3日目、伝説級のラブ疑惑、夢の御告げ
「だいたいですよ。テンゴクさんのことはテンゴク、テンゴクって呼び捨てにしてるじゃないですか? 私だって、仲良くなったらシュラちゃんって呼んでもらえるに決まってます。だから、今でも、これからも、いつだってジゴクさんの好きに呼んで頂けたら結構なんですよ」
うんうん。
「なんと! 確かにこちはテンゴクのことをテンゴクと呼ぶことに何の抵抗も御座いません! いったい何故なのでしょう!?」
少し前からそのことを考えていたぼくは、ジゴクちゃんが、ぼくをテンゴクと初めて呼んだ時のことを思い出している。
あれは…
「えっと、ジゴクちゃんがぼくをテンゴクって呼んだのは、名前の呪文で必殺モードになって、手を繋いで心が通じあった状態になった時に、心の中で会話したときが最初だったと思うよ」
うんうん。
急に心の中ではっきりと会話が出来るようになって驚いたんだよね。
「確かに、それ以前は様を付けて呼んでいたように思います」
自覚はなかったみたいだね。
「なっ!」
あれ?
何故かシュラちゃんが赤面してる。
「何をさらっと言ってるんですか!?」
おっと、何か言っちゃ不味かったかな。
異世界の常識では、あれって言わない方が良いことだったのかもしれないね。
「もう!お二人って、そんなラブラブな間柄だったんですか!? 手を繋いだら心が通じて話もできるって、そんなの物語の中に登場する運命の『絆』で結ばれた恋人達のお話くらいでしか知らないですよ!? 伝説級のラブですよ! それとも、地球人にとってそんなの普通によくあることって感じなんですか!? 地球ってそんな破廉恥な世界だったんですか!?」
えっ、あれってラブラブ扱いされちゃうようなやつだったの!?
ぼくたちの発言で地球人にハレンチってレッテルが貼られかねない状況になるなんて…
これは世界の危機だよ!
まさか今、ぼくたちは異世界の人からすると「ぼく達は世界で一番ラブラブだよ」って言ってる感じのカップルみたいだったってこと!?
やぁぁぁぁだなぁぁ!
何だか恥ずかしくなってきたよ!
「そういう風に思われるようなことだと思ってなかったよ!」
ってぼくが言う。
ついでに「地球でもそんな話は聞いたことないし」と言っておく。
これで地球がハレンチ扱いされることはないよね。世界が救われたよ。
「つまり、あれがラブラブトークだったのでしょうか? 」
うう。
ジゴクちゃんの素朴な疑問がぼくを襲う。
「違うよ。あれは作戦会議とか打ち合わせってやつだよ」
異世界の人にとってはラブラブじゃないと出来ない作戦会議って思われるってだけで、作戦会議には違いない。
「いやぁ、私って二人のお邪魔になっちゃいません? でも、他に頼れそうな人も居ないので絶対について行きたいんですけどね…」
ぶんぶんぶんっと首を振るぼく。
「邪魔じゃないよ! でも、何か事情があるの?」
ぼく達がヤマブキレジェンドだから、山吹さんと仲良くなれそうだからついてきたいのかも、とか少し思っててたんだけど、違うみたいだね。
「私、昨夜の夢で、旅立ちの御告げを頂いたんですよ」
夢の御告げで旅に出るって、まさにファンタジーっぽいね。
「ええっと、地球人は知らないですよね。『シャミッヒ・ホノレイ 風に呼ばれた汝の魂 旅に出るまで ワクルナイ』というこっちの世界の歌があるんです。その夢を見たら旅立たないといけないんですよ。旅に出ないと毎晩同じ夢を見ることになるっていう呪いみたいな御告げなんです」
うん?
知らないけれど聞いたことがある。
あれは…
「なんと! テンゴクの寝言とそっくりで御座います!」
うーん、これはぼくも「なんと!」だよ。
でも何だろう。
「ぼくは覚えてないんだけど、同じ夢でも見てたのかな?」
うーん。
「へぇー、地球でも旅立ちの御告げってあるんですね。意外でした。テンゴクさん達も、だから旅を始めたんですか?」
ぼくの知る限り、地球では寝言の御告げで旅に出る風習はない。
夢の御告げで旅に出る人はいるかもしれないけど、それでも一般的には変な人だ。
「そういうわけじゃないんだけど…」
そう言いながら、ぼくはエルピーの方を見る。
何か知ってるとしたら、きっとエルピーくらいだよね。
「おそらくだが、地球でも異世界に来た影響が出ることがあるのだろう。御告げを見たテンゴク殿が覚えていないというのも、地球側だから影響が薄いのだと言えば一応の説明は出来る」
うん、はっきりしないけど、多分そうなんだろうな。
「なるほどー、地球では普通は御告げってないんですね。羨ましいです。まぁ、とにかくですね、私も連れていってもらえるんですよね?」
ぼくとジゴクちゃんはこくりと頷く。
「ありがとうございます! それじゃあ早速、ゴブリン退治に行きましょう!」
あっ、その為にパーティー組むって相談してたんだよね。
「テンゴク、シュララバ様、すいませんが、こちにもう少しだけ時間を頂けませんか?」
「良いけど、どうしたの?」
「私も、もちろん構いませんよ」
ジゴクちゃんは、ぼくに手を差し出してくる。
「少しだけ、名前を呼ぶということについて相談したいのですが、未熟なこちには上手く言葉にできそうにないのです。 甘えだとは理解致しているのですが…」
ぼくはジゴクちゃんの手を取って言う。
「なるほどね。でも、ぼくの方だって、ジゴクちゃんの言いたいことを理解してあげられる力がないだけなんだから、甘えじゃなくって助け合いだよ」
ぼくの方にも聞きたいことくらいあるからね。
「『テンゴク』」
「『ジゴク』」
光が走り、オーラに包まれるぼく達。
青と赤
白と黒
正反対のぼくたちが伝説級のラブラブだと揶揄されるくらい相性良いなんて、何だか変なの。
戦い状態でもないので、自身の意識に集中しようとすると自然に目を瞑っていた。
そうすると、不思議と周囲の音まで聞こえなくなった。
伝わってくるのは、右手から繋がるジゴクちゃんの意識だけになる。
さて、必殺モードで以心伝心の人生相談、はじまりはじまり、だよ。
次回はシュラちゃん視点の話を一回挟みます。




