2日目、女の子への手紙
叫び声をあげたぼくを女の子が見ていた。視線に気付くと叫んだのが少し恥ずかしくなってきた。
女の子の手紙は読み終えたのかテーブルの上に置かれている。内容が気になる。とても気になる。
「読んで良い?」と聞くと手紙をこちらに差し出してくれた。表彰状を渡すときの先生みたいな丁寧な渡し方だった。思わず、「ありがとうございます」と言いながら受け取ってしまう。
そう言えば正座してるし、振るまいもどことなく上品だし、お嬢様な感じがする。無駄な動きのない子どもってちょっと奇妙でもある。
誘拐されるくらいだし、やっぱりお金持ちなのかな。
ひとまず、ぼくは女の子への手紙を読んでみる。
一つ、君は誘拐された。
一つ、ただし、夏休みが終るまでだ。
一つ、息子の名前は典語という。君が嫌でなければ仲良くしてほしい。
一つ、君はこの家で普通に喋っても良い。
一つ、君は自分の名前を決めても良い。息子と二人で考えてほしい。
最後に、困った時は魔女の館を訪ねなさい。
ぼくへの手紙と同じような内容だった。ただし、最後に、「彼女は字が読めない可能性が高い。この手紙を読んであげてくれ。」というぼくへのメッセージが付いていた。
女の子の方を見ると、じっとぼくの方を注視している。まるで何かを待ってるように、
「あれ、もしかして、手紙を読んで欲しかった?」と女の子に聞くと、彼女は不思議そうな表情で、だけどお辞儀をするように丁寧に頷いた。
ひょっとして、さっき「読んで良い?」と聞いた時、ぼくが声に出して読んでくれると思ったんだろうか。
女の子にとって、それが当然のことだったのかもしれない。ぼくが黙って手紙を読んでいたのが不思議だったんだろうな。
って、同年代くらいの子が字が全く読めないっていう発想は無かった。いったいどこで育ったんだろう。
疑問に思いつつ、手紙は「息子」の部分を「ぼく」に変えて読んであげた。