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HEAVEN AND HELL  作者: despair
三日目、異世界の街
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3日目、宿屋のシュラちゃん


 合流したエルピーにつれられて、今日から泊まる宿屋についた。

 エルピーは「昔の知り合いだ。皆の事は紹介してある」って何故か流暢りゅうちょうな喋り方になっていた。

 外側は小さな旅館って感じ、二階建てだね。

 入口の横に「おいでませ、地球人ども! ラプトパの宿」って看板がある。

 日本語だね。

 丁寧なのか、横暴なのか、どっちなのか分からない日本語で変なの。

 中に入ると、ふりふりドレスの女の子が居た。

 受け付けのカウンターらしき所に居るから宿屋の子かな?

 「ラプトパ・レドルテ! おいでませ、地球人ども!」

 女の子が、何やら歓迎してると思いたい、喧嘩売ってるんじゃないって信じたい挨拶をしてくれたよ。

 ラプトパは宿の名前だよね。

 レドルテって何だろう。

 それにしても、まだ9才くらいかな。

 ぼくたちより小さいのに偉いね。

 「あぁ、歓迎ありがとう。急で悪いけど、この子達二人、しばらくここに泊まれるかな?」

 「はい! 父様と母様より聞いております。まずはこちらの宿帳への記帳をお願いします! 受け付けはわたし、シュララバ・ラプトパがお(うけたまわ)りします!」

 小さいのにしっかりしてるね。

 「あっ、こっちの世界では名符みょうぶに登録してる名前を書くんだよ」

 ヤマブキさんが教えてくれる。

 じゃあ、ぼくは宿帳に『テンゴク』と書く。

 ジゴクちゃんも、ちょっと緊張しながら自分の名前を宿帳に書く。

 あっ!

 ジゴクちゃんって、名符に登録するときにカタカナで登録したのかな…

 あの読めない漢字だったらどうしよう…

 ちらっと覗くと、ちゃんと『ジゴク』ってカタカナで書いてた。

 ジゴケって読めなくもないけど良かった。

 「ふぅん、テンゴクさんとジゴケさんか。地球の人って不思議な名前が多くて面白いですね」

 それはお互い様だとぼくは思った。

 「こちはシュララバ様という名前も面白く感じます」とジゴクちゃんが言った。

 って!

 「ちょっと待って! ジゴクちゃんはジゴケちゃんじゃなくってジゴクちゃんだよ!」

 そこをスルーしちゃうとは思わなかったよ。

 「なんと! 読み方にも個性があるのかと感心いたしておりました!早合点とはまさにこのこと… 改めまして、こちはジゴクで御座います」

 うんうん。

 「あはは、面白い人達ですね。こちらこそ失礼いたしました。改めまして、ジゴクさんですね」

 良かった。

 ジゴケちゃんにならなくて。

 「ところで、テンゴクさんはテンゴケさんだったりしませんよね?」

 おっと、その可能性が…

 って、ないない。

 「ぼくはテンゴクだよ。間違いなくテンゴケじゃないよ」

 『天苔テンゴケ』と『地苔ジゴケ』と書かれたふりかけが何故か頭に浮かんだ。

 あぁ、うみこけ海苔のりだからかな。

 『テンゴケ』『ジゴケ』と言いながら手を繋いで必殺技を出すふりかけのお話が始まったりはしないよ。

 うん。

 閑話休題。

 「シュラちゃん、早速だけど二人を部屋まで連れてってくれないかな?」

 ヤマブキさんがシュララバちゃんに早速だけどニックネームをつけた。

 でも良い感じの呼び方だね。ぼくもそう呼ぼうかな。

 「はい、ヤマブキ様。あのグレートクロップスを単独で収穫したという噂はこの宿にも伝わっておりますよ。実際にお目にかかれて光栄です」

 シュラちゃんが立ち上がって階段の方へ行き、どうぞどうぞって感じで手招きしてくれた。

 この世界で山吹さんって本当に有名だよね。

 実際にお目にかかれて光栄ってことは、会ったことないのに見たことあったってことかな?

