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HEAVEN AND HELL  作者: despair
三日目、異世界の街
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3日目、自己紹介でふわふわゴスバキ


「こちは、地… 術… 使い… に御座います!」

 そう言えば、ジゴクちゃんは自分のジョブ名を句切りながら言わないと噛んじゃうんだった。

 赤面するジゴクちゃんと、優しく続きを促すシュラちゃん。

「地の性質を与えたり、天地を繋ぐ術が使えたり…」

 うん、説明しても分かりにくい能力だと思う。

「試しに使ってみる?」

 そっちの方が早いよね。

「そういたしましょう。では、天井を『地化』」

 お、じゃあぼくは…

 その反対の床にしといたら分かりやすそうだね。

 ちょっと体が浮き上がったら解除しよっと。

「それじゃあ、床を『天化』」

 ふわり、と…

「へ? あれあれ!?」

 突然の浮遊感。

 ふふ。びっくりするよね。

 『天化』された床から『地化』された天井に落ちる。

 シュラちゃんはもちろん、ぼくと、ジゴクちゃんも…

 ああああっ!!

 ベッドが浮いてる!

 テーブルも!

 足元の敷物も!

 違うっ!

 床が!

 床が浮き上がってるっ!!

 これはダメだ!絶対ダメだ!

「解除!」

 今度は下に向かって、みんなが落ちていく。

「きゃあっ!」

 ってシュラちゃんの悲鳴。

 「ごめんっ!やり過ぎたかも!」

 そんなに浮き上がる前に解除したし、大丈夫だよねっ!?

 ごすっ!って鈍い音とともに落下の衝撃が体に伝わってきた。床ごと床(?)に落ちたのと同時くらいに、「ばきっ!」って音が近くで鳴った。

 なんだろう…

 床は大丈夫そう。

 ぼくたちも、家具達も、みんな元の位置からちょっとずれてるけど、床の上に戻ってる。

 ぺらっと、床の敷物をめくる。床にはさらにタイルみたいなやつが敷かれてて、それが浮いただけみたい。

「良かった。まさか、床ごと動くなんて思わなかったよ」

「申し訳御座いません!お部屋を壊しかけてしまいました!」

「あはは… びっくりしました。ええ、無事で何よりですが、今後は宿屋での能力使用は控えてくださいね」

「はい!」

 ぼく達も宿屋を壊したいわけじゃないしね。

 その時、ドタドタと暴れ牛が廊下を走ってるような足音が聞こえてきた。

 ぼく達の方に近付いてきたまかと思うと、次はドンドンと扉を壊さんかとばかりの強烈なノックの音がする。

「テンゴク殿! ジゴク様! 何があったのだ!?」

 あっ、さっきの音を聞き付けてエルピーが慌てて駆け付けて来たみたい。

 心配させちゃったかな…

「シュララバ! 一体何をしているんだ!?」

 おっと、もう一人。

 シュラちゃんのお父さんかな?

 あぁ、ぼく達のせいでシュラちゃんまで怒られちゃうかもしれない…

「ちょっと自己紹介をしてたんです!」

 正直に何をしていたのか答えるシュラちゃん。

「ごめんなさい!自己紹介でちょっと天地を逆転させちゃって!もう大丈夫です!」

 我ながら、何を言ってるのかって感じだけど、異世界なんだし普通に通じて受け入れてもらえるよね?

 しかし、ぼくの期待もむなしく、扉の外からは「何を言っている!?」という驚き混じりの怒声が返ってきた。

 ですよねっ!

 扉が開かれ、エルピーと太ったおじさんが部屋に入ってきた。

 一気に部屋が狭く感じるね。

「大丈夫なのだな!?」

 ぼく達のせいなのに心配してくれるエルピー。

「うん、大丈夫」

 どこかがバキッていってたけどね…

「そうか。良かった。」

 ぼく達のせいなのに安心してくれるエルピー。

「デウリリュよ。この子達にも予想外の事だったのだ」

 ぼく達の代わりに弁明しようとしてくれるエルピー。

 初めて見たときはただの怪しい神父さんだったのに、今ではずいぶんと優しげに見える気がする。

 そして、もう一人の恰幅の良いおじさん。

 デウリリュさんが、苦いものを食べてるみたいな表情で部屋の中を見ているよ。

 ぼく達はぺこりとお辞儀する。

「ふむ。なるほど、天地術でしたな… 今後、宿の中では術を使わないと約束できますかな?」

 ジゴクちゃんと顔を見合せ、うんと頷く。

「はい、約束します!」

「ならば、後はそこの壊れたベッドの弁償をして頂ければ宿屋としては問題ありませんな」

 えっ?

 デウリリュさんがこつこつと歩いてベッドの方へ行き、ぺろりとシーツをめくった。

 あっ、ベッドの足にヒビが入ってるよ!

 さっきの音はこれだったみたい!

「ふむ部品交換で直りそうですな。50ルヒという所で良いでしょう」

 まぁ、確実にぼく達のせいだししょうがないよね。ゴブリン退治の報酬で払える金額で良かった。

「あと、宿代が一泊10ルヒ、三人で30ルヒですな」

 あっ、エルピーも居るから宿代も三人分か…

「あれ?ひょっとして私の分も?」

 えっ、シュラちゃんの分だったの?

「当然だろう。旅に出た娘が泊まるのだ。宿代くらいは貰うとも」

 厳しいね。

 これでたちまち80ルヒは必要だね。

「現実って厳しい!私のおこづかいじゃ三日も泊まれないじゃないですか!」

「馬鹿なことを言うんじゃない。旅に出た娘にお小遣いなどやれんよ。今までのように宿の手伝いをするわけにも行かんだろう?」

「それは、そうですけど…」

 シュラちゃんの、実家に居ながら旅に出る計画も、思ってたより甘くはなかったみたいだね。

 何にしてもお金稼がないとね!

「それじゃあ、そろそろ出発しよう!」

「そうですね。ゴブリン退治で100ルヒでした!」

「こちはゴブリン退治というのも初めてで、今から楽しみで御座います!」

 それはぼくも初めてだ…

 って、よく考えたらこっちの世界の生き物を退治するってことだよね…

 あれ、現代っ子にはけっこう厳しくないかな…

 ジゴクちゃんは大丈夫だろうか…

 ちょっと先行き不安になってきた。




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