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1-②

早速評価やブックマークしてくだっさっている方がいて、大変嬉しく思っています。

今のところ、2~4日置きくらいのペースで更新したいと考えています。


 

 王都シュバリエのとある路地裏。

 人がほとんど寄り付かないその場所には、そこに似つかわしくない可憐な女性が歩いていた。まるでこここそが自らの居場所であるとでも言うかのように、優雅な足取りで歩く女。

 彼女は更に入り組んだ路地に入ると、とある建物の窓を背に向け、そこに寄りかかる。


「汝が欲するのは?」

「一欠けらのパンと、籠一杯のバラの花弁」


 後方の窓の中から聞こえてくる問いかけに、彼女はそう返事をする。


「……報告しろ」

「計画に支障をきたす可能性の高い問題が発生しました」

「何だ?」

「修羅が王都に来ているようです」


 女のその言葉を聞き、窓の声は息を潜める。少しの静寂の後、再び窓から声がかかる。


「確かなのか?」

「はい。既に冒険者ギルドで一騒動あったようです」

「奴がここに来た目的は?」

「不明です」

「ちぃっ。よりによって修羅とはな」

「いかがなさいますか?」

「……この計画は失敗も中断も許されない。何とかするしかあるまいな。早急に手立てを考える。お前は奴の動向を探れ。感づかれるなよ?」

「かしこまりました」


 その言葉を最後に、女は再び歩き出す。

 闇の中で髪をなびかせ歩く姿を、目撃するものは誰一人いなかった。




 





