3日目、世界の秘密その1
「出たなキザシ! 我らの神がもう居ないとはどういう意味だ!」
黒服神父さんって怪しさ全開だけど、何だか父さんの被害者っぽいから出来ることなら力になりたい。
でも、この人がジゴクちゃんを閉じ込めてたのなら、それはダメだって言ってあげないとね。
実際どうなんだろう。
何にしたって関わりたくないから、こっそり一人で帰ろうかな…
「文字通りの意味だ。神は消えた。あの太陽は神ではないし、神威などと器を拵えた所で神は宿らんよ。ところで、お前の名前は何だったかな?」
うーん、話の内容も気になるけど、やっぱり関っても良いこと無さそうなんだよね。
太陽って、空にあるあれだよね。
人工太陽。
本物の太陽が消えたときに人類の叡智を結集して造った人工物ってやつ。
その代償に月が失われたって話だし、月っていうのを太陽に作り替えたんだよね?
太陽が神様とか聞いたことないよ。
あっ、でも太陽に見られてる感じがするって、それから多くなったんだっけ…
人工太陽になって以来、太陽が「居る」って言うようになったって学校で習ったよ。
お天道様が見ている、って言葉は昔からあったらしいし、ぼくは関係ないと思ってるけどね。
あぁ、ダメだ。気にしたくないのに考えちゃう…
って!
知り合いっぽいのに名前を一方的に忘れてるとか、父さん酷いよ!
「エルピテだ! 何度言えば覚えられる!? いや、そんなことよりもだ。ならば、あの太陽は一体何なのだ!」
エルピテさんか。
確かに覚えにくそうな名前だけど、何度も聞いたら流石に覚えてあげないと、エルピテさんに失礼だよね。
でも、お日様は人工太陽だって、子どもでも知ってるよ。
「人工太陽などという代物をこちらの世界で造るなど、いくらお前でも不可能だろう!」
それは流石に無理だと思う。
父さんが造ったって思ってる人が居るのかな?
「ふむ、不可能か。この世界に元々存在した月と呼ばれる巨大質量の中に異世界へのゲートを結び、そこからマナを引き出したのだ。そして理術によって月を太陽に変換しただけなのだがな。やはり不可能だと思うのか?」
絶対無理だよね。
月を太陽に変えれるなら、地球だって太陽に出来そうだよ。
そんな力があったら、父さんが自分勝手に使って悪用しないのは無理に決まってる。
「ぬう… 確かに可能ではあるか… しかし! ならば、我らが神は何処に消えたのだ!?」
え…
あんな理屈で納得しちゃうとか、父さんって何なのさ…
理術って言ってたけど、それなら出来そうだって思えるくらいに凄いのかな…
あぁ、そんなことよりこの場を離れたいな…
ぼくが二人のやり取りに巻き込まれそうな展開が来る前に…
「神など、肉体まで魂で出来ているような存在だったのだ。この世界では魂は存在できない。よって、異世界の神は、この世界に来た時に消失したのだよ」
異世界の名前がイツ・ルヒなのかな…
神様が居たけど消えちゃったって、そりゃあ大変そうだけど。
でも、長い話しになりそうだよね。
これが本だったら、ページをめくって読み飛ばせるけど…
あぁ、現実って辛いね。
「ならば!! 我のしていたことは何だったのだ!? 神威に神が宿るとは何なのだ!?」
エルピテさん、可哀想な感じだけど、ジゴクちゃんを閉じ込めてた人なのかな…
うーん…
ここにジゴクちゃんを連れて来てたらどうなってたんだろうね。
「俺の書いた適当な資料を読んでしまったのだろう? あれは冗談だったのだがな