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片腕の価値  作者: てぃーぽっと
2/2

side:T







 「・・・いって、しまったか・・・」


 相変わらず、変なところで忙しない男である。普段は冷静沈着を額に掲げたような男で、階級は低いものの知名度は私と同じくらいの有名人だ。軍に所属する以上、彼の名前を聞かない方が珍しいだろう。

 

 冷たく整った容貌の彼だが、それと相反してとても暖かい優れた光魔法が有名であり国王陛下からも重宝されている。本人はなかなか自分の容姿に興味を持たないようだが、長年共にいる私も見慣れない。


 (しかし、彼が慌てているのは私がなにかしでかしたときだけなのだな。)


 風のようにふわっといなくなってしまった彼を思い出す。そういえば一週間ぶりに会った。

 彼の心を急がせるのはきっとこの世で私しかいないのだと思うと、少しの申し訳なさと彼の意識を独占できている嬉しさを感じる。心の奥底にしまってある感情がうずくのも仕方がない。ふと苦笑いがこぼれた。


 (自覚があるのかないのか・・・)


 いや、ないのだろうな。あれほど態度と行動で『お前がなにより大切だ』と訴えかけておきながら、本人は素っ頓狂に純粋すぎるほど真っすぐ私をみてくる。


 (ここまでくると、単なる憧憬だと言われても納得してしまいそうだ・・・)


 確信が持てるまで、奥底に沈殿し続ける想いを渡すつもりはない。ただでさえ心配をかけている。これ以上彼の枷にはなりたくないし、気を遣わせたくもない。

 ・・・それに、『お前のことは尊敬しているだけで、恋愛方面でなど見たこともない』なんて言われてみろ。その場では『あぁ・・・そうか、このことは気にしないでくれ』と言えても自室で残った片腕を消し飛ばさない保証なんて私には一%もない。それも、身体的なダメージより明らかに心への負担が大きく、的確に心臓を抉ってくるくせに死なせてはくれないだろう。




 彼が去っていった医務室で頭の痛い書類をサイドテーブルに置き、窓の外を眺めた。


 (上級魔物でも軽々倒せるくらいには強くなったのに、任務で腕を落としてくるのは・・・流石にもうばれるだろうか)


 光魔法。それは魔法属性で素質に最も左右される稀有な魔法。近年は失われつつあるその魔法は文献も少なく使用者の個性が非常に出やすいもので、彼が回復魔法を独自の方法で展開しているのに対し一方で、自身の体を透過する魔法を得意とする者、色彩を自由に変えて見せる者など、他の属性よりテンプレートがない分想像力を必要とするらしい。


 彼の魔法が温かい理由は、展開する魔法に彼の体温が乗るせいだという。彼の回復魔法もとい復元魔法は、幼いころからの固有魔法である。体の弱い母親に、王家直属の護衛部隊で細かい怪我をして帰ってくる父親。幼いころから死が身近にあったからこそ、彼の意識は大切な人の『回復』へむかった。

 使用しているときは相手の事を考えるのが癖らしく、声をかけても答えないことなんてざらだ。細かい魔法学をアカデミーで学んでからは、より高度な仕組みを編み出したのに相手を思う過程は取れなかったと照れていた。


 (・・・私は独占欲が強いのだろうな)


 私のことだけを想い、取れた腕を熱心にくっつけようとしている姿は健気でかわいい。

決して私より背が低いわけでも華奢なわけでもない。父親の影響で幼いころから魔法だけでなく武道にも力をいれていたという彼だ。戦闘で苦戦することはまずありえないし、光魔法のイメージばかりが先行して若い彼に魔法使いの微妙な古参が絡んでいるところをたまに見るが、私に関わらない者は全て返り討ちしているのも知っている。


 ちなみに相手から手を出したところで反撃している。絶対に弱みを作らない策士じみた事を自分は平気でやってのけるわりに、私が同じようなことをしようとするとどこからか現れて代行し、私を引きずって離脱する。


 「まったく、世話好きなことだな。」


 彼は自国の最難関アカデミーで私と主席を争っていた。戦闘技能では及ばぬことこそ多かったが、座学では明らかに私より出来が良かった。結果、卒業時の主席は過去最高得点で私が。次席は私に僅差で迫った彼が。これはちょっとした私の自慢。

 卒業の際、彼は誰にも気づかれぬ程度にすこしむすっとしながら『おめでとう』と言ってきた。

・・・思わず頭を撫でまわしそうになった私はしっかりにやついていたと思う。




 さて、それなりに休憩したところで先の書類を手に取る。軍部に割かれる予算が他の部署から回って多く集まっている事のわかる書類だ。しかし多くなりすぎている。これでは各所からの暴動が起きかねない。

 そこでふと、彼はこの事を知らないのだと気づいた。



 (どうしようか・・・彼は今きっと、)


 軍から資金を巻き上げようとしている。



 「うーん、目に浮かぶな・・・」


 素材を集めに彼自身が旅に出るだろう。『行動は迅速に』がモットーであるツァーリ隊。彼もその一員であり、恐らくは一番それを実行に移している。さて、今期の予算が確定される前に彼を止めねば。


