3日目、敵か不審者か、アロハシャツ
「そこの子ども達ー!」
冒険者ギルドを出た途端に、変な人達に声をかけられた。
赤いアロハシャツの女の人と、黄色いアロハシャツの男の人のコンビだ。
二人ともサングラスをかけてる。
ぼくたちの世界の人かな?
女の人の方がサングラスを外して「ちょっとお嬢さん、その可愛いリボンを見せてくれないかしら?」ってジゴクちゃんに近付いて来る。
ずかずかと近付いてくるよ。
遠慮のない人だね。
「あんた達、何者なのかな?」って間に入る山吹さん。
格好良いね。
ぼくも山吹さんみたいになりたいな。
「あら、保護者の人かしら? 私、その可愛いリボンのついたベルトが気になっちゃって。ちょっと見せてくれるだけでいいのよ?」
リボン型のポシェット、確かに可愛いから、ファッションにうるさい人は気になっちゃうのかな?
「何者なのか?って聞いているんだよ。先にそっちを答えてくれないかな?」
うん?
この人達、実は不審者さんかな?
山吹さんがすっごい警戒してるよ。
周囲の人たちも何だかざわざわしてきた。
「あら、怪しまれてるわよ、ファクト」
ファクトと呼ばれた男の人もサングラスを外す。
「彼女はどうやら有名人なのだろう。それに構わず少女に近付こうとして怪しまれたのではないかな。セクト」
「だから、事前のリサーチは重要だと言ってるのよ」
あれ、喋りながら構わずに近付いてくるよ!
「それは理解している。だが、それだけでは面白くないと思わないか?」
周囲の人たちから「なんだ?」とか「ヤマブキにケンカ売る奴がまだ居たのか…」とか、「逃げとく?」「ヤバババッ」とか、色んなざわめきが聞こえてくるよ。
「ハプニングを楽しむのはナンセンスよ。もっとスマートに行くべきなのよ」
セクトって呼ばれてたお姉さんが優雅に手を振ると、
ヤマブキさんが吹っ飛ばされた。
えっ…
「はい、お嬢さん。ちょっとそのリボンを見せてね」
あっ、セクトさんがジゴクちゃんのポシェットを持って、中を開けようとしてる!
「へぇ、このリボンってポシェットだったのね。どこで買ったのかしら? やっぱり地球? 私も地球を観光しにいきたくなっちゃうわ」
ちょっと!
中身を勝手に見てるよ!
「お姉さん!ちょっと失礼ですよ!」
ヤマブキさんが吹っ飛ばされたからって、これはほっとけないよね。
「悪いな、坊主。セクトの奴は興味を持つとどうにも自分を抑えられなくなってな。少しだけ待っててくれないか?」
ぼくの前にはファクトさんが立ちふさがった。柔らかな物腰なのに「邪魔するな」って感じが強く伝わってくるよ。
ちょっといきなりピンチになっちゃってる?
なんていうか、不気味って言葉がぴったりな二人。
ポシェットの中って手紙と身代金と身代漫画だけだよね。
あっ!
異世界に行ってから漫画を見てみろって行ってたっけ!?
ここでは話せない世界のなんとかが書いてるって、あれ見られたらダメなんじゃないの!?
違う。
それに父さんが関わっている以上…
これは…
ぼくがファクトさんに通せんぼをされてると、ぺちんっ!って音がした。
「ここに入っているものは、こちの大切なものばかりで御座います! それを勝手に覗き、奪い、捨て去ることは、こちの許容の範囲外であるのです」
うひゃ!
セクトさんのほっぺが赤い。
「威勢の良いお嬢さんね。さっき、あなたの保護者が吹き飛ばされるのを見なかったの? 子どもだからって、私は遠慮しないのよ?」
うん、セクトさんはにこにこと、怒ってる。
ジゴクちゃんがピンチだと思うけど、子どもだからって遠慮しないってわざわざ言ってくれる辺りは、ちょっと遠慮してくれてる感じだし、ただの脅しだと良いけど…
「坊主のガールフレンド、なかなかやるねえ。セクトの頬を叩くなんて、そうそう出来るもんじゃない」
あぁもう…
この男の人も、ここからを退く気は一切ないんだろうね。
「ジゴクちゃん!逃げるよ!」
ぼくは今、この二人から逃げ出したい。
危険な香りがアロハシャツからプンプン漂ってくるんだよね。
だけどジゴクちゃんは、けっこう意思が強いからね…
「いいえ、こちは怒っているのです!負け戦とて、この厚かましい者共を捨て置くことは許せません!」
うんうん、そうだよね。
しょうがない、付き合おう。
「んじゃあ、出来る限りはやってみよう!『ジョブ魂:天術使い』」
「こちのわがままで申し訳なく、されどそれ以上にありがたく!『ジョブ魂:地術使い』」
「「『インストール』」」
ファクトさん越しで姿の見えないジゴクちゃんと息ぴったりに同じタイミイングでインストールしちゃう辺りがちょっと面白い。
さて、たまのわがままは聞いてあげたくなっちゃうよね、っと。
どうなることやら…
もっとも、負け戦とは思ってないけどね!