 その店の様子を表現するならば、騒がしいの一言であった。

 王都シュバリエの一角に佇む居酒屋、”尾道の馬小屋”。シュバリエを拠点に活動している冒険者達に人気の酒飲み場であり、毎晩のようにどんちゃん騒ぎが行われている。

 普段であれば私がこの店に入ることは滅多にないのだが、今日ここに訪れたのには理由があった。


「ロイについて教えて欲しいだあ?」


 尾道の馬小屋の店主であるギルべスは、カウンター席で目の前に腰掛ける私に対してすっとんきょうな声をあげる。


「ええ。元Bランク冒険者であり、この町きっての情報通であるあなたなら、彼についても詳しいんじゃないかと思って」

「わざわざ俺に聞かなくても、奴の噂話は死ぬほど出回ってるだろう?」

「確かにそうだけど、Sランク冒険者に関する話は正確な情報とただの与太話の区別がつきにくい。だからあなたに正確なことを聞きたいと思った」

「そうは言われてもねえ」


 ギルべスは困ったような顔でポリポリと頭を掻く。

 彼は私のことを無下にせずに話をしてくれる数少ない人物の一人で、その人の良さと気さくな性格も相まって冒険者達に慕われていた。

 40代も半ばに差し掛かっているであろう彼だが、その風貌からは過去に凄腕の冒険者として活動していた面影が感じられる。

 そんな彼が営んでいるからこそこの店は繁盛し、ここでは私のことをお狐様と揶揄してくる者もいない。まあ、内心どう思っているかは別の話ではあるが。


「さっき、Bランク昇格のための手続きでギルドに行ったの」

「おっ!遂にBランクになったのか!相変わらずとんでもねえスピードだな。こいつはめでてえぜ」

「その言葉は嬉しいけど、重要なのはそこじゃないわ。その時に会ったのよ」

「会ったって、誰に?」

「……ロイに」

「なっ⁉」


 ギルべスはガタリと大きな音を立てて驚きを露にする。

 騒いでいた冒険者たちは何事かと一瞬こちらを見るが、すぐに気にも留めずにまたどんちゃん騒ぎへと戻った。

 ギルべスはその様子を確認すると、私に顔を近づけて小声で話を続ける。


「この町に来てるのか?」

「ええ確かにこの目で見たわ。何の目的があったのかは不明だけど、結局は何もせずに帰って行ったわね」

「そいつはまた妙な話だな……」

「それでね、その、私、彼に吹っ掛けたのよ」

「!?!?!?!?」


 ギルべスは今度は信じられないものを見るかのような目で私を見つめてしばらくの間硬直していたが、やがてゆっくりと口を開く。


「おめえさん、一体どんな心臓してやがるんだ。そして何より、どうして未だにそうやって生きて動いているんだ?」

「自分でも分からないわ。ロイは私のとっておきの剣技をいとも簡単に躱したかと思ったら、今度は何も言わずに去って行ったのよ。」


 私はまだあまり飲みなれないお酒をあおり、さらに続ける。


「本当、どういう気まぐれなのかしらね」

「だが、その気まぐれのおかげでおめえさんは今もこうして五体満足で生きている訳だ」

「ええ、そうね。……ずっと、頭から離れないの。彼の視線が、佇まいが、身のこなしが、瞼の裏に焼き付いて消えない。私が目指している高みの大きさを実感したわ」

「……おめえさん、将来もっともっと大物になるぜ。俺が保証する」


 ギルべスはそう言ってにやりと笑った。


「さて、それでロイについて詳しく聞きたいって訳だな」

「ええ」

「そうだな、まず奴の人となりについてだが、正直あいつが何を考えているのか何てことは全く分からねえ。ひどく冷酷だと言う話をよく聞くが、その反面一度認めた者にはとことん甘いなんてことも言われている。冷静沈着かと思えば、度肝を抜くような豪胆さを見せることもある」

「何よそれ。結局のところどんな人物像なのかはっきりしないわね」

「ああ、その実態の掴めなさが不気味だな。だがはっきりしていることもある。それは、とても寡黙であるということ、そして何より重要なのは、絶対に怒らせちゃいけないってことだ」


 ギルべスはそこで一呼吸つくと、


「ロイが成し遂げた偉業の中で、”ロイの三譚”と呼ばれる有名なものが三つある。何か分かるか?」


 と私に尋ねる。


「ええ。それくらいは勿論知ってるわ。第一級の盗賊団、”イカロス”の殲滅。リザートマン1000体の進軍の阻止。そして、古龍殺しの三つでしょ?」

「……実はな、俺はイカロス殲滅の件の一端を目にしているんだ」

「何ですって!?」


 今度は私が驚く番であった。


「5年くらい前だったか。当時はまだ冒険者をしていた俺の下にある依頼が来たんだ。それが、冒険者の合同チームによるイカロスの殲滅作戦だった。イカロスの団員が襲った行商人の証言で、奴らのアジトを突き止めることが出来てな。すぐさまA、Bランクの冒険者が20人以上集められて、即席のチームで現場に向かった。だが、一つだけ気になる情報があった。それは、その行商人の護衛をしていた冒険者が奴らのアジトに一足先に乗り込んじまったらしいってことだった。イカロスから行商人を無傷で守っただけでも大したものだってのに、あろうことかたった一人で奴らに戦いを挑んじまったんだよ」

「まさか……」

「そのまさかさ。その冒険者ってのが、当時Dランクだったロイだったんだよ。俺達がアジトにたどり着いた時に見たのは、全員がBランク以上に匹敵すると言われるイカロスの団員たちの死体の山と血の海だった。ロイは、その中央に全身を返り血で真っ赤に染めながら佇んでたよ。団員達の死体を無表情で見下ろしながらな。俺は心底怯えたね。人間はあんなに冷たい目をすることが出来るんだってな」


 私の頭で想像されるその光景と、先程この目で見たロイの姿が重り、私はブルりと身震いをする。


「イカロスの奴らの死因は、ケンカを売ってロイを怒らせたことだったのさ。その頃からだったかね、奴が”修羅”なんて呼ばれ始めたのは」









「ぶぇっくし!」

 うぅ、さっきの埃っぽいギルドのせいだろうか。或いは誰かが俺の噂話でもしてるのか?まあ、そんなわけないか。

 俺は今夜の寝床を探すべく、夜のシュバリエを闊歩していた。幸い金は多く持っているので、どんな宿にも泊まることが出来るだろう。できれば飯の旨いところがいい。何より大事なのはそこだ。

 いくつかの宿をまわりながらどうしたものかと考えていると、突然声を掛けられる。

 振り返ると、そこにいたのは純白の立派な鎧に身を包んだ30代半ば程の男だった。


「失礼いたします。私はギルタイル王国騎士団が団長。ツヴァイン・グレイシスと申します。ロイ様がシュバリエにいらっしゃるとの話を聞き、はせ参じました。国王様が是非ロイ様にお会いしたいとのことで、こうしてお迎えに来た次第です」


 え、騎士団長ってあの騎士団長?

