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HEAVEN AND HELL  作者: despair
三日目、石精の祠
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3日目、石精の祠。回復ポイントにて



 ゴブリンファイターをやっつけると部屋の真ん中にぴょこんと石の台座が現れた。

「あっ、回復ポイントですよ」

 休憩所みたいな所を想像してたけど、石の台座で回復するんだね。

「でも、あのゴブリンだけ残っちゃってるよ。倒しとく?」

 台座の横には『天化』されたままのゴブリンが、ゴブリンファイターの剣を持ったままで待機してる。

 戦意はなさそうに見えるけど、近付くのはちょっと危ないよね。

「私も初めて見たんですけど、襲ってこないのは中立キャラですよ。エヌピーシーとか呼ばれてるんですけど、どういう意味なのかは知りません」

「うーん、大丈夫ならほっとこうかな?」

「そうですね。回復だけしちゃいましょう」

「無益な殺生は避けるが善良なる者の努めに御座います」

「まぁ、ダンジョンで敵を倒すのは有益な上に、殺生でもないんですけどね」

「なんと! 為らば心持ちの問題で御座いましたか」

「そんなとこだね。えっと、どうやって回復するの?」

「あっ、手をかざすとクリスタルが出てきますよ」

 シュラちゃんの言うとおりに台座に手を近付けると、台座の中央にクリスタルがぼわんっと現れた。

「あれ、これってシュラちゃんの名苻みょうぶと同じだね」

異世界イツ・ルヒに昔からある機能って、ほとんどがこのクリスタルから操作出来るんですよ。多分、異世界イツ・ルヒの人の名苻みょうぶが皆同じになるのもこれのせいだと思います」

 ぼくの空中に浮かぶタッチパネル式のウインドウとも違って、これは意識しただけで反応する感じ…。

 何て言うか、自分の意識が目の前のクリスタルの中に入ってしまったように錯覚しちゃって…。

 うん、ちょっと酔う…。

「ごめん、代わって。操作に慣れてなくて酔っちゃった…」

 ぼくの代わりにシュラちゃんが「つかまつり!」ってジゴクちゃんの真似をしてからクリスタルの操作をしてくれた。

 すると、クリスタルから緑の光がぶわっと広がったよ。

 光って言うより、緑に光る風が吹いたって感じだった。

 うん、MPが全快してるね。

 クリスタル酔いは治ってないけど…。

 何だろうね、ジゴクちゃんとの以心伝心モードで意識の中の自分を動かした時と同じような感じで出来そうなのに、自分の外にあるものが自分の意識どおりに動いちゃうのってとっても違和感があったよ。

 意識に同調するから操作感は凄く良かったし、あれの操作感に慣れちゃうと名苻みょうぶがあの形になるのは頷けるね。

「大丈夫で御座いますか?」

 心配してくれるジゴクちゃん。

「うん、もう平気。心配ありがとうね」

 これくらいで心配かけれないもんね。

「はて?心配するこちにはテンゴクの無事だけで十分に嬉しきことで御座いますが、その上に礼を言われると、何ともこう…」

 ん?

 ジゴクちゃんが不思議そうににやけてる。

 笑うのを我慢しているのかな?

 何だろうね?

「どうしたの?」

「あっ!私は分かりましたよー!」

 シュラちゃんがにっこりと謎は解けた宣言する。

「ジゴクさんはですね。テンゴクさんが無事で、それだけでも嬉しいっていう時に、さらにお礼まで言われると嬉しすぎて大変だよーってなっちゃってるんですよ。ね?」

 シュラちゃんがジゴクちゃんを横目で見る。

 ジゴクちゃんは顔が真っ赤になっている。つまり照れてる。

「シュララバ様の仰るとおりに御座いまする…」

 あぁ、社交辞令って感じで何気なく言ったような気もするけど…。

「気遣われて嬉しかったから、その心遣いにお礼を言うのが礼儀っていうか…」

「あっ、社交辞令だー、とか野暮ったいこと言わないで下さいよー?」

 うっ、言おうとしてたよ。

「いえ、社交辞令でも良いのです。ただ、昨日は心配しても礼など頂けなかったので、本日は礼を言われたことが尚更に嬉しく…」

 昨日って何だっけ…

 色々あったけど…

 あっと、心臓が止まった後と、ジゴクちゃんにぼこぼこにされた後だね。

「なんですか?テンゴクさんって昨日は嫌な感じの人だったんですか?」

「違うよ。昨日は死にかけた後で意識がはっきりしてなかった時と、ジゴクちゃんに格闘戦で負けて悔しかった後で、ちょっと心に余裕が無かったっていうか…」

 我ながら、これはしょうがないと思った。

「そういうのを言い訳って言うんですよ?」

 だよねっ!

「もう!私、テンゴクさんとジゴクさんはベストカップルだと思ってるんですから、そのイメージを壊すようなことはしないで欲しいですよ!」

「えっ、ベストカップルって…」

 そんな風に思ってたんだ…。

 うーん、ぼくまで顔が赤くなってる気がするよ。

 いや、ぼく達って、シュラちゃんから見たら成人前くらいに見えるんだし、大人のお兄さんお姉さん扱いされてもおかしくはないんだけど…。

 なんだかなぁ!

