~プロローグ~
当シリーズは、様々な恋愛をしている登場人物がでてきます。
校舎から一番離れた場所には、古く小さな体育館倉庫がある。
周りには、数本の若い桜の木が植えられ、北側に建てられていることもあり、昼間でも薄暗く、目立たない。別の場所に倉庫があるため、ここに足を踏み入れる者も滅多にいない。
そんな忘れられた倉庫の横は、告白するには最適の場所だったりする。
そして、僕 天野 司も中学生生活 最後の日である今、この瞬間、この場所で、正面に立つ同学年の女生徒へと想いを告げようとしていた。
普段は、臆病な自分だが彼女に告白するときは、せめてもと、この想いは本物だと伝えるため、俯いていた顔を勢いよく上げる。
風に乗ってふわりとリンゴのような甘い香りが鼻孔を掠めた。
肩に届くぐらいの真っ直ぐ伸びた黒髪、猫を思い浮かばせるような蜂蜜色でアーモンド型の瞳、紺色のセーラー服から覗く透き通るような白い肌、彼女の物静かさを示すようにきゅっと閉じられた口許、僕よりも5センチほど高い身長、すらりと伸びた手足。
暫し、彼女の凛とした美しさに見蕩れてしまうが、我にかえり、慌てて口を開いた。
「好きです。良かったら、僕と付き合ってください」
我ながら、在り来りな告白だな。と、思う。何か気の効くような言葉はない。しかし、この三年間分のひっそりと積り積もってきた想いを詰め込んだものだ。
声は、普段とは別人みたいで、情けなく震え、早口になった。
目の前の彼女は、異性に告白されて頬を染め照れる様子も、嫌いな相手からの突然の告白により、眉をしかめるような不快な様子もない。
それは、空を眺めているような何も考えていない様子だ。
お前なんてどうでもいい。と、暗に言われている気分になる。
ふと、彼女とこの三年間で目が合ったのは今日が、初めてだと気付く。
僕は、無意識に目で追っていたが、思い浮かぶ彼女の姿は、横顔や後ろ姿ばかりだった。
先ほどまで、心の中にあった淡い期待が綺麗さっぱり無くなっていくのを感じる。
これから言われる言葉は、始めから一つしかなかったのだ。と、今さら気付く鈍い自分に心の中で苦笑する。
「私、可愛い子やものが大の好物なんです。」
突然の彼女の告白に、数秒理解出来ずに固まる。
「ですから、可愛くない男の子は論外です。」
右手で、髪を耳にかける仕草をした彼女も、やっぱり綺麗だな。と、思う。
用は済んだとばかりに、彼女は颯爽と校舎の方へ歩いて行く。
僕は、何も言えずに後ろ姿を見つめることしかできなかった。
(え?)
想像していた言葉とは少し違ったが、フラれたという結果は変わらない。
心にぽっかりと穴が空いたような虚しさとモヤモヤとした何とも言えない気持ちのまま、僕も校舎の方へゆったりと歩き始めた。
そうして、僕の初めての告白は呆気なく終わったのだった。