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HEAVEN AND HELL  作者: despair
三日目、異世界の街
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3日目、以心伝心の悩み相談その2


 さて、試しにいろんな風に名前を呼んでみて、その時の心の動きから何か分からないか試してみようかな。

「それは名案に御座います。ではまず、こちは、ジゴクに御座います」

 ぼくは、テンゴク。

 いや、そう言えば名前は和堂わどう典語てんごだよ。

 こっちの世界じゃテンゴクだけど、地球に帰ったらテンゴクはニックネームだった。

「そこは些細な違いに感じます。てんご、テンゴク、テンゴクちゃん、てんご様、テンゴクさん。どのように呼ぶことにも抵抗は御座いません」

 確かに、本名かどうかなんて、気にしてなければ些細なことだね。

 でも、テンゴクちゃんって呼ばれた時に、メルシエさんが言ってたのを聞いてジゴクちゃんも一回くらいそう呼んでみようかなって思ってたことが伝わって来た。

 テンゴクさんって呼んだときには、シュラちゃんみたいに可愛く言えてるか気にしながら言っていたことが伝わって来たよ。

「えへへ。テンゴクに伝わってしまったということも、こちに伝わって参りました」

 心で会話してるから、これくらいはしょうがないね。

 さてと、ジゴクちゃんは、ジゴクちゃん、ジゴクさん。

 他には何て呼べるかな。

 あっ、エルピーはジゴク様って読んでたね。

「はて…? エルピテ様は何故かこちに様をつけられますが…」

 そう言えば、他の人には殿って付けてるのに、ジゴクちゃんにだけ様付けだね。

 ジゴクちゃんって、元は神威って呼ばれてたから、その名残があったりするのかもね。

 ん…!?

「なんと! 名の呼び方の違いで何やら多様な解釈が出来そうで御座いますね!」

 うん、意味ありげな解釈が出来るんだよ。

すなわち、こちが様を付けることにもやはり意味が…」

 うん、なんとなく分かってきた。

「まことで御座いますか!?」

 ジゴクちゃんは、恐れてるんだと思う。

 自分の存在が他人よりもちっぽけなものなんじゃないか、自分以外の人には底知れぬ何かがあるんじゃないかって…

 他にも色んな理由がありそうだけど、原因は「よく分からないから恐い」っていうとこにあるんだと思う。

 恐れているから敬うって、昔の人の自然信仰とかもそういう感じだよね。

 何故か、エルピテ様と神威カムイって言葉の組み合わせから、雷様みたいなイメージが湧いてきて分かった。

 ぼくのことをテンゴクって呼べるのは、こうやって手を繋いで伝わった意識から、ぼくの内面やら人間性やらを把握できて、自分と同じような人間なんだって、心の中で納得できたからじゃないかな。

「こちは、皆様のことを知らぬがゆえ、それが恐れとなっていると…」

 うん、恐れっていうのは、憧れでもあり、不安でもあるはず。

 恐れっていう感情が、今みたいに様付けしないと呼べない気持ちに繋がってる気がするよ。

 ぼくのことは『だいたい分かった』から平気なんじゃないかな。

「合点がいきました。こち自身のこと以上にテンゴクのことを分かっている自覚は御座います」

 それは、確かに分かられてる気がする。

 うん、自分自身とは以心伝心できないもんね… 

「では、こちもシュララバ様のことをよく知れば、ヤマブキネームで呼べるということでしょうか?」

 多分ね。

「ですが、テンゴクやお姉様はいつの間にヤマブキネームで呼べるほどにシュララバ様をよく知ることが出来たのでしょうか?」

 うーん、今でも実際によく知ってるわけじゃないんだよね。

 「なんと!?」

 なんとなく、呼び方ってこういうものだって知ってるっていうか、よく知ったから呼ぶんじゃなくて、よく知りたいから呼んでみるみたいな…

 うーん、まとめるとどうなるかな…

「仲良くなりたいという意思表示としてのヤマブキネームで御座います!」

 そうだね。

 そんな感じだと思う。

「では、こちが仲良くなりたくないと思ってるとシュララバ様に受け止められたのでしょうか?」

 うーん。

 大丈夫だと思うよ。

 ちょっと人見知りをしてるって思われたかもしれないけど、それくらいで…

 そうだよ!

 人見知り!

 ジゴクちゃんは、一言で言えば人見知りをしてたんだよ!

 あぁ、なんかすっきりした。

「なんと!こちもその言葉は知っておりましたが全く思い至らず…」

 あはは、それじゃお互い様だね。

 なんにしたって、それが分かったところで何かが変わるわけじゃないし、言葉で自分の型を作っちゃうのって楽だけど、絶対につまらないよ。

 「然れど、こちが人見知りであることに変わりはなく、知らねば変わっていこうという意思を抱くこともできぬのではありませんか?」

 それは違うよ!

 一言で言えばジゴクちゃんは人見知りをしていたけど、その一言がジゴクちゃんの全てじゃないよ。

 思慮深くて、遠慮がちで、好奇心旺盛で、自分のことはあまり知らなくて、ぼくのことはよく知ってて、敬う心と、恐れる心と、親しみの心があって…

 そういう色んな理由があって、ジゴクちゃんは人見知りをしたんだよ。

 ジゴクちゃんが人見知りだっていうのと、ジゴクちゃんが人見知りをしたっていうのは全然意味が違うからね!

 自分が何々だ、って言っちゃうと、実際にはそうじゃなくても段々と自分がその言葉の型にはまっていっちゃうからね!

 だから、ぼくはそういう言い方が好きじゃないんだ。

「お心遣い有り難く頂戴致します。それにしても、テンゴクが熱く語るのは珍しく思いました」

 うん、確かに。

 ちょっと昔のトラウマっていうやつかも…

 自分のことを悪い方向に決め付けてる感じがするのって苦手なんだよね。

「なるほど、テンゴクがそのような波乱万丈な経験を積んでいたとは…」

 あはは、心の中だと『トラウマ』って言うだけでその中身がけっこう伝わっちゃっうんだね…

「伝わらなければ、心の中で話す意味が御座いませんし、何とももどかしく…」

 あっ!

 伝わってしまう…

 伝わってきてしまう…

 ジゴクちゃんが思い付いてしまった…

 以心伝心の悪用方法…

 「悪用では御座いません。ただの確認作業に御座います」

 あはは。

 よし、変なことを聞かれる前に手を離せば…

「無駄に御座います」

 えっ!?

 繋いだ手を離そうとするぼくの手の動きに合わせて、ジゴクちゃんの手が一緒に動いてくるよ!

 手を離そうとする意思を読まれて同調シンクロされてる!?

 逃げられないよ!


 そして、ぼくは質問攻めにあった。

夢とはどのようなものか。

ラブラブトークとはどのようなものか。

ぼくの好きな女の子はどんなタイプか。

学校とはどのような場所か。

アイスとはどのような食べ物か。

大福が食べたいとか

色んなことを聞かれてしまった。

 心の中なので誤魔化すことなんてできないぼくは、「みんなが待ってるよ。今夜また話そうか」って未来のぼくに丸投げしたよ。

 ふう、一安心だね。

 

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