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1-①


「おめでとうございます。これでミーアさんは正式にBランクとなりました。こちらは新しいプレートになりますので、紛失等しないようお気お付けください」


 若干笑みを引きつらせながらも、冒険者ギルドの受付嬢はそう言って頭を下げた。


「見ろよ。お狐様はもうBランクになったみたいだな」

「ああ、金さえあれば冒険者も楽な仕事らしい」


 周りからはからは冷ややかな視線と共に、そんな言葉が聞こえてくる。


 私はミーア・フォクシード。

 ”ギルタイル王国”にあるここ、”王都シュバリエ”で冒険者をしている獣人族の娘だ。

 王国内で唯一の、獣人族である貴族の家に生まれた私は、幼い頃から自由に生きる冒険者に憧れていた。両親に隠れて剣術の腕を磨き、本来貴族が学ばないような知識も心得ている。

 成人年齢である15歳の誕生日に、両親に冒険者として生きたい旨を告白するが猛反対され、喧嘩勢いのまま家を飛び出して一年。私はついに上から三番目のランクであるBランクの冒険者となった。


 だが、そんな私を見る周囲の目は冷たい。

 元々唯一の獣人貴族として有名なフォクシード家。その娘が冒険者となっている時点で、奇異の目で見られてしまう。

 私の勝ち気な性格や、舐められたくないという思いからくる高飛車な態度によって冒険者達の間では孤立し、必死に学んだ剣術でいくら冒険者として成果を挙げても、遊び半分の貴族がギルドに手をまわしているだけだとしか思われなかった。

 それが悔しくて、私は更に鍛錬やクエストに打ち込んだ。

 そうしているうちに、気づけば一年という短さでBランクにまで上り詰めたのだ。

 しかし、私はこんなところでは満足しない。一向に認めようとしない周りの人間たちを見返す為にも、私はもっともっと高みを目指しているのだ。



「よお、お狐様。もうBランクになったんだってなあ。流石は凄腕冒険者だぁ」


 手続きを終えてギルド本部を出ようとした私に、嫌らしい笑みを浮かべてわざとらしく賞賛の言葉を投げかけてくる男とその取り巻き達。

 彼の名前はディク。よほど私のことが気に入らないらしく、顔を合わせるたびに突っかかってくるCランクの冒険者だ。



「とうとう俺のランクを抜かれちまうとはねえ、お狐様には敵わねえや」


 お狐様。

 獣人である私の外見的特徴から、周りの冒険者たちが皮肉を込めてそう呼んでいる。

 直接言ってくる者は少ないが、陰では皆が私のことをそう呼んで侮蔑していることは知っていた。


「どいて。あなたに構っていられるほど私は暇じゃないの」

「おー、怖い怖い。誰か油揚げをもってねえか?そうすりゃ丸く収まると思うんだぁ」


 ディクの取り巻き達はゲラゲラと笑いだす。

 本当に癪にさわる男だが、こんな低俗な奴の相手をしている暇はない。黙って彼の横を通り抜けようとする。


「待てよ。せっかく凄腕冒険者に会えたんだ。もっとお話しさせてくれ」


 ディクは再び私の前に立ちふさがった。


「もう一度言うわよ。どいて」

「まあまあ、そんなにカリカリしてちゃ友達もできないぜ」


 彼はそう言って再びゲラゲラ笑いだす。

 今日はいつになくしつこい。自分のランクを追い抜かれたのがよっぽど気に食わなかったらしい。

 だが私にも我慢の限界がある。ギルド本部で騒ぎを起こせば問題となってしまうだろうが、一度徹底的に叩き潰してしまおうか?

 そんな考えの下、鋭い視線で彼を睨み付ける。


「あ?なんだその顔は。やろうってのか?」


 ディクは私が実力でBランクに至ったなどとは微塵にも考えていないらしい。

 大方、私から手を出せば反撃という大義名分の下で私を潰せるとでも思っているのだろう。

 いいだろう。乗ってやる。

 この際だ。多少問題にはなるかもしれないが、ここでこいつを半殺しにでもしてこの先二度と絡まれない様にしてやる。


「尻尾が邪魔で戦えなんじゃないか?お狐様」


 なおもこちらを煽る言葉を続けるディクに向かって踏み出そうとした時、入り口の扉が開く音がする。その瞬間、空気が一変した。

 遠目に私達を見ていた者達は目を見開き、皆固まってしまったかのように入り口を見つめたまま微動だにしない。

 一体何が?