 ギルタイル王国の全ての騎士団を束ねる者にして、国王の懐刀であるあの騎士団長?

 やばっ、超大物じゃないか。ていうか今なんて言ったこの人。国王に会えとか言ってなかったか?

 ツヴァインは俺からの返事を待っている様で、一切姿勢を崩すことなくこちらを見つめている。

 まずい。早く何か言った方がいいだろう。えっと、まずはどういう用件なのか尋ねよう


「国王が俺に何の用だ?」


 あばばばばばばばばばば。

 またやってしまた。でも仕方がないじゃないか。騎士団長なんて大物を前に、緊張するなという方が無理だ。まあ、緊張して何故か偉そうな言葉が出てきてしまう俺に大きな問題があるのだが。


「特筆すべき用件はありません。しかし、自らの国に所属する貴重なSランク冒険者であらせられるロイ様と、一度お顔合わせをしておきたいというお考えかと」


 ツヴァインは俺の失礼な態度に嫌そうな顔一つせず、丁寧に返事をしてくれた。

 国王に会ってほしいかあ。正直まがい物のSランクである俺と会ったところで向こうは何一つ得しないと思うんだが。ていうか普通に俺が嫌だ。緊張で死んじゃいそうだ。


「……断ると、言ったらどうなる?」

「それは、王の直伝に背く、ということですか?」


 ツヴァインは少し鋭い目つきで俺に問いかける。

 いやいや、怖いんですけど。睨まないでほしい。

 というかそんな大げさな話になってしまうのか。やはりSランク冒険者なんて今すぐ辞めてしまいたい。

だがこうなってしまった以上は仕方がないか。


「分かった。行こう」

「良いお返事が聞けて何よりです」


 何が良いお返事だ。拒否権ねえじゃねえか。悪いお返事した瞬間処刑でもされそうな威圧感だったぞ。

 俺は内心不満で一杯になりながらも、ツヴァインに案内されて王宮へと向かった。



「さあ、どうぞお入りください」


 ツヴァインに先導されながら、俺は王宮内部へと足をすすめる。普通の人ならばまず一生入ることなどないであろうその空間は、煌びやかで輝かしいものだった。

 やたら仰々しい態度の衛兵や宮廷魔法師達を尻目に、謁見の間と呼ばれる部屋に着く。


「失礼いたします。Sランク冒険者、ロイ様がお見えになりました」


 扉の前でツヴァインがそう叫ぶと、精巧な作りの扉が重たい音と共に開かれる。

 扉の先はレッドカーペットの敷かれた少し長めの廊下のような作りになっており、左右には騎士団であろう人たちが一切乱れずに背筋を伸ばして列をなしている。

 廊下の最奥では国王が立派な椅子に腰かけていた。

 緊張気味に中に入ると、先程まで以上に豪勢な作りの室内に驚かされた。謁見の間と言うだけあって、客人に対する対外的な要素が強い様だ。

 おっ。あの柱に彫られている龍の彫刻は素晴らしいなあ。おっ、あのシャンデリアのデザインも素晴らしい。おっ、あの大きななんかも置物なんかも……

 無意識に部屋中をキョロキョとしてしまったことに気づいた俺は慌てて正面に向き直し、目の前にいる国王を改めて視界にとらえた。

 初老を迎えているその男は立派な髭を生やし、頭には光り輝く王冠が鎮座している。その堀が深い顔つきはいかにも厳格と言った風で、僅かに顔をしかめたままこちらを見下ろしていた。

 うわあ、噂には聞いていたけどうちの国王って怖いな。

 ナダルザル・ギルタイル14世。ギルタイル王国現国王にして、その確かな手腕が国内外に高く評価されている。事実、彼が国王になってからギルタイルは大きく発展したと言え、歴代最高の王だと国民からの信頼も厚い。ただ、同時に見た目通りの厳格さで、規則違反や命令にそぐわないものには一切の容赦がないという話も有名だ。

 まあ、つまり何が言いたいかというと、非常に怖い。心なしか左右に並んでいる騎士団の人達の視線も鋭いような気がしてきた。ふぇぇ、何でこんな目に。

 おしっこをちびりそうになりながら、国王の前で棒立ち状態になっている俺。

 ……ていうか、こっからどうすればいいんだ?もしかして、俺から何か言わなきゃいけないのか!?そもそも普通に突っ立てるけど膝とかついた方がいいのか?いやでも隣のツヴァインは普通に立ったままだし、いや分からん。国王の前での作法なんて何も知らないぞ!?