「ベストカップルとはカップルの上位版に御座いますか? こちとテンゴクはカップルに見えるので御座いますか?」

 顔の赤いジゴクちゃんの素朴な疑問がぼく達を襲う。

「いやもう、そうとしか見えないんですけど、でも実際は私と同じ年の子どもなんですよね…。ちょっと、私がそのことを忘れがちになっちゃうだけで…。そうです! お二人の関係はお二人が決めることですからっ!」

 あぁもう、シュラちゃんまで顔が真っ赤だよ。

 ベストカップルとか口から滑らせちゃったんだろうな…。

 最後まで心の中に閉まっておいて欲しかったよ!

 こんな所で子ども三人で顔を真っ赤にして何してるんだか…!

「ご…ごぶ…」

 あっ、ゴブリンも一匹居たね。

「って、このゴブリン!」

 すっかり忘れてたよ。

 ゴブリンファイターからもぎ取った剣をぼく達に差し出そうとするポーズで固まってるよ。

「えっと、このゴブリン、仲間にします?」

「えっ? そんなことできるの!?」

「はい。滅多にないことですけど、逃げずに生き残ったモンスターってエヌピーシーとして仲間に出来るんですよ。このダンジョンに居る間だけですけど」

「何だか面白そうだし、仲間にしてみたいな。ジゴクちゃんはどう思う」

 よし、このゴブリンのおかげで赤面トークから脱出できたよ!

「デメリットが皆無であれば、テンゴクの意見を尊重することがこちの意思に御座います」

「それじゃあ…」

 シュラちゃんが回復ポイントのそれとまったく同じクリスタルの名苻みょうぶを出す。

 手を近付けて何やら操作してるけど、操作自体はあのクリスタルと同じように意識だけでやってるみたいだね。

 クリスタルに手をかざした方が意識が集中できて操作しやすいのかな?

 今度試してみよっと。

 緑の肌のゴブリンが「ごぶっ♪」って言って立ち上がる。

 喜んでるみたい。

 でも作り物のモンスターなんだよね?

 誰かが動きとかも設定してるのか、本物のゴブリンのコピーとかクローン的なやつか、どっちなんだろうね。

「はい、仲間にできましたよ。でも、名前決めないと駄目みたいなんですけど…」

「名前…。ゴブリンじゃ駄目なの?」

 ぼくはゲームとかでも仲間の名前は変えないタイプ。

「敵か味方か識別する為にも、名称を変更するべきで御座います」

 あぁ、確かに。

「じゃあ、エルピーみたいに存在を忘れてたエヌピーシーだし、エヌピーって名前でどうだろ?」

 うん。

 我ながら、自分でもこれは無いなって思う名前を言ってしまったよ。

「はい、登録しましたよ」

 早っ!

「ごぶっ♪」

 あぁ、ゴブリンも仲間に対してはこんな風に笑顔で喜んだりするんだね。

 ちょっと倒しにくくなっちゃうなぁ。

「魔物使い系の職業が居たら仲間のモンスターも強化出来るんですけどね。残念ながらエヌピーはレベル1のままです」

「こち達の盾となるものが居ればシュララバ様が動きやすくなることに価値はあるやもしれません」

「確かに、二人で術を使ってる間って接近戦には無防備だもんね」

「なるほど。お二人の術って強力ですけど、二人居ないと使えない所は弱点ですね。パーティーのうちの二人が術師ってバランスは一般的には悪いって言われますし…。近付かれたら確かに不利ですよね」

 山吹さんみたいに動きを止められない相手とは分が悪いんだよね。

「あっ、レベルは上がったんですよね?私もレベル11になりましたし、お二人はもっと上がったんじゃないですか?」

 あぁ、大量のゴブリンを倒したんだったよ!

 ぼく達は名苻みょうぶを出してレベルを確認する。

「あっ、レベル8になってる!」

「なんと!こちはレベル7で御座います!」

 あれ!?

 ぼくが5から8に上がったのに、ジゴクちゃんは6から7にしか上がってないよ!

「総MP量ってどうなってます?」

 総MP量ってなんだっけ?

 ぼくは自分のステータスをじっくり見る。

 あっ、これかな。

 パラメーターやスキルに振ったMPとかも合計したMPの総量みたいのが出てる。

「ぼくは141だね」

「こちは140で御座います」

 あっ、MPも1しか差がないんだね。

「その差がレベルに出ちゃったんですね。総MPを20で割った数字がレベルだったはずです」

 んっと、141割る20だから…

 7と20分の1だよね。

 この答え方だと学校の算数のテストは三角になっちゃうけど、今は良いよね?

 ジゴクちゃんは7ちょうどだから、端数は切り上げってことみたい。

 強さが数字で計算されてるって、やっぱりゲームみたいだね。

「ぼくの方がレベルが低かった分、経験値が多くもらえた感じかな」

 レベルが上がると貰える経験値が減っていくんだよね。

「そうですね。あんなに大量の敵を一度に倒したら、レベルの逆転っていうのもあり得るんだと思います」

「ならば、次の戦闘にて再度の逆転劇が…」

「起こりそうだね。ってどうしたの?」

 台詞の途中でジゴクちゃんが固まってる。

 滅多にないことだよね。

「シュララバ様! 先ほど、ダンジョンの敵はしばらくすれば復活すると…?」

 あぁ、言ってたよね。

 あっ!

「そうですよ。そこの階段から階層を移動すれば確実に元通りに…。あっ!」

「ここの敵も復活するの!?」

「はい! そうですよ! ここってレベル上げに最適ですよ!」

 わお!

 大量の雑魚と回復ポイントって美味しすぎる組み合わせだよ!


次回は別人視点の話になります。

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