 そんな疑問を抱くと同時に、小さな声が聞こえた。


「騒がしいな」


 その一言で空気が凍り付く。

 まるで誰も声を出してはいけないかのように押し黙り、あたりを静寂が包み込む。

 受付嬢が青い顔でゴクリと唾を飲みこむ音がはっきりと聞こえた。

 先程まであれほど騒いでいたディクさえも、その声の主の方を見つめて微かに震えている。

 そしてそれは、私も同じだった。

 当然のことだ。何故なら、ギルド本部内にいる全員が見つめる視線の先、そこには、”修羅”が立っていたからだ。










 冒険者には7つのランクが存在する。

 最初は誰もがFランクから始まり、そこからクエストの実績や強さを元に徐々にE、Dと上がっていくのだ。

 冒険者の中で最も数が多いのはDランクで、Cランクになれるのは厳しい鍛錬を積んだ者達だけだろう。そして、Bランクになればその強さが一級品であることが証明されたようなものだ。このレベルになると最早努力だけではなく、才能を持ち合わせていなければたどり着けないとされている。

 その上をいくのがAランク。これは、王国の騎士団長や宮廷魔法師長に匹敵すると言われており、天が与えたとびきりの才能と血の滲むような努力を惜しまない性格の二つを持っている者がたどり着ける、冒険者ギルドが自由に動かすことのできる最高戦力である。

 だが、冒険者ランクには更に上がある。

 それが、この世界に7人だけ存在する、Sランク。

 その強さは最早、努力がどうとか才能がどうとか言った範疇をはるかに超越している。

 ”生きる伝説”、”最終到達点”、”神を殺せる者”。

 そんな呼び方で形容される者達。

 国や世界そのものに何らかの脅威が降りかかった時、それを単独で対処できる能力を有するとされている者達だ。

 彼らは基本的に縛られることを好まず、それぞれの国の長の直伝によってのみクエストを受けさせることができる。

 それにも関わらず彼らはSランクという称号だけで、一生遊んで暮らせるだけのお金を国から定期的に支給されているのだ。

 そこまでして国内に留めておくだけの価値が、Sランクにはあるのだ。

 そしてそれは、このギルタイル王国が世界で最も強く豊かな国と言われていることにも関係している。そう、この国は他国と比べて最多である3人のSランク冒険者を有しているのだ。

