3日目、石精の祠。魂、神、年齢の話
さて、次の部屋に行く前に…
「ゴブリン10体倒すまでにどのくらい戦うことになりそう?」
MPを節約した方が良いかもしれない。
「んー、ここって二階にゴブリンが居たと思うんですよね。私、前に来たことはあるのでマップはありますし、迷うことはないですよ。順調にゴブリンが出てくれたら、ついでにボスも倒せると思います」
シュラちゃんの話だと余裕はありそうだね。
「MPの心配は必要ない?」
「ああ、もし足りなくなっても回復ポイントがあるので大丈夫ですよ」
それは安心。
「どうせだし、闘士になっとこう」
ジョブ魂を変える時にもMPは消費されるから、このままの方が良いかもってちょっと迷ってたんだよね。
「こちも、闘士で行く方が効率は良いと思いました」
うん、シュラちゃんに残酷って言われるのもやだし、一度攻撃するのに最低でもMPを9も使っちゃうのは難点だよね。回復ポイントがあるならジョブ変更のMPまで考える必要はなさそうだ。
「よし、『ジョブ魂:闘士』『インストール』」
「では、こちも『ジョブ魂:闘士』『インストール』」
うん、闘士になるの久しぶり。
パラメーターは下がってるのに身体が身軽になってる感じがするよ。
「ほへー。ジョブ魂って初めてみましたが… なかなか凄いですね…」
「そう言えば、ジョブ魂を嫌がる人がいるから街中で出さない方が良いって聞いたっけ…。シュラちゃんは平気なのかな?」
そう言えばもう街中で一回出してたっけ…。
大丈夫かな…。
「初めて見たのでびっくりしましたよ。魂をぶんぶん振り回す人なんてこっちでは居ませんし。でも、嫌ってるのはお年寄りとか『終末論者』くらいですよ。私ももう平気です」
魂を入れ換えるのが異世界人にとってどんな感覚なのか、はっきりと分からないから気を使っちゃうよね。
気にしてない人にとっては気にし過ぎることが逆に煩わしかったりもするだろうし、難しいね。
「あれ、『終末論者』って何?」
うん。
ここに来て新ワードがさらっと出てくると思わなかった。
まだまだ知らないことの方が多いはずなのにね。
「んー、私もよく知らないんですけど、神が消えたから世界もやがて消えるって信じてる人達のことですよ」
宗教的な感じかな?
まぁ、神様が消えるんだし、世界が本当に消えてもおかしくないよね。
「エルピテ様の居た『新世界』とは赴きが違うようですが、神の消失とやらに影響を受けている辺りが同様なのですね」
うーん。
一言で『神』って言っても、実は色んなニュアンスがあるみたいなんだよね。
エルピーも、ジゴクちゃんも、シュラちゃんも、神様とは呼ばずに『神』って呼ぶんだよね。
山吹さんはどうだったかな…?
父さんは…、そもそも相手をバカにする時しか様をつけないタイプかな…。
エルピーなんて、ジゴクちゃんには様を付けるのに、神様は『神』って呼ぶ。
神に仕える神官だったのに、何か変だよね。
そのエルピーに『新世界』で神様になるべく育てられたジゴクちゃん。
そのジゴクちゃんも、皆に様付けしてるのに、ぼくと神様には様を付けてないよね。これは自分が神の方に近くて、人様の方が遠い存在だって意識がジゴクちゃんにまだ残ってるからかな…?
シュラちゃんも、さっきは神様に様を付けてなかったけど、これは周りがそう呼ぶからかもね。でも、特に様を付けることにこだわりはないって言うのは間違いない。
山吹さんには絶対に様を付けそうだから、神様よりも山吹さんを敬ってるのも間違いないよね。
こだわりがないっていうのは山吹さんも同じで間違いないかな。
うーん、つまり…
「テンゴクー」
まるで以心伝心モードで話してた時みたいに、ジゴクちゃんにむにっとほっぺを掴まれた。
何故かふくれっ面だよ。
「あっ、ラブラブします? きゃー、ちょっと目を閉じてましょうか?耳も塞いどきましょうか?それともじっくり見てても気にならないくらいの二人っきりワールドに行っちゃいます?」
手で目を覆いながら指の隙間からチラチラとこちらを伺うシュラちゃん。
口調からは、からかってるような雰囲気がするよ、もう!
「ラブラブはしないけど、ジゴクちゃんはどうしたの?」
急にほっぺを掴むなんて、じっさいにやられるとちょっと痛かったよ。
「テンゴクが何やら物思いに意識を沈め、こち達を放っておくのでつい、掴んでしまったのです。意識の中の頬よりも、実際の頬の方が固めに御座いました」
「って、ほっぺの感触のことはいいけど…。うん、ちょっと考え事しちゃってたよ」
「テンゴクさんってば、神様について考えてたんですか?」
あっ、今度は様がついたね。
「うん、どうでも良いことなんだけどね。神って呼んだり神様って呼んだり、みんな違うんだなって思ってさ。この世界の神様って、どんなイメージなのかなって気になったんだよね」
「えっと、神様って、私が生まれた時にはもう消えてたはずで、よく知らないんです。神様のことならエルピーに聞くのが一番だと思います」
「確かに、神様に仕えてたんだし、エルピーに聞くのが良さそうだね」
シュラちゃんが生まれた時には神様ってもう居なかったんだね。
人工太陽ができたのがいつだっけ…。
神様が消えたのはそれよりはあとのはずだよね。
うーん、神様が消えたのって何年前なんだろう。
「そう言えば、シュラちゃんって何歳なの?」
「あっ、私は11歳ですよ。そう言えば、年齢って地球の人と同じ数えかたなんでしょうか?」
あれ、シュラちゃんってぼくよりちょっと年上かな?
ぼくは次の8月16日で11歳なんだよね。
「異世界でも一年って365日なのかな?」
「同じみたいですね。異世界一周、今では地球と同じ周期だって聞きましたよ」
「うーん。ぼくって次の8月で11歳なんだよね。シュラちゃんって実は年上になるのかな?」
異世界人って、地球人とは見た目の年齢が違ったりするのかな?
「へ? テンゴクさんって年下なんですか?いや、ほとんど私と変わらないんですけど、まだまだ子どもじゃないですか!?」
ぼくはうんうんと頷く。
流石に、子どもにしか見えないと思ってたよ。
「もうすぐ成人くらいのお兄さんだと思ってましたよ!」
「そんなに!?」
ぼくはシュラちゃんが二つくらいは年下だと思ってた。
っていうか、小学5年生が成人前くらいに見えるって、流石に考えもしなかったよ!




