表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HEAVEN AND HELL  作者: despair
三日目、異世界の街
79/214

シュララバ視点、二人の世界の目の前で、終わらない悩み


 テンゴクさんとジゴクさん

 二人が手を繋いで『名前の呪文』を唱えると、あっという間に二人の世界に行ってしまったみたいです。

 「むう… やっぱりラブラブですか? お邪魔ですか?」

 拗ねるように言ってしまったけど、そんな声も二人の耳には届いていませんね。

 テンゴクさんの白いオーラ

 ジゴクさんの黒いオーラ

 対称的な二色のオーラが、混ざりあうように二人を包んでいる。

 こんなの、絵本の中でしか見たことがありません。

 必殺モードのオーラに触れること自体、相当の信頼がないと出来ないことなのに…

 相手の必殺技の間合いに入るって、お二人は怖くないんですかね。

 どのくらい相手を信頼していたらこんなことが可能なんでしょう。

 

 しかも、その状態で目を閉じて、心まで繋がって会話できるなんて信じられないです。

 どれだけ相性が良くて意識が共有されても、普通は会話できるような情報量は伝わらないはず…

 何となく次にどう動こうとしてるか分かるっていうくらいでも、得意気に自慢してる人たちがいるくらいです。

 会話なんて本当に魂が繋がってないとできないんじゃないかな…

 夢物語みたいな光景が、私の目の前にあるんですよね。

 「ひょっとしたら私、凄い人達と冒険するのかも…」

 そもそも、あのヤマブキ様が直々に宿まで連れてきた人達が普通なわけがないか。

 本物のヤマブキ様は格好良かったな。

 また会えるんだよね…

 ふふふっ

 楽しみ過ぎます!

 でも月刊ヤマブキを見せてしまったのは失敗だったのかな…

 来月号が無事に出るのか心配です。

 「本当に、テンゴク殿とジゴク様は凄い方達なのだよ」

 いきなり声をかけられた。

 「ひぇっ!」って驚いてしまったじゃないですか。

 エルピテ様

 ヤマブキネームはエルピー

 居ることを忘れてました

 何だか影薄いから…

 「すいません、ちょっとびっくりしてしまって…」

 父さん達の昔の知り合いらしいけど、この人も不思議な人ですよね。

 イツ・ルヒの人なのに地球から来たって、つまり、魂が無くなっても生きてるんですよね。

 「すまなかった」

 私が存在を忘れていたばっかりに謝らせてしまいました。

 「いえ、こちらこそ」

 私こそ、忘れてしまっていて申し訳ないのですよ。

 「シュララバ殿は、かつてこのイツ・ルヒに神が居たときを知らぬだろう?」

 大人の昔話に付き合うのは宿屋の娘にとっては慣れっこのことです。

 「はい、私が物心ついたときには神は消えていたと思います」

 でも、私としては、神様よりもヤマブキ様の話がしたいけど…

 「我は神に仕える神官であったのだ。神が消えたあの日を、その元凶とも言えるワドウキザシを、己が無力を、我は呪い、恨み、罵った」

 神官って、けっこう偉い人ですよね。

 今でいうと、レベル500オーバーなんじゃないかな…

 ひょっとして、エルピーってヤマブキ様より強いんじゃ…

 ヤマブキ様ってレベルいくつなんでしょうね。

 「テンゴク殿は、そのワドウキザシの子であるのだが…」

 テンゴクさんが…

 「へ? テンゴクさんって、あの『神か? 悪魔か? いいや、キザシだ!』のキザシさんのお子さんなんですか!?」

 それはもう、なんて言うか、親に関わるなって言われちゃうレベルの極悪人じゃないですか…

 テンゴクさんって良い人そうだし、けっこう苦労してそうですね。

 「神か悪魔か…?それは何なのだ?」

 あっ、そうでした。

 エルピーって地球で過ごしてたなら知らないですよね。

 「キザシって人には、神か悪魔と同じようなものだと思って接するのが丁度良い、まともに関わっても自分の人生が狂わされるだけだ、っていう教訓が書かれた物語が有りまして、それが『神か? 悪魔か? いいや、キザシだ!』っていう題名なんですよ」

 テンゴクさんは、さしずめ『神の子か? 悪魔の子か? いいや、キザシの子だ!』ってなるんですかね。

 「ふははっ! いや、まさしくその通りだ。キザシに関わらないことが、平穏に生きる為の前提条件だと思っていて間違いはないだろう。それは誰が書いたのだ? 我も知っている者かも知れぬ」

 作者は確か…

 「えっと、『魔女』っていうペンネームだったと思います。地球人って噂ですよ」

 「ふむ。魔女か。キザシと共に旅をしていた風変わりな地球人の女が魔女と呼ばれていたように思うが…」

 また関係者ですか!

 知れば知るほど、テンゴクさん達が遥かに高くて遠い別世界の住人なんじゃないかと思えてきます。

 ああ、イツ・ルヒと地球じゃ、元より住んでる世界が違いましたね。

 これは本格的に、私がパーティーに入るなんて迷惑なんじゃないでしょうか?