 世界全体でも7人しかいないうちの3人。そう考えればその重要性が分かるであろう。



 そして、ギルド本部の入り口。


 そこに立っていたのが、王国にいる3人のSランクの一人、”修羅”の二つ名を持つ男、ロイだったのだ。

 一目で上物だと分かる漆黒のロープを身に着け、その下には身軽さを重視したのであろう軽装備を纏っている。腰には二本の脇差が携えられていた。

 歳はまだ20代前半といったところだろうか。このギルタイル王国では珍しい黒髪で、その寡黙な雰囲気と鋭い視線も噂通りのものだ。

 どうして彼がこんなところにいるのだろうか。普通、Sランク冒険者はわざわざギルドに顔を出すことなどない。一体何の用事があるのだろうか。

 私を含めて息を呑んでいる冒険者達、ロイはそんな様子をゆっくりと見渡すと、こちらに向かって歩いて来た。


「おい。一体何をしていたんだ?」


 彼が鋭い視線のままディクにそう問いかけた。


「ひっ、ひぃぃ!」


 問いかけられたディクは怯えた顔で一歩後ずさった。

 言うまでもないが、Sランク冒険者は有名人だ。彼らには様々な噂やエピソードが付きものだが、それは勿論ロイも同じである。

 曰く、絶対に怒らせてはいけない。曰く、一切の慈悲を持っていない。曰く、視線だけで人を殺せる。

 勿論誇張された噂話もあるのであろう。しかし、目の前にいるこの男の威圧感と圧倒的な存在感が、数々の噂に現実味を持たせていた。

 私は彼が扉を開けて呟いていた台詞を思い出す。


『騒がしいな』


 冷徹な声で放たれたその言葉。

 それが意味するものは一つ。そう、彼はきっと虫の居所が悪いのだろう。

 自分にとってはゴミ同然の存在が視界の中でみっともなく騒ぎ立てる。きっと彼は、そんな光景を不快に思ったのだ。


「おい、どうしたんだ」


 そう言いながらディクに合わせて一歩踏み出したロイ。ディクの取り巻き達は息をするのも精一杯といった風で、何も言葉を発せられない。

 直接詰め寄られているディクの恐怖は、彼らの比ではないだろう。


「あ、あぁ」


 涙を流しながら動けないでいるディクに、ロイがさらに一歩踏み出した。

 すると、バタンという音と共にディクが仰向けに倒れる。彼は白目を剝いて口からは泡を吹いていた。あまりの恐怖に失神したのだろう。

 ロイはそんな様子をまるで汚いゴミでも見るかのように見下ろしている。

 私は、圧倒されていた。

 目の前にいるSランクという存在に。

 そして恐怖していた。

 ロイというこの男に。

 情けなかった。確かに彼は伝説のSランクかもしれない、しかし、それでも同じ冒険者のはずだ。どうして戦ってもいないのにここまで怯えてしまうのだろうか。


 ロイはディクから目を離すと、続けて私のことを見つめる。

 その目に鋭さはなかった。明らかに先程までディクに向けていたものとは違う。心なしか力がないような、そんな目だ。

 まさか、同情されているのか?

 私の境遇を知っているのだろうか、或いは私が寄ってたかっていじめられている様にでも見えたのだろうか。いや、そんなことはどうでもいい。ここで黙っていたら、今まで必死に守ってきた何かを失ってしまう、そんな気がしていた。

 どうしようもなく体が震える。うまく口が開かない。

 それでも、渾身の勇気を振り絞り、私は彼の前へと一歩踏み出した。


「わ、私のことを助けたつもり?悪いけど、勝手なことしないでくれる?」


 言った。言ってやった。そして、言ってしまった。

 彼の目は先程までディクに向けられたものになっていたのだ。

 ああ、その目を見て分かってしまった。噂は本当だったんだ。絶対に怒らせてはいけない相手だったんだ。

 私は、今から殺される…………。

 いや、弱気になってどうする。精一杯抗ってみないと分からないではないか。彼が動き出してからでは敵うはずがない。られるまえにってやる。

 私は意を決して刀に手をかけ、それを引き抜いて剣先をロイの喉元へと加速させる。その間、足は一切動かしておらず、剣を引き抜く動作に入る直前まで攻撃をする素振りを一切見せていなかった。

 これは、私が編み出した不意打ちの極意。

 長い時間をかけて作り上げた私のとっておきの一つだ。

 自分の前方向にいる敵に向かって突然の斬撃を繰り出すことができる。

 この位置関係なら、剣先の2cmほどが丁度ロイの喉をかすめることができるだろう。十分な長さだ。

 これを外せば次はないだろう。しかしこの技は、格上にも一撃入れられる可能性の高い不意打ちの剣術だ。

 殺せなくとも、相手の動きを鈍らせるダメージを与えられるかもしれない。

 私が攻撃動作に入ってから剣先がロイの喉に届くまで、恐らく1秒もなかったであろう。火事場の馬鹿力といういやつだろうか。今までの中でも最高速度の斬撃を繰り出すことが出来た。

