表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

「まぁ、そうなんだけどさ」

「あはは~。さてはシンシン、あの噂を信じてたりする?」

「いや、別にそういう訳じゃないんだけど……、ただ」

「?」


 ただなんとなく、今の俺達の関係と少しだけ似ているなって、そう思っただけで。


「ならさ、今度探してみよっか? その噂のゴシップガール!」

「えっ……、いや、まじ……?」

「まじまじ! だってその噂のゴシップガールっておかしいよ」

「おかしいって、なにが」

「だってそうでしょ? 誰も見た事がないのに、"居る"だなんてさ」

「ああ、うん」

「だからさ、わたし思うんだよね。その噂のゴシップガールが"本当に居る"なら、ほんとは誰かに知って欲しくて、そんな噂を流したんじゃないかって」


 言いながら西条はコンロの火を切り、フライパンから皿へとかけて野菜を盛り付けていく。


「? て言うかなんで三人分?」

「言ったじゃん。探してみよっかって」

「うん、えっ? いやいや、なんでそれで三人分に……」

「助っ人を呼ぶにはまず撒き餌が必要なのだよ! ワトソン君?」


 そう言って西条は、制服のポケットからスマホを取り出すのだった。


――


 そうしてひとまず、助っ人を含めた三人でテーブルを囲む事になった訳なのだが。


「なぁ有栖川、お前はひょっとしてうさぎなのか? それともサカナなのか? あるいはバカなのか?」


 こんな撒き餌に釣られてひょいひょいやって来るとは。


「そうだな。強いて言うなら俺はゴジラだ」


 ショートカットの髪をさらりと掻き分け、301号室の隣人、もといバカは意味不明なことを言っている。

 ならば俺が、ここははっきりと言っておかなくてはならないだろう。


「ゴジラはハンバーグは食べません!」


 どうやらバカは二人だった。


「して、お前たちは俺をこんなハンバーグなどと言う、チンケで高貴でデリシャスなもので召喚しておいて、一体何をさせる気なんだ? いや、しかし美味いなこのハンバーグは、さすがは由美子さんだ」


「いやお前それチンケって、うちの母親のハンバーグを褒めてるのか褒めてないのかどっちなんだよ。大体お前は召喚されてねぇ、さっき玄関からやってきたばかりだ」


 もうなんだか色々とツッコミどころが万歳だった訳だが、とりあえず西条の言葉を待つことにする。


「ふふんっ! よく聞けーいっ皆の衆っ!!」

「「ははぁーーっ!!」」


 西条の謎のテンションに連れられ、何故か勢いよく頭を下げるバカ二人。

 しかも正座までしているあたりが、なんとも情けなさい構図な訳だが、まぁそこは気にしないことにしておく。


「我らズッコケ三人組!!」

「おうっ!? ズッコケっ!?」


 俺が思わず吹き出してしまうと、横目では無言で首を振る有栖川が居る。

 しかも何やら紙に黒インクで――、


「おいそこカンペをするなぁーっ!!!!!!」


 俺の怒涛のツッコミで一旦場が落ち着いたところで、こほんと一度咳払いをする西条。

 そして目を見開き、口元でしーの合図。


「つまりだよワトソンくん」


 うん、どっちがワトソン? その流れだとひょっとしたらワトソン二人居るよ?


「我ら三人、生まれた時は違えど」

「だぁーーっ!! だからそれは桃園の誓いだろうがぁーーーーっ!!!!」


 もう意味が分からない帰りたい!!


「なるほど。つまり俺達三人で噂のゴシップガールを探そうと、西条が言っているのはそういう事だな?」

「言ってねぇよ!! まだ言ってなかったろ!? なんで分かっちゃってんだよ!?」

「さすがは明智くん! ご名答だよ!」

「ねぇだからさっきワトソンって言ってなかった!? 言ってたよね!?」

「君も分からない男だな」

「ぐぅっ……」


 くそっ、こんなの……、分かる訳がねーじゃねーか。

 そうして俺が項垂れていようが、ゴシップガール探索の会話は続いていく。


「だが西条、探すとは言ってもなにか当てはあるのか?」

「いやまったく!」

「そうか。ならば俺には、ちょうど良い案がある。二人とも食事が終わったらすぐに準備をしてくれ」


――


 それから俺は有栖川の指示の元、一度西条宅を後にすると、リュックに懐中電灯やらヘルメットやらロープやらを詰めていた。

 まるで探検にでも行くような気分だが、どうも有栖川が言うには、あの噂のゴシップガールの正体については、夜の学校に答えがあると言う。

 なんだか本当に怪談っぽい話ではあるのだが、面白そうだから、と言う理由で三人の意見はすぐに合致した。

 それから俺は荷物を詰め終わると、西条と有栖川の準備が整うまで、302号室のベランダに顔を出している訳だが。

 別に夜空を見上げながら考え事をしようだなんて、そんなロマンチックなことを考えた訳ではない。

 単に観葉植物に水をやらなくてはいけなかったからだ。

 とは言え、


「さすがにちょっと冷えるな……」


 と、そんな俺の独り言に対して、ふいに303号室のベランダから声がかかる。


「だな」


 俺達の住んでいるマンションのベランダの側面には、早い話が柵と言う柵はない。

 まぁ、実際にはあると言えばあるのだが。

 このように座らなければ、上半身が見えてしまうぐらいの小さな柵があるだけだったりする。

 だから時折、俺達はこうしてベランダで話すことも稀ではなかった。


「なんだ、居たのかよ?」


 立ち上がり、そう声をかける。


「まぁな」


 と、さっきのテンションとは大違いの反応だが、まぁ基本的には有栖川と言う人間は、どちらかと言えば物静かでクールなほうだ。


「なぁシンシン、お前は本当に良いのか?」

「本当に良いって、なにがだよ?」

「あのまま西条に、気付かない振りをし続けても良いのかってことだよ」

「それは……」


 俺は多分、きっとあの噂のゴシップガールを。

 もう既に、一度は見たことがあるのだろう。

 勿論それが、本当に噂のゴシップガールかどうかは、未だに知らない訳だが。

 だから俺は――。


「関係……、ねぇだろ」


 そうして逃げる事で、彼女の現状から目を背け続けていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