてない自分はともかく、カイやクルベが悪い人間には到底見えなかったから。
思わずキショウがカイやクルベの方を見やると、クルベは黙したまま一つ頷き、カイは何故かドヤ顔でリアクションを返す。
「役に囚われていた、などと言い訳するつもりはない。過去に過ちを犯したのは事実だな」
「ボクはこう見えてソートーなワルだったョ、うん」
キショウにはそんな二人の言葉が信じられなかったが。
誤魔化す一つもない二人の態度に、逆に何も思い出せない自分自身がいたたまれなくなるキショウである。
一体、自分はどんな事をしてここにやって来る事になったのか。
そう思い、何か知っていそうなソトミに顔を向けると、ソトミは初めて会った時に出していた本のページを開き何やら唸っている。
「何か更新されてればと思ったけど、よほどうまくやったのね。申し訳ないけど、まだこっちでもあなたの役の事把握できてないの。……ただ、二人はああ言ってるけど、この世界を創る存在に役を与えられたのは事実よ。だからこそ、その救済がこの世界なんだから」
実の所、キショウについて全くわかっていない、というわけでもなかった。
少なくともソトミがここの主となって一番付き合いの長い、テリアと言う少女がキショウに大きく関わっているのは分かっている。
だが、ソトミはそれをここで口にするのを躊躇った。
彼女は妹、あるいは家族と言っても過言ではない大切な人物であったから。
裏を返せばキショウにそこまでの信頼を得てないとも言える。
それは仕方がない事だろう。
だからこそ、ソトミはまず入門編とうそぶく試練を受けさせようと思ったのだ。
役のきっかけになった大切な『もの』。
あるいは引き金、それらを暴く。
カイやクルベも顔を顰めた、趣味も性質も悪いそのダンジョンという名のひと部屋。
ある意味、トラウマを想起させるそれに、ソトミも思う所はあるが。
それは、この世界にとって必要なものであり、乗り越えれば何より信頼の一助となる。
「その一歩ってわけでもないけど、この試練に挑戦すれば忘れていた何かを思い出せる可能性は高いわ。
挑戦してくれるとこっちとしても助かるんだけど」
本当は、有無を言わさず強制させるつもりだったが。
忘れていると言うのが本当ならよっぽどかもしれない、そう思ってついそんな言葉がついて出たソトミである。
しかし、対するキショウの反応はわかりやすかった。
「あ、そうなんですか。それならおれとしても願ったり叶ったりです。その試練、挑戦したいです」
「そう。その意気やよし、よ」
「……ハンブン強制みたいなもんじゃん」
ジト目のカイの呟きはスルーして、ソトミは早速とばかりに準備を開始するのだった。
その結果が、思いも寄らない事になるなどと、気づきもぜずに……。
(第12話につづく)
次回は、7月21日更新予定です。