 『現在王城にいるツァーリ隊に告ぐ。ライル・フォスターがご乱心だ。見つけた者は迅速に確保しろ。』


 『『―—―了解。』』


 隊員たちは(今度はどうしたのだろうか・・・)と思いながらきっと捕まえてくれる。それなりに繰り返される鬼ごっこはツァーリ隊名物になりつつあった。


 きっとこの国にとって私がどれほど重要か、大切かを冷静に詰め込んで語る予定だったのだろう。今の念話は彼に届かない。意識が埋め尽くされていれば届かない仕様だ。直接彼に訴えかけることもできるにはできるが、丸め込まれる気がしてならない。

 なので、捕まえてきてもらおう。


 「ライル、早く戻ってこい。」


 きっと今の私はだらしない顔をしている。


 


―—―・・・!———


―—―・・・!!・・・、———



 (始まったな。)


 遠くから『おい、ライル!』『なんですか!!今忙しくなる、』と怒鳴り声が聞こえた気がした。そのあと細く光の線が空へ伸びたので緩く交戦しているのだろう。今日もツァーリ隊は仲が良い。


 ――—過去に、女性隊員とライルが話しているのを見て割り込みそうになったことがある。

 女性隊員はいい笑顔で、ライルも珍しく微笑んで喋っていた。胸が締められるような感覚の後苦しくて踏み出そうとしたが、彼の言葉を聞いてすぐに物陰へ隠れた。

『大佐は、学院時代から強くて、綺麗で、かっこよかったんです。生徒たちを率いて前線に立ち、笑う姿は凛としていて、この人は生まれながらの戦姫(いくさひめ)なのだと。思いました。』

 思わず口を覆って本気で気配を消した。

 『次席の私なんかは眼中にないと思っていましたが、入学して一年後、大佐に座学で勝てるようになった頃ですね。そのときに「魔法学の指定術式記号の立体性を細かく教えてくれないか」と、言われて。』

 『その時初めて大佐と話したのですね。』

 『はい。話してみれば、少し抜けているところもあって放っておけないと思いました。』

 『・・・幻滅しました?』

 『いいえ、まったく。どころか凛とした大佐が私の前では多少気を抜いてくれるのが嬉しくて、しかし見えてくる才能に辟易しつつ尊敬と憧憬を強めました。』

 『よかったです。これで大佐の悪口を言われてしまったら、私、ライルさんを殺さなくてはいけないとおもいましたからぁ。』

 『ならば、君に殺されることは一生ありませんね。』

 『・・・同志でしょうかぁ。』

 『・・・そうでしょうね。』

 


 思い返してみるとなんの同志だとか、日頃ふわっとした可愛い彼女の目が戦闘時と同じように鋭くなっているのは何故だろうかとか、疑問はたくさんあった。が、しかしその時私にはライルの嬉しすぎる言葉しか頭になかったのだ。

 気づかれぬように気配を殺していた私の真正面から気持ちの良い風が吹き、心を落ち着けようとはふぅと息を吐いた。そのあとは、背を向けていたはずの彼女に「っ!大佐!?いるんですか!?」と気づかれたり、言葉にびっくりしたのか彼も振り向き「大佐・・・?」と呟いてこちらを凝視していたので私が苦笑いしながら出て行ったりで結局ばれたというお話なのだが。


 ・・・私は忘れない。そのあと今世紀最大に恥ずかしいと言うように顔を赤く染めて俯いた可愛い彼の顔を。




 (まぁ、なんにせよ隊の者が優しい者ばかりで助かっているな。)


 ツァーリ隊も何人かが帰らぬ者となった。しかし他の隊に比べて殉職者が圧倒的に少ないのは優秀な者が多かったからだろう。私は、彼らの分も生に固執しようと決めた。 


 そしてもうそろそろ多人数対彼一人の戦いが終わる頃だろう。音も静まってきた。

 まずは書類を見せてから予算を搾り取らないでくれとお願いしよう。腕の費用は私の個人財産からで足りるだろうか。

 とりあえず、確定した情報が少ないなか判断するのはやめよう。今は彼の言った通りに静養して、少しでも国と軍に貢献できるように力を尽くす。

 頑張ったら、細かい事でも彼は見つけてくれて『お疲れ様でした。』と声をかけてくれるのだから、敵わない。

 私の為に尽力して、私の為に外へ飛び出す。いつもは落ち着いた性格が時折暴走するのは困るが、ハイスペックな彼はその能力を全て私につぎ込んでくれた。惚れるなという方が難しい。


 (困ってしまうな。)


 きっと私は彼の隣に生涯立ち続けたい。








 愛しの彼は、私を治す。


 ならば私は、愛しの彼を死ぬ気で守る。









 ~おまけ~


 「大佐ぁ~確保しました。褒めてください!!」 


 「っ・・・大佐に止められたと言えばいいのになんで皆さんで捕縛魔法打ってくるんですか・・・」


 「あ、大佐に内緒だって言ったのに」


 「なんだ、皆してライルと遊んでいたのか。」


 「遊んでませんよ、一斉に様々な属性の捕縛魔法打ってきたんですから。避けるのどれだけ大変だと思ってるんだ貴方たちは・・・」


 「でも避けきったのだろう?」


 「避けきりましたけど。」


 「でも捕まえましたぁ」


 「捕まりましたけど。」


 ツァーリ隊は今日も仲良し。



※作者が思っているよりライルが可憐になってしまい困惑しております。

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