 や、やばい、頭がパニック状態になってきた。とにかく何か言わないと。えっと、失礼のないように、、、駄目だ分からん!挨拶とかからすればいいのか?

 てんやわんやになっている俺の視界にふと飛び込んできたのは、先程素晴らしいと感じた龍が彫られた柱だった。


「良いデザインの柱だな」


 何言ってるんだ俺ぇぇぇぇぇぇ!?

 ていうか何で普通にため口ぃぃぃぃぃ!?

 この癖本当にどうにかしてぇぇぇぇぇ!


「……お初に、ロイ殿。ナダルザル・ギルタイル14世である。貴殿のその態度はいかがなものかな?」


 その瞬間俺の脳内はパニックを超えて真っ白になっていた。

 ああ、遠回しに失礼だぞお前と言われた。やっちまった。もしかして俺処刑される?

 それはそうだ。間違いなく国王は今


「無礼だと感じた」


 あれ?

 俺今声に出してた?

 分からない。もう分からない。

 自分が今何を言ったのかさえ定かではない。

 すると突然、顔をしかめていたはずの国王が何故か笑いだした。


「ふ、はは、はっはっはっはっは!」


 俺は訳が分からないまま国王を見つめている。


「無礼、か。確かにその通りだな。許してほしい。こう見えて私は臆病なのだよ」


 ……うん。おっしゃっていることの意味が分かりません。


「すまなかったな。非礼を詫びよう。今日貴殿を呼んだのは、一つ確認したいことがあるだけなのだ」


 頭が?だらけになっている俺に構わず、国王は話を続ける。


「我が国のSランク冒険者の中でロイ殿にだけ会ったことがなかったからな。他二人と同じように貴殿にも問わせていただきたい」


 国王はそこで一呼吸置き、まっすぐと何かを確かめるような目で俺に向かって問いかけた。


「その強さを、その力を、何に使う?」


 相変わらずさっきまでの発言の意味は分からなかったが、とりあえず質問には答えなければならないだろう。えっと、その強さと力を何に使う?か。

 多分Sランク冒険者として的なことを言っているんだろうけど、俺にそんな力はないんだよなあ。Sランクになったのだって何かの間違いだし。何に使うかどうか以前に、そもそも力が欲しいよ。

 ここで俺にテキトーなことを言ってごまかすような度胸はない。正直に言おう。


「俺は、強くなんてありません。使い道に迷えるような力があるならば欲しいくらいです」


 今回はきちんと敬語で発言することが出来たな。

 どういった反応をされるか不安な俺だったが、国王は目を丸くした後再び大きな声で笑いだした。


「そうか、そうなのだな。うむ、分かった。突然呼び出して悪かったな」


 そう言って何故か満足そうに頷いている。


「もう帰ってもらって構わない。宿が必要なら、宮内の客室を貸そう。もし今後貴殿の力が必要になった時は、頼りにしているぞ」


 そんな言葉を聞いたかと思うと、気づけば俺は来た時と同じようにツヴァインに先導されて謁見の間から退出していた。

 終始国王の心意は分からなかったが、無事に謁見という一大イベントを乗り切ったらしい。


「ロイ様。どうやらあなたは私が思っていた以上に素晴らしいお人のようだ」


 ツヴァインのはわけの分からないことを言いながら、俺を先導している。


「今夜はどうされますか?先程国王様もおっしゃられていた通り、お部屋をご所望でしたらご用意いたしますが」

 

