3日目、石精の祠。三匹のトカゲ
「あっ、ダンジョン行く前にパーティー組んどかないと行けませんね」
そう言ってぼくを見るシュラちゃん。
「ああ、パーティー申請って唱えるんだっけ?」
あれ、エントリーだったかな?
「基本はエントリーですよ」
そう言えば、パーティーを申請したことって無かったな。
「誰がリーダーやります? レベル的には私ですけど、まとめ役になれるのはテンゴクさんかなって思うんですよね」
リーダーってあるんだっけ?
その説明は聞いてないような…
「ごめん。リーダーとかあるの知らなかったんだけど、何をすれば良いのかな?」
名目だけのリーダーなら良いんだけどね。
「えっと、パーティーを申請した側がリーダーになるんですけど、今だとダンジョンへのワープの魔法はリーダーしか使えないんです。パーティー組まないと一人だけ転送されちゃうんですよ。他にも色々、詳しくはトリセツ読んでください」
「トリセツあるんだ!?」
「へ? 名苻にありますよ?」
えー、誰も教えてくれなかったよね?
「うーん、まぁじっくり見てる暇も無かったかもね。今回はシュラちゃんにリーダーお願いして良い?」
「良いですよ。私も不馴れですけどね。『エントリー:テンゴク:ジゴク』」
シュラちゃんからのパーティー申請が名苻に表示されたので許可する。
「ふふふ、ではダンジョンへと参りましょうか」
エルピーはテントの隅へ行って「では、我は此方で待っていよう」と待機する姿勢になった。
あっ、エルピーのことを忘れてた…
まぁ、シュララバ先輩が居ればいいかな。
ぼく達が「ランクE 石精の祠」とネームプレートのついた魔方陣に入ると、シュラちゃんが『ワープ』って唱えた。
すると、辺りの景色ががらりとわって、苔むした石造りのダンジョンになった。
「はい、到着です。って、エルピーの存在を忘れてたんですけど!仲間外れに怒ってませんよね!?」
「ぼくも忘れてたよ…」
「こちもすっかりと…」
とりあえず、後で謝ろうと決めておく。
エルピーって、なぜだか影が薄くて時々困る。
「エルピーって、存在感を消す能力とかかな?」
「分かりませんが、違ったら申し訳なくて聞けませんよ」
「確かに…」
「魂を無くしたということと何か関係があるのやも知れません」
「それもそれで、違ったら申し訳なくて聞けませんよ…」
「それはなんとも…」
うん。
これは本日最大の謎にしとこう。
「何かあるならさ、そのうちに物知顔で誰かが説明してくれるよ」
「ふふふ、何ですかそれ?」
「うーん、お約束的な…」
たんに影が薄いっていうのも悲しいし、何か理由があったら良いね。
「お約束と言えば、ダンジョンの最初の部屋と、階段やエレベーターとか階層の移動ができる場所って、絶対に敵が出てこないんですよ」
「へえ、親切なんだね」
それは優しい設計だよね。
って、誰がダンジョンなんか造ったんだろ?
ゲームならともかく、リアルにこんなものを造る労力があったら、もっと別のことに活かして欲しいけど。
「そのかわり、扉を開けた先には何があるか分かりません。こんなランクの低いダンジョンには、流石に罠はないんですけどね」
そう言って、通路の先の扉に手をかけるシュラちゃん。
この先で、敵が出るかもしれないってことか。
「では行きますよ」
ガチャンと、重たそうな仕掛けが動く音と共に石の扉が開かれた。
次の部屋も、石造りで苔むしてるね。
「ギャスィー!!」
ん?
