2日目、会話
手紙の内容を聞いた女の子は驚いて固まっていた。何故か顔が少し赤い。もちろん、固まっている子どもに麻袋をかぶせるような悪い大人はここには居ない。心行くまで驚けば良いと思う。
女の子は、まだ声をあげないように努めているように見える。ぼくは、「喋ったら良いと思うよ」と言ってあげる。禁止されてるって書いてたけど、そんなのって酷いよね。
「はい」と女の子が返事をくれた。少し震えながら、恐る恐るという感じでぼくを見ている。
女の子への手紙を読んで、お互いに状況がさっぱり分かってないってことがぼくには分かってしまった。これからどうするか、話し合わなきゃ始まらないと思う。
まずは、「名前って、本当にないの?」と女の子に聞いてみる。いつまでも女の子じゃ呼び方に困る。
「はい。神威に名は不浄と。」
ぼくは「そっかぁ」とだけ返事をした。
んんっ?
ええっと、「はい」って言ったのは分かった。だから返事しちゃったんだけど、「しんいになはふじょうと」の所がさっぱり分からなかった。
まぁ、理由はさっぱりだけど、「はい」って言ったのが分かったから良いや。良いよね?
コミュニケーションが取れるのか不安になってきたけど良いんだい。
「なげやりな考え方をするくらいなら疲れてるんだろう。休め。」と言う父さんの言葉が浮かんだ。誰のせいで疲れてると思ってんだよ!っと、ぼくの頭の中に浮かんだ父さんにうんざりしつつ、確かに疲れてるし休もうと思った。
いつまでも正座してると女の子も疲れるだろうし。
「ちょっと休もっか。君も疲れてない?」と聞くと、まずは首を縦に振ってから、少しして思い出したように「はい」と言ってくれた。
「あっ、ぼくのことは好きに呼んで良いよ。学校じゃ、『典語くん』がいつの間にか『テンゴク』になっちゃってってて、皆にそう呼ばれてるけど、ちょっと酷いと思わない?」
なげやりになったせいか、なんだか普通に、自然体で、女の子に話しかけてしまった。
「そうですね」っと良いながら、女の子も自然に笑っていた。
無表情の時の置物みたいな綺麗さと違って、笑顔はとっても可愛いかった。
笑顔を見るのが照れ臭くて、ぼくはふいっと目をそらしてしまう。そのまま照れ隠しも兼ねて「冷たいお茶を持ってくるね」と言って冷蔵庫に歩き出すぼくに、「はい」と返事がくる。
とても柔らかい声だった。