3日目、石精の祠。雑談
さて、ぼく達はぼちぼちとダンジョンの先に進んでいく。
トカゲの次の部屋にはコウモリが、その次の部屋には毛玉みたいのが居た。
どっちも一匹だけだったから、シュラちゃんが翼で簡単に倒しちゃった。
というか、闘士になってみたけれど、小動物を蹴ったり叩いたりするのに抵抗がある。
明らかに弱そうだと、ちょっと攻撃できないかも…。
「ジゴクさんも11歳ですか?」
道中、そんなシュラちゃんの質問に、ジゴクちゃんは悲しそうな顔をする。
「こちには、自身の年齢が分かりません。七日に一度の食事を幾度も繰り返していた記憶は御座いますが、こちという存在としては本日が3日目、ジゴクとしてのこちは丸一日しか生きておりませぬ」
見た目はぼくと同い年くらいだけどね。
「それじゃあもう、テンゴクさんと同じ歳で良いんじゃないですか?」
うーん。
「ぼくとしては、ジゴクちゃんの両親にも、一度はちゃんと聞いてみたいんだよね」
居るのかどうかも分からないけどね。
居たとしても、ジゴクちゃんを狙ってる『新世界』の関係者だったら、敵ってことになるんだろうか…。
「そうですよね。ぼくにジゴクさんを下さいって、聞いてみないといけませんよね」
ちょっとシュラちゃん!?
「そうじゃなくてっ!そんなんじゃ全然ないからねっ!聞くのは年齢とかだからっ!」
シュラちゃんがにっこりと「あらら、それは残念ですよねー?」って、ジゴクちゃんに聞いてるよ、もう!
だけど、からかうようなシュラちゃんの質問には、今度は毅然とした態度のジゴクちゃん。
「こちはテンゴクにすでに拐われている身で御座います。誰の顔色を窺う必要も御座いませぬ」
きっぱりと断言するジゴクちゃん。
「きゃー! ジゴクさんは男前過ぎますよ。こっちが照れてしまうじゃないですか!」
これはもう、ぼくも未だに照れちゃうよ。
聞いた方が恥ずかしくなるくらいに真っ直ぐ答えるジゴクちゃん。
照れるという言葉をまだ知らないのかもしれない。
まぁ、ジゴクちゃんにとっては拐われたって言っても、誘拐されたって意味なんだけどさ。
あれ、でも誘拐されたっていうのが、ジゴクちゃんにとっては王子様とお姫様みたいな関係だって勘違いしてたっけ。
ちゃんと説明してからも最良の手段だったって嬉しそうに言ってたし、感覚的にはいわゆる駆け落ちみたいに思ってるのかもしれないね。
って!
いやいや!
せめて駆け落ちじゃなくて家出くらいにしとこう!
ぼくの心の平穏のためにね!
「ともあれ、最年長のシュララバ隊長がリーダーで間違いなかったんだね」
「あっ、テンゴクさんが話をそらしましたよ。でも、見た目年齢とか、統率力とか、もっと大事な要素で決めていただきたいですよ。今回は、経験者ということでリーダーでかまいませんけど…」
「とりあえず、ぼく達もトリセツを一回は読んどかないとだね」
「そうですね。帰ったら忘れずに、ですよ」
「なんと!テンゴク、こちは初めての宿題を頂戴できたのです!トリセツを読むのが楽しみに御座います!」
思わぬ所で念願の宿題が貰えて嬉しそうなジゴクちゃん。
「ふふふ、トリセツが楽しみだなんてジゴクさんは面白い人ですね」
宿題が楽しみだなんて、確かに面白い。
そこらへん、とても純粋なのがジゴクちゃんの魅力の一つかもしれないね。
「宿題貰えて良かったね。父さんが宿に荷物をちゃんと送ってくれるか分からなかったし一安心だよ」
「へ? テンゴクさんの父さんってワドウキザシって聞きましたけど、そのワドウキザシが? うちの宿に? 荷物を送ってくるんですか?」
何故か人の父親をフルネームで連呼するシュラちゃんの、何故かハテナマークだらけの質問に、ぼくは「うん」と頷く。
「いえ!いえいえ!ちょっと待って下さいよ!ワドウキザシから荷物なんて届いたら死人が出ますよ!?」
へ?
「いやいや、荷物が届くかもしれないってだけだよ? 流石に父さんでも、荷物で人は殺せないよ?」
我ながら、当たり前のことを言ってると思った。
「何言ってるんですか!? 息をするように世界を滅ぼせるワドウキザシからの小包なんて恐ろしくて、近寄ることも出来ませんってば!絶対に避難勧告が発令されますよ!そしてウガリットの皆が我先にと都市から脱出しようとしてパニック状態になるに決まってますよ!ウガリットはもう壊滅寸前の大騒ぎですよ!」
でも、シュラちゃんの、というより異世界の人の父さんの認識はかなり違うみたいだね。
小包ひとつで都市が大混乱って、ちょっと大げさだと思うけど、息するだけで世界を滅ぼせるって…。
そんな父さんと、ぼくは今日も喋ったんだけどね。
って、そういえば…。
「この宿に来る前に、ぼくが父さんの子どもだって町の中で山吹さんが言ってたけど、ちょっとざわざわしたぐらいで何もなかったよ?」
父さんからの小包は怖いけど、子どもなら平気ってことかな?
「それはそうですよ。別に本人が来たわけじゃないんだし、ヤマブキ様がついてるんなら無茶苦茶なことにはならないだろうって安心できますからね」
うーん、父さんの扱いとは真逆に、山吹さんが聖女かっていうくらいに信頼されてるよね。
「それじゃあ、山吹さんが荷物を持ってきてくれたら町は壊滅しないかな?」
「それなら大丈夫ですよ!ヤマブキ様が危険物なんて持ち込むわけがないですから!」
それはぼくもそう思うんだけど…。
やっぱり、異世界の人ってちょっと大げさなんじゃないかなぁ…。
なんてことを話してる間にダンジョンの一階層をクリア!
っていうか敵が少ないよ。
ランクEのダンジョンって、レベル1~20くらいが適正な難易度らしいけど、石精の祠はレベル10までが対象の簡単なダンジョンみたい。
その一階ならレベル3くらいでも何とかなるそうだ。
ちょっと楽すぎるけど、ぼくのレベルも上がってないみたいだし、敵が弱すぎたってことだよね。
「二階層からは敵が少し強くなりますよ」
シュラちゃん曰く、そういうことらしいし、そろそろレベルも上げられると良いな。
ジゴクちゃんはテンゴクが側に居ればメンタル最強なのでとても男前です。
テンゴクは時々まだ女々しいですが…。