部屋の真ん中に、奇声を発するトカゲが三匹いるよ。
二本足で立ってるけど、足取りはちょっとふらふらしてる。
「『ふらつきトカゲ』ですね一人一匹ずつ行きましょうか」
そのまんまの名前だね。
「了解です。シュララバ隊長!」
「はい。って!隊長ってなんですか!?」
「頼もしき我らが隊長で御座います!」
「もう、ジゴクさんまで!」
ダンジョン行く経験なんて、地球人にはゲームくらいでしかないもんね。
経験不足でも異世界人は頼もしい。
「あはは、それじゃあ戦ってみようかな」
「それじゃあ、私から…」
シュラちゃんが翼を出してトカゲに向けて飛ばす。
ガシッとトカゲを翼で掴まえて…
やっぱり腕みたいだよ。
「『純化障壁』」
シュラちゃんが唱えると、翼が巨大なガラス玉みたいのに包まれた。
あれが障壁って言ってたやつかな。
「ギャース!」
障壁の中のトカゲが一鳴き。
そして、ポンって音がして煙みたいに消えちゃった。
「ふふふ、倒せました」
あ、死体とか出ないんだね。
良かった。
やってることは同じでも、それだけでずいぶんと気が楽になるよね。
レベル上げたら死体の山が出来るのも困るし、食べたりお墓つくったりも大変だし、ちょっと心配だったんだけど一安心。
「さて、ぼく達はどうしようかな…」
天化、地化しないと術で攻撃できないのって不便だよね。
一体倒すのにMPの消費が多すぎる。
って考えてたら、仲間を倒されたトカゲがふらふらと走ってこっちに向かって来たよ!
うん、敵もふらっと立ってるだけってことはないよね。
「それじゃあ…」
この二匹は天術、地術で攻撃してみよう。
「右のトカゲを『天化』」
「左のトカゲを『地化』」
ジゴクちゃんも即座に応えてくれた。
これで『天撃』と『地撃』で攻撃を…
って、あれ?
ふらふらしながら走ってた二匹のトカゲが、つるんっと足を滑らせたかと思うと、お互いに吸い寄せ合うみたいにくっついてから転んだよ。
あっ!
天と地は引き寄せ合うんだった。
これ、足止めにも良いかもね。
「ギャスイー!」
バキッ!
「ギャオッ!」
ボカッ!
って、うわわ…
二匹のトカゲが、お互いに邪魔するなって感じで喧嘩を始めちゃった…
足を引っ張らせてるのはぼく達なのに…
「これは…」
「なんと…」
何度か殴りあったトカゲ達が、二匹ともポンって音とともに消えちゃった。
あー…
「倒しちゃった?」
「そのようです」
後味が悪いけど、MPは節約できた。
MPは節約できたけど、後味が悪い。
いやぁ、言葉って使う順番で印象が変わるよね。
なんて、関係ないよね 。うん。
「混乱してなくても同士討ちってあるんですね。こんな倒し方は初めて見ましたよ。ちょっと残酷な気もしますが…」
うっ!
シュラちゃんの言葉が心に刺さる。
やっぱり残酷だよね…
三匹で仲良く過ごしてたのに、最後は喧嘩してサヨナラだなんてさ…
ぼく達がそうなるって考えたら、とっても辛い。
「ああ! お二人とも! へこまなくて良いですよ! ダンジョンのモンスターって本物の生き物ってわけじゃないんです。さっきの同士討ちだって、機械的にそう動くように設定されてただけなんですから!」
シュラちゃんが励ましてくれてるよ。
元気出さないと!
「って、本物の生き物じゃないって、どういうこと?」
本物じゃないからまぁいいや、って思えるわけじゃないんだけどね。
「ダンジョンって、ダンジョンマスターに設定されたモンスターが、自動的にマナで作り出されてるだけで、この部屋のモンスターも時間が立てばまた復活してますよ。別の種類のモンスターになってるかもしれませんが…。トカゲ三匹っていうグループにも、また何処かで今と同じように遭遇すると思います」
それじゃあ、本当にゲームみたいだけど…
「本物のモンスターが居るのは、ダンジョンじゃなくてフィールドです。今でもいくつかは、天然のダンジョンもあって本物のモンスターもいるらしいですけど、とってもランクが高いとこばっかりですよ」
なんだか不思議だね。
「じゃあ、どうして狩りとかの依頼がギルドに来るの?」
ただのデータみたいなモンスターなら、依頼出してまで倒す必要ないよね?
「さぁ、マナの流れを循環させて淀まないようにって聞いたことがあるんですけど、そんなに詳しくは知りませんよ」
ふうん。
単純に、モンスターを倒すことで何か良いことがあるのかな?
まぁ、レベルも上がるし良いんだけど…
名苻で確認すると最大MPに変化は無かった。
つまり、経験値0。
うん、もっと強いモンスターを倒さないと、簡単には上がらないよね!