 こっちの世界のテレビに出てたりするのかな。

 そもそもテレビとかあるのかな?

 気になる。

 うん。

 この世界で今日から暮らすなら、とっても気になるところだよ!

 「私、月刊ヤマブキ8月号も読みましたよ!」

 シュラちゃんが、どこからともなく雑誌を取り出した。

 「えっ!」

 「なんと!」

 表紙には有象無象のゴロツキみたいな連中の塊をぽいっと投げ捨ててる山吹さんが居る。

 テレビじゃなかったよ。

 「なんだいそれ?」

 とうの本人が知らないって!

 「ヤマブキ様の公式ファン雑誌と…」

 まで言ったところでヤマブキさんの雰囲気が笑ってないことに気付いたシュラちゃん。

 うん、山吹さんの公式じゃなさそうだね…

 ちらっと見た感じ、ファンクラブの公式雑誌って字が見えたよ。

 公式のファンクラブの雑誌じゃなさそうだよ。

 「なんてことだい。まったくこんな…」

 シュラちゃんから雑誌を奪うように取り上げる山吹さん。

 雑誌を見て「やれやれ」と息を吐くと、山吹さんはぼく達の方へと向き直る。

 「良いかい。この世界には法律なんてないからね。こんな目にあっても助けてくれる国家権力なんてない。自分達で何とかしないといけないんだよ」

 喋りながら、山吹さんの手の中では雑誌が粉々になっていく。

 って!

 雑誌が粉々って!

 「やられたらやり返すなんて、私の流儀じゃないんだけどね」

 うん、いつも誰かの為にしか怒らないような山吹さんが、今回は個人的なことで怒ってる。

 「でも、こんなことをされるとさ、やられる前にやっとけば良かったって思っちゃうよ。まったく、困ったもんだね」

 珍しいような、しょうがないような…

 「あっ、シュラちゃんの雑誌だったのにごめんね。つい、力が入りすぎちゃったよ」

 ぶんぶんぶんってシュラちゃんが首を勢いよく横に振る。

 「大丈夫です! つい、力が入りすぎることぐらい、よくあることですよね!」

 よくあることで雑誌が粉になったら世界は粉まみれだよ!

 「そうかい?何だか悪いね」

 「ええ!本当に大丈夫です!」

 うん、怒ってる人に気を使われると、逆に気を使っちゃうよね。

 「あっと、私は用事が出来ちゃったからさ、後はエルピーに頼んで良いかな? ゴブリン退治の依頼を受けてるから連れてってあげて欲しいんだ」

 エルピーは頷き「うけたまわろう」と一言答えた。

 その額に汗が流れてるのは、けして暑いからってだけじゃあなさそうだよ。

 「ありがとね。じゃあ、また帰る前に覗きに来るけど、二人とも頑張るんだよ」

 そう言って、山吹さんは宿を出ていった。

 うーん、ファンクラブの人達はご愁傷さまです。

 「あー、でも、ぼくもちょっと読んでみたかったな」

 地球の普通の看板娘が、異世界ではファンクラブが出来て月刊誌まで発行されてるとか…

 世の中色々あるんだねー

 「こちも、お姉様の雑誌を読みとう御座いました」

 だよね。

 「ふふっ、ふふふふふっ」

 って、笑い出すシュラちゃんが、どこからともなく月刊ヤマブキ8月号を取り出した。

 あれっ!?

 「一冊だけでは心許ないですからね。保存用にもう一冊買ってるんですよ!」

 「これは!」

 「なんと!」

 シュラちゃんってば、ぼく達より小さいのにしっかりしてるね!

 「ふふふっ、今夜、ヤマブキ様が去られた後で貸し出しますよ?」

 「やった!」

 あぁ、山吹さんごめんなさい!

 後で、ちょっと読ませて頂きますよ!

余談ですが、異世界の人達の見た目の年齢は

((実年齢÷2)+(ルート実年齢))

で計算してるので、ちょっと地球人より若く見える設定です。

シュラちゃんとテンゴクは同い年です。

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