 ふむ。それは非常にありがたい申し出ではあるが、この息がつまりそうな空間から早く抜け出したいという気持ちもある。どうしたものか。


「あら、ツヴァインじゃない。今日は非番じゃなかったの?」


 頭の中でうんうんと唸っていると、そんな声が聞こえてくる。

 見ると、そこには大きなな三角帽子をかぶり、紫のローブに身を纏った美人の女性がいた。出るとこは出て、引き締まるところはしっかりと引き締まっているの分かる。何というか、妙に色気がムンムンの人だ。

 彼女の隣には、国王にも劣らない厳格な顔つきの獣人の男が立っている。その特徴的な耳と尻尾から、狐型の獣人であることを理解するのは容易だった。一日に二人も同じ型の獣人に会うとは、珍しいこともあるものだ。


「む、シェイミーか。確かフォクシードさんを案内していたのだったな?私はこちらのロイ様と共に、国王様に謁見してきたところだ」


 ツヴァインの言葉を聞くと、シェイミーと呼ばれた女性と隣の男は、ハッとした顔で俺の方を見た。


「これは失礼いたしました。私は、ギルタイル王国に属する宮廷魔法師を束ねております、シェイミー・シェイネと申します。以後、お見知りおきを」


 彼女は帽子を取って丁寧に頭を下げた。

 宮廷魔法師を束ねている?

 ってことは、この人が彼の有名な宮廷魔法師長シェイネさんか。言われてみれば、ザ・魔女って感じの見た目だ。

 噂には聞いていたが、こんな美人さんだったとはな。……でもこの人、何十年も見た目が変わってないって有名な話があるんだよなあ。魔法って怖いね。


「こちらは、ギルタイル王国南西に位置するフォクシード領の領主、セルガさんです」

 

 その言葉を受けて、セルガは一歩前に出る。 


「紹介にあずかった。フォクシード家が当主、セルガ・フォクシードだ。この度は、彼の有名なSランク冒険者であるロイ様に会うことができ、光栄の極みである」


 怖い顔してへりくだった物言いをする人だな。見た目ほど怖い人ではないのかもしれない。

 自己紹介を終えた二人は、何故か黙ったまま俺の方をじっと見ている。

 あ、そうか。これは俺も自己紹介しなきゃいけない流れだな?

 何を言えばいいのか全くわからん。ええと、とりあえずは名前だよな。


「……ロイだ」


 …………。

 終わっちゃった!俺の自己紹介終わっちゃったよ!

 コミュ障全開になってしまった自らの自己紹介に焦る俺だが、何故か二人はホッとしたかのように安心した表情を浮かべていた。

 よく分からんがこれで良かったらしい。

 それにしても、騎士団長に魔法師長に獣人貴族か。これは大層なメンバーなことだ。


「お久しぶりですセルガ殿。シュバリエには、娘さんに会いに?」

「これはロイさん、ご丁寧にどうも。ここに来たのは今年の自治に関する報告を兼ねて、国王様に会いに来たからでね。そう言った理由で来たわけではないのだよ。それに、あれはもう娘などではない。なにしろ、家を飛び出し勝手に冒険者になった愚か者だからな」

「……左様ですか」


 何やらセルガの家庭はうまくいっていないらしい。ツヴァインも苦笑いだ。

 ていうか、冒険者の娘ってもしかしなくてもさっきの狐っ娘だよな?おたくの娘さん、突然剣を抜きだす物騒な人でしたよ?

 そんな俺の心のつぶやきなど露知らず、セルガは俺に向かって口を開く。


「ところでロイ様。今夜の宿はお決まりかな?こうしてお会い出来たのも何かの縁だ。もしよければ、私がシュバリエにて滞在している別荘に参られないか?最大限のもてなしをすることを約束しよう」


 何だこのおっさん。やはり見かけによらすめっちゃいい人じゃないか。出会って間もない俺なんか泊めてもいいことなんて何もないだろうに。

 貴族のもてなしともなれば期待できるだろうし、これは悪い話じゃないな。

 となれば、何故か緊張したような面持ちでこちらの返事を待っているセルガへの言葉は決まっている。


「お言葉に甘えよう」

 

 こうして、俺の今夜の宿はセルガの別邸へと決まったのだった。

国王様サイドは次回に回しました。

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