 「ともあれ、関わるだけで人生を狂わされるようなキザシという存在に、その子どもとして関わり続けるテンゴク殿が、なんと穏やかな瞳をしていることか…」

 ふふっ、確かにテンゴクさんって人が良さそうですよね。

 それはジゴクさんも同じですけど。

 「われがテンゴク殿に初めて出会った時、キザシの子どもだと思い横暴に接する我にすら、テンゴク殿は穏やかな態度で我の心労までも案じてくれたのだ」

 それって本当に人が良すぎですよ。

 エルピーって雰囲気はけっこう怖いのに、初対面で穏やかに接することができる時点で凄すぎます。

 「あの時の『父さんが何かご迷惑をおかけしましたか?』という気遣いの言葉を、我は一生涯忘れないだろう」

 わお、テンゴクさんってば男の人にも好かれるタイプですね。

 「あれ? じゃあ、ジゴクさんはどう凄いんです?」

 そんなテンゴクさんと以心伝心できるっていうだけでも、ジゴクさんが凄いってことは分かるんですけどね。

 「ジゴク様は… いいや、ジゴク様という存在が誕生したのはたったの二日前の夜なのだ」

 え?

 「我は、それまで『新世界レナトステラ』という組織の中で、ジゴク様を『神威カムイ』として、自我もない空っぽの、神の宿る器として育てていた」

 あれ、エルピーってそんなに外道な人だったんですか…

 レナトステラとかカムイとか、地球の言葉はよく分からないですけど、自我もない空っぽの器って、明らかに外道じゃないですか…

 どうしよ。

 私、ヤマブキネームをもらえた人に悪い人はいないって信じてたんですけど…

 「しかし、ワドウキザシに連れ去られ、テンゴク殿と共に過ごしたジゴク様は、あのように笑われ、我の所業も全てを許すと言われたのだ」

 ふふふ、『絆』で結ばれた運命の相手みたいな存在に出会っちゃったら、そりゃあ元気で笑顔になっちゃいますよね。

 「我は、ジゴク様に神の魂が宿ったようにも思えるのだ」

 エルピーってば、まだ神様のこと引きずってるんですね。

 でも、元神官だったらしょうがないのかな。

 あの人たちって、神様が全て!って感じで生きてそうですし…

 うーん、それでも一人の女の子が犠牲になるのはヤマブキ様も許されない御法度行為ですよね。

 「テンゴク殿の天職は『天術使い』、ジゴク殿の天職は『地術使い』なのだが…」

 地球人って、ジョブ魂っていう魂をもらってるんでしたっけ、好きな職業になれるのは羨ましいですね。

 こっちの世界の人には、生まれた時から自分の魂が宿ってますし、それを入れ替えるって考えるとちょっと怖いですけど…

 うーん。

 イツ・ルヒの人と地球人じゃあ、やっぱり違う人間なんですよね。

 だから、そういうものだって理解はしてるんですけどね。

 「というわけで、我はテンゴク殿とジゴク様の冒険をサポートしていくことに決めたのだよ」

 あっと…

 一部の話を聞いてませんでした…

 「私も、そんな二人と冒険できるのが楽しみです!」

 って言っておこう。

 うん、本当に楽しみです!

 伝説級の恋人レベルの『絆』を持つテンゴクさんとジゴクさん

 私の大好きなヤマブキ様

 神に仕えた神官エルピー

 神か悪魔のようなワドウキザシ

 あの『キザシだ』を書いた魔女さんのこともエルピーは知ってるみたいだし…

 思ってたより凄い冒険になりそうです。

 でも、こんな凄いパーティーに、ただの宿屋の娘の私が入って本当に良いんでしょうか…

 いっそ罰ゲームに思えるくらい、私だけ一般人ですよ。

 私、御告げを受けた時は人生が終わった!って嘆きたいくらいの気分だったんです。

 でも、テンゴクさん達と旅に出られるなら悪くないかなってさっきまで思ってたんですけど…

 場違いが過ぎると自重するべきなのかもしれません。

 テンゴクさんとジゴクさんは、まだ二人の世界にいるみたいで、私はお邪魔にすらなってませんね。

 でも、二人は目を閉じていて、二人の世界に入りきっているのでとっても無防備です。

 私でも、今の二人を倒すくらいなら簡単に出来そうですよ。

 えい!ってやるだけです。

 もう、本当に不用心ですよね。

 会ったばかりの私のことを、そこまで信頼してくれたのなら嬉しいんですけど…

 いいえ、テンゴクさんもジゴクさんも、絶対に人がすぎるだけなんだと思います。

 そういう所も素敵だと思うんですよね。

 もう、一緒に旅をするなら絶対にこういう人達が良いって、私は思ってしまっています。

 それ以外の人達とパーティーを組むくらいなら、毎晩のように悪夢にうなされるようになった方がましかもしれません。

 『シャミッヒ・ホノレイ 風に呼ばれた汝の魂 旅に出るまで ワクルナイ』

 夢の御告げで聞いた言葉

 シャミッヒ・ホノレイは風の精霊王の名前です。

 物好きな王様で、夢の中に現れては旅立ちの御告げをしていくのです。

 このタイミングで御告げがあったのだから、きっとテンゴクさん達と旅に出なさいって意味もあると信じちゃって良いんでしょうか?

 私なんかで良いのかなって気持ちと、旅に出るならテンゴクさん達と行きたいっていう気持ちが、私の中でぶつかりあっています。

 あぁ、本当にワクルナイですよ。

 本当に旅に出るまでは、この苦悩が永遠に続きそうです。

 早くテンゴクさん達、二人の世界から帰ってこないかな…

 もう一度だけ一緒に行っても良いか聞いて、良いって言われたら、今度こそ私は迷わずに旅に出ようって思います。

 でも、お邪魔だって言われたらどうしましょう…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