3日目、以心伝心の悩み相談その1
心の中でお話しするために必殺技モードになるぼくとジゴクちゃん。
今まで実際に必殺技を使った方が少ない、っていうか一回だけだよね。
「有効利用なのですよ」
確かにそうかも…
んっと、ちゃんとお話できてるね。
並列思考の状態は合ってるってことかな。
そもそも並列思考って何だろう。
「テンゴクー」
目を瞑ってるからかな。
ジゴクちゃんの声がやけにはっきり聞こえてくるよ。
「テンゴクってば、心の中まで目を瞑っておりますよ」
へ?
「さあ、心の目を開いてくださいませ」
つんつんって、ほっぺをつつかれてる気がする。
「つついておりますよ」
むにっとほっぺをつかまれた気がする。
「つかんでおりますよ」
おそるおそるに本物の目を開かないように心の中の目を開く…
うん、難しいね。
でも、ジゴクちゃんが心の中のほっぺをつんつんしてくれたので、心の中の顔のイメージが出来てたみたいで助かったよ。
おっと。
目の前っていうか、心の中にジゴクちゃんが居るよ。
近いとか遠いとかじゃなくて、前でも後ろでも上でも下でもなくて、まさしく心の中にいるって感じ。
例えば、頭の中にアイスクリームを思い浮かべて見たときの、そのアイスクリームの場所にジゴクちゃんが居る、みたいな。
「なんと!こちの体からなんとも甘き香りが…」
あっ、想像の中でジゴクちゃんとアイスクリームを合体させてジゴクアイスにしてしまう所だったよ。
頭の中でお話って、変な想像しちゃったら危険な場合もあるかもしれないね。
「こちの方の意識からも干渉できる故、望まぬ変化は拒むことも簡単に御座います」
それなら安心だけどね。
まぁ、頭の中でやることだし、所詮は想像の域を出ないよね。
でもこれ、頭の中に集中しすぎてて外の気配とか全然分からないね。
「必殺モードどころか、無抵抗モードに御座いますね」
うんうん。
確かにそんな感じだ。
エルピーとシュラちゃんが居るから何かあったら呼んでくれると信じてよう。
体の方の感覚も、手を繋いでるって感覚しかないよ。
って、手を繋いでる感覚はあるのに、心の中の手は別に動かせるんだよね。
さっきの仕返しとばかりに、ぼくはジゴクちゃんのほっぺをつついてみる。
変な感じ。
「えへへ。こちの心の中にもテンゴクが居るのです。こちの心の中のテンゴクの心の中にもこちが居て、そのこちの心の中のテンゴク…」
永遠に続いちゃうよ。
合わせ鏡みたいだね。
「鏡と言えば、天職と名符を授かった場所も鏡の世界に御座いました」
そう言えばそうだね。
あれも、実は心の中の世界だったりするのかも。
「ではでは、それでは相談に御座います」
うんうん。
本題に入ろう。
本気の相談には、ぼくも本気で応えないとね。
「テンゴクはいつだって本気で応えてくれておりますよ」
そうかな?
って、伝えるつもりのなかった気構えとかまで、何でもかんでも伝わっちゃうのは問題かもしれない。
「それなら、心の中の心で考えるというのは如何に御座いますか?」
心の中の心…
うん、全くイメージできないよ。
「確かに、こちにも出来ませんでした」
心の中の心って、もうそれは自分とは別のものって気もするよ。
「えへへ。考えれば分かることを思いつくままに伝えてしまう。確かに、問題に御座いますね」
うん、まぁ、心の中だと時々こういうこともあるって割りきっといた方が良いかもね。
「さて、こちは何故シュララバ様をテンゴクのように好きな呼び方で呼ぶことができないのでしょう?」
呼べないんだから、呼びたくないんだろうね。
「なんと! 呼べないからと、呼びたいという思いばかりを馳せ、呼びたくないという思いから目を背けてしまっていたのですね!」
あぁ、うん。
察しが良いというか、発想が飛躍的というか…
ええっと、一応、整理しとこうかな。
まず、ジゴクちゃんは敬称略してヤマブキネームでシュラちゃんを『呼びたい』と思うんだよね。
「もちろんに御座います」
だけど『呼べない』。
つまり、『呼びたくない』っていう気持ちも強く持ってるってことだよね。
「そうなのでしょう。相反する思いが両立すること、こちには思いもよらず、何とも情けなく御座います」
気にしなくて良いよ。
ぼくも、自分の考えを伝えてるだけだから、ぼくが正解ってわけじゃないし。
たんに、情報を並べてるだけだから、それをどう受けとるかはジゴクちゃんしだいだよ。
「しかし、こちは矛盾しているのですね。盾と矛を持った己同士で戦っていては、疲弊のみが生まれるのも道理に御座います」
盾ジゴクちゃんと矛ジゴクちゃんの戦いだね。
でも、矛盾っていうのはただの現象だから、原因を考えたらすっきりすると思うよ。
まず、呼びたいのは何故かってこと。
「テンゴクと同じ呼び方をしたいからに御座います」
あれ、そうなの?
それなら、ぼくがシュララバ様って呼んでも良いけど。
「なんと! ならば、それも結論の候補に入れておきましょう」
うん、簡単な解決策が見つかってよかった。
じゃあ、次は呼びたくない理由だけど…
「分かりません。こちの中に何やら壁があり、シュララバ様をシュララバ様と呼ばねば、その壁が壊れてしまいそうな予感はあるのですが…」
うーん、敬いの心が捨てられないのかな…
「敬い、ですか?」
様を付けて呼ぶのは、相手を敬っている心の現れじゃないのかな。
あなたの方が偉いですっていう感じ。
「確かに、こちはまだ人として歩み始めたばかりの未熟者、皆様を敬うことは当然のように感じます」
それって、時間が解決してくれる感じかな?
「されど、それだけでは無いように感じます。こちがテンゴクをテンゴクと呼べることと、シュララバ様をシュララバ様としか呼べないことの違いは、いったい何なのでしょう?」
そうだった、ぼくのことは呼べるんだよね。
何でだろう。
「こちも、それが分からないのです。テンゴクのことは対等な一人の人間だと思えている、ということなのでしょうか?」
ぼくのことをテンゴクって呼び始めたのは、今みたいに意識が繋がってからだよね。
そこでの変化が、ジゴクちゃんに何かをもたらした。それって、何だろう…
単純に仲良しっていうだけじゃなさそうだね…




