三日目、石精の祠。創天造地、天降地湧、そして契約へ
さあ、新しく覚えた術を試すよ。
何が起きるかな。
エヌピーがやめて欲しそうにこっちを見てるけど気のせいだよね。
「『創天』!」
ぼくは部屋の真ん中辺りに向かって『創天』の術を使った。
術の説明文は「天を創る術」だった。
相変わらず、術の名前から分かることしか書いてない説明だったよ。
うん、空中に白くて薄い円盤が現れただけだね。
薄いけど、四畳半の部屋くらいの大きさだよ。
まぁ、今までも単独で効果を発揮できる術が無かったし、きっとこれも…。
「『造地』!」
ジゴクちゃんの『造地』の術を使うと、ぼくが『創天』で出した円盤の下の方に黒くて薄い円盤が現れた。
大きさも同じくらいだね。
あれ?
これだけかな?
「また地味な術ですけど、天化地化みたいに凄い効果があったりするんですかね?」
「どうだろう?MP20も使う術だし、さすがにただの円盤じゃないと思うけど…」
あっ、でもあれって足場にはなりそうだよね。
「行って参ります!」
ジゴクちゃんが駆け出した。
「えっ!?」
止める間もなく、ジゴクちゃんが『造地』で出した円盤の上に飛び乗る。
「まさしく地に足が着いていると同じ安定感に御座います!」
つまり、地面を造る術ってことかな?
でも…
「いきなり乗ったら危ないよ!」
「そうですよ!もう! 今度からそういうのはエヌピーの仕事ですからね!」
「ごぶごぶ!?」
うん、危険な仕事はモンスターのエヌピーに任せるのが良いよね。
何故かエヌピーが嫌がってる風に見えるけど、作り物のモンスターだからそういう風に見えるように振る舞ってるだけだよね。
「なんと!つい好奇心が抑えられずに飛び込んでしまったので御座います!」
円盤から降りてきたジゴクちゃんが「仕事を奪い申し訳のう御座います…」ってエヌピーに謝る。
「ごぶごぶ…」
うんうん、エヌピーもきっと許してくれてるよね!
「それじゃあ、次は『天降』!」
みんな沈黙…。
つまり静寂…。
まさしく、しーんって状態になった。
「テンゴク、もしや術の名称が違うのではないでしょうか?」
うん?
読み方が違ったのかな?
ぼくのタッチパネル型の名苻で術の名称を見ると、漢字で『天降』って書いてあった。
試しに『天降』の名称をタッチしてみると『てんからふるか』って読み方が表示されたよ。
むむ…。
こんなの読めるわけないよね。
「じゃあもう一回…」
気を取り直してやってみよう。
「『天降』!」
今度は発動したみたいでMPが減った感覚があった。
さてと、効果は…。
「何やら、『創天』の円盤から光の粒が出て参りましたが…」
もわーって出てるね。
でも、やっぱり効果が分からないよ。
「何かの攻撃なのかな?」
術の説明文は「天より降らす術」だったけど…。
「エヌピーに触ってもらいます?」
「ごぶ?」
「そうだね。とりあえず、剣で触ってもらおうかな」
「ごぶごぶ…」
「それじゃあ、エヌピーにお願いします!」
「ごぶ!」
あっ、すっごい嫌がってる!
顔をぷいっと背けて…。
あれ、嫌がりながらも足は真っ直ぐに円盤の方に向かって行ってるよ。
やっぱり、エヌピーは本気で嫌だって思ってるわけじゃなくて、こういう演出なんだね。
表情とかも細かく設定されてるみたいで面白い。
「ごぶー、ごぶー」
うーん、ブーブー言ってる気がするね。
でも、ちゃんと剣で光の粒を叩いてくれたよ。
「ごっぶごぶー」
光の粒に触っても何も起こらないね。
本当に意味が分からない。
「こちも試しに『地湧』!」
おっ、ジゴクちゃんの術も変な読み方みたい!
黒い円盤の方からふさふさと、黒い毛玉みたいのが湧いて来た。
うん、なんだろうね。
黒い毛玉と白い光の粒。
それぞれがぶつかっては消えていき、しだいに全部が消えていった。
「はて、これにどのような意味があるのでしょう?」
暇なときに眺めるくらいしか用途が無さそうだね。
「多分これ、属性を与えないと役に立たない術なんじゃないですか?」
「属性?」
さっき、シュラちゃんの翼が黒っぽくなったのも属性だっけ?
「『燃・潤・流・塊』という基本性質から発生する『火・水・風・土』の四つの属性をそれぞれ…。って、私は無属性なので持ってないんですけど、大抵の人にはどれかあるはずですよ。魂とかオーラの色で判別出来ます」
むむっ。
「じゃあ、ぼく達の白と黒のオーラは何て言う属性なんだろ?」
どっちかっていうと光とか闇っぽいけど…。
「お二人はもう、天属性と地属性とか特別なやつなんじゃないですか?名苻でも見れますよ」
「あっ、そうなんだ!」
「なんと!そのような項目は見当たらなかったような…」
そう言えば、ぼくも見たことないね。
「属性って魂につくものなのかもしれませんし、地球人の名苻にはないのかもしれませんね」
うーん…。
って、結局はこの術の使い道はよく分からないってわけだね。
「ふよふよの方は分からないですけど、円盤の方は動かせたり、天地の向きを変えて出せたりしないんですか? 前後左右上下と自由自在の足場だったら便利ではありますよね」
確かに。
ものの落ちる方向が変わるってことは、ジゴクちゃんのワンピースも、シュラちゃんのドレスもめくれないから女子にも嬉しいし、頭に血が昇ることもないから人体にも優しいよね。
「それじゃあ、ジゴクちゃんの出した円盤のちょっと横にしとこうかな」
ぼくは、『造地』で出された円盤からエヌピーを挟んで反対側に狙いを定める。
「『創天』」
すると最初に出てきた円盤が消えて、今狙ってた場所に新しい円盤が現れた。
あぁ、出せるのは一個までなんだね。
「ごぶ!?」
『創天』と『造地』の円盤が、お互いに対になるようにくるんっと向きを変えた。
そしてエヌピーは『造地』の円盤の方に横向きに引き寄せられたよ。
ちゃんと二枚の円盤の間の重力も変化するみたいだね。
重力の向きが目に見える分は『天化』と『地化』よりも使いやすいね。
「ごっぶっごっぶー♪」
おお!
横向きの円盤の上を、横向きで走り回るエヌピー!
変な感じだね!
「使いようによっては空も飛べそうだね」
円盤と円盤の間をびゅーんって感じ。
「実際は落ちているので危険は高そうに御座います」
「確かに。のんびりとは飛べそうにないね」
うーん、新しい術は足場でした、っと…。
「次の術を使ってみようかな」
「契約と召喚で御座いますね!」
「おっ、エヌピーと契約できたら別のダンジョンにも連れていけますよ。レベルは1のままですけど…」
それって流石に…。
いや、先頭を歩いてもらえば罠避けに使えるかな…。
うーん。
「試しに、エヌピーと契約してみようかな」
円盤の上を走って遊んでるエヌピーが、召喚の話になったらこっちに戻ってきた。
何だか、ちゃんと会話を理解してる感じもするんだよね。
「あれ、エヌピーが契約して欲しそうにこちらに近付いてきた気がします」
「こちにもそう見えるのです」
「うん、じゃあ…。『天魔契約』!」
おおっと…!
エヌピーの体がキラキラと光出したよ!
ゴブリンだったのに別の生き物に形を変えていってる!
なにこの術!?
「ひゃっほーい!皆さんお待ちかね!リプシー・マウレイだよー!」
あれ?
とても元気なクリオネの妖精みたいなのが出てきたよ!