 とにかく必死だった。

 人を殺してしまうかもしれない恐怖だとか、そんなものは一切ない。自分が生き残るための一撃。

 そして、その太刀筋が終わりを迎えるまでの間、一切の手ごたえがなかった。

 外した。否、かわされた。

 私の目は確かに捉えていた。私が動作に入った瞬間、腰を僅かに後ろにのけ反らせて剣先を避けたロイの姿を。

 彼は平然とやってのけた。

 躱されるにしても、後ろに飛び退くなり、脇差を使って対抗されたりするものだと考えていた。

 だか、実際はただ少し後ろにのけ反るだけ。まるで、必要最低限の労力で済ませるかのように、それ以上するのが馬鹿馬鹿しいとでも言うかのように……。


「……はは」


 何故か私は乾いた笑いを浮かべていた。

 正真正銘自らの全てをかけた斬撃。それを、まるで羽虫を払うかの如く躱されたのだ。

 これが、生きる伝説。

 これが、Sランク。

 どうすれば、この領域にたどり着けるのだろうか。願わくば、死ぬ前にそれを知りたかった。

 殺される覚悟を決めた私に対して、ロイがとったのは意外な行動だった。

 なんと、彼はマントを翻して私に背を向けて歩き出し、ギルド本部から出ていってしまったのだ。

 私を含めて、周囲の冒険者たちは訳も分からずに立ち尽くす。

 彼が元々何の用事があってここに立ち寄ったのか分からないが、これまたどういう訳か喧嘩を売った私を放置して出て行ったのだ。


「助かった、の?」


 私はヘナヘナとその場に座り込み、しばらく動くことが出来なかった。










 どうも、皆さんこんにちは。

 俺の名前はロイです。冒険者やってます。

 ……誰に向かって話してるんだろ俺。


 ギルタイル王国の外れにある小さな村の生まれで、幼い頃に両親を亡くしてからは村の人達に支えてもらいながら何とか生きていた。

 15歳になってからは、それ以外に食べていく方法も思いつかなかったから冒険者となった。

 好きなものは妄想、嫌いなものは人との会話、魔法も下手くそで身体能力も大して高くない。そんな俺は、本来冒険者なんて向いていないだろう。

 しかし、死なない程度に細々とやっていこうと思っていた考えとは裏腹に、何故か俺の周りでは大きな事件ばかり起きた。

 盗賊団のアジトに間違えて入っちゃったり、何故か1000体のリザードマンが攻めてきたリ、どういう訳か伝説の翼竜と対峙しちゃったり……。

 もちろん俺がそんな出来事にまともに対処できるはずもなく、半べそかきながら必死に逃げたり隠れたり現実逃避で妄想したり。

 そんな日々を送っていたら、何故かSランクになっていた。

 何を言っているのか分からねーと思うが、俺が一番わけが分からない。

 身に覚えのない偉業の数々を俺が成し遂げたことになってるのだ。勿論最初はコミュ障なりに必死に否定していたのだが、どうやっても聞いてもらえず、途中からは否定することも諦めた。

 Sランク冒険者という立場は、大金はもらえるし優遇はしてもらえるしでいいことずくめではあるのだが、全く実力の伴っていない俺がその位置にいるのは、何だかとても居心地が悪い。

 そんなこんなで、俺は今現在も何故かSランク冒険者として生活を送っている。

 それにしても、どうして俺はこうも厄介ごとばかりに巻き込まれるのだろうか。本当に不幸だ。もし人間に運というステータスが存在するのだとしたら、俺の値はマイナスであろう。

 つい先日までも大層な厄介ごとに巻き込まれていて……まあ、その話は機会があったらすることにしよう。

 今は久し振りにやってきた王都シュバリエで何をするのか考えようじゃないか。




 おお、相変わらずここは活気がすごいな。

 沢山の人込みと建造物の数々を見ながら、俺はそんなことを考えている。

 心なしか道行く人々から視線を感じるような気もするが、まあいい。目的地に向かおう。

 そう、俺は既にシュバリエでの最初の目的地を決めてある。それは、冒険者ギルド本部だ。

 今まで他の町にある冒険者ギルドの支部には訪れたことは何度もあるのだが、王都にある本部には訪れたことがなかったのだ。王都は国の中心なので、そこにギルドの本部があるのも当然のことだろう。

 Sランク冒険者というのは、クエストを何もしていなくても大金がもらえるので、最近はギルド自体に訪れていないことも目的地を決めた理由の一つだが、一番はやはり興味本位だろう。

 他の支部とは違ってきっと本部は大きいのであろう。もしかしたら有名な冒険者とかもいるのかもしれない。そんな本部を一度見てみたいのだ。

 途中道に迷ったりしたがらも、本部までたどり着く。

 外観だけでその大きさが伝わってきた。

 ワクワクしながら、扉に手をかけ、それを押し開けた。




 うわ、埃っぽ!

 ちゃんと掃除しているんだろうか、俺はアレルギー体質なのだ。目がかゆくなったらどうしよう。少し目を細めておくか。

 それにしても中央らへんにいるあの人達、何だかとても……


「騒がしいな」


 え、なんか一瞬でみんな静かになったんだけど。ていうかどうして俺が独り言を言うタイミングでみんな黙るの⁉予想以上に声が響いちゃったじゃん。

 うわ、みんなこっち見てるんだけど、そりゃそうだよ。よく分かんない男が突然入って来て開口一番「騒がしいな」とか言うんだもん。絶対変な奴だと思われたわ。

 早速帰りたい気分で一杯になる。だが、俺はその気持ち以上に気になることがあった。

 さっきのって、もしかしなくてもあの娘いじめられてたよな?男が寄ってたかって女の子のことを笑ってたみたいだし。

 そう。あの獣人族の女の子が男たちに絡まれていたように見えたのだ。

 周りの奴らはどうして黙って見ているのだろうか。

 野次馬と化している冒険者たちを見渡しながら、そう考える。

 もしかして、あのいじめてる奴が口出しできない程強いとかなのかな?確かに大きい体だし強そうだ。だとしたら俺にできることなんて何もないよなあ、そうでなくとも普通に人と話すことさえ一苦労なのに、いじめをやめさせることなんて俺にできるのだろうか。

 ……いや、何を言っているんだ。俺は理不尽を押し付けられる辛さをよく知っている。俺が助けてあげなくてどうするんだ。幸い俺は何かの間違いでSランク冒険者なんだし、あっちだって名前ぐらいは知っているかもしれない。いざとなったらその権力をかざしてやろう。うん、こういう時にSランクを活用するべきだ。

 俺は意を決して彼らの下へと歩いていく。

 うわ、近くで見ると想像以上に怖いなこの人。落ち着け、とりあえずはさっきのことを確認するんだ。もしかしたら何かの間違いかもしれない。穏便に、丁寧にさっきの出来事を訪ねよう。


「おい。一体何をしていたんだ?」


 やっちまったあああああああああああああああああ。

 これだからコミュ障はあああああああああああああ。

 何その偉そうな態度?

 言おうと思ってたことと違うんですけど?テンパりすぎでしょ!


 ん?

 なんだこの人。突然後ずさったりして。しかもなんか小さく震えてるし。

 もしかして、体調でも悪いのか?


「おい。どうしたんだ」


 そう言って近づくと、男は更に震えだす。

 やっぱり体調が悪いんじゃないか?

 何とかしてあげた方が……

 そう思いながら更に一歩地下づくと、男は急に仰向けで倒れてしまった。


 ええええええええええ!

 ど、どうしよう?どうするのが正解なんだ?

 明らかにやばいよな。泡吹いているし。

 と、とりあえず、隣にいる狐っ娘ちゃんに助けを求めよう。

 そう思って彼女の方を見つめる。今の俺の表情はきっとひどく情けないものであろう。

 そうしていると、彼女は俺に少しだけ近づいた。


「わ、私のことを助けたつもり?悪いけど、勝手なことしないでくれる?」


 え?

 いきなり何言ってるのこの人?

 思わず訝しい表情で彼女のことを見てしまう。

 言っていることの意味がよく分からないし、早くこの人のことを助けてあげた方がいいのではないか?

 彼女に対して何と返そうか考えていると、突如尋常じゃない程のムズムズ感が俺の鼻を襲った。

 やっぱりここの埃っぽさはやばかったか。くしゃみが出そうだ。それも、めちゃくちゃでかいやつ。

 俺はくしゃみの流れに抗えずに体をのけ反らせて天井を見上げる。

 ま、まずい。このまま放出したら狐っ娘の顔面が俺の涎まみれになってしまう。何とかして噛み殺さなけらば。

 俺は懸命に力をこめてくしゃみを噛み殺し、何事もなかったかのように顔を下した。すると何故か、狐っ娘が驚いたかのような顔で俺を見ていた。そしてその手には……

 え、いつの間に剣を抜いているんだ。てかっ、どうして今剣を抜いたんだ⁉

 な、なに?もしかして今から俺のこと切り殺すつもり?俺なんかした?

 分からない。分からないことだらけだ。

 どうして男は突然倒れたんだ。どうして彼女は急に剣を抜いたんだ。どうして周りの奴らは未だ黙って見てるんだ。

 分からない、頭がパンクしそうだ。人と意思疎通するのはこんなにも大変なことだったのか。

 頭がグルグルしてきた俺が次にとった行動、それは、、、引き返す!

 もう分かんない!おうち帰る!

 脳内で幼児退行をおこしながら、俺は回れ右をしてその場を後にする。よく考えれば剣を持った相手に無防備な背中を晒し、倒れた人を置き去りにしたわけだが、そんなことを考えられないくらいにこの場から離れたい思いで一杯だった。

 そうして俺は多大な精神的ストレスを抱えながら、冒険者ギルド本部を抜け出した。



 ……うん。

 今夜の宿でも探そう。

 俺は先程の出来事は全て忘れ去ると決め、日が暮れ始めた王都を再び歩き出すのだった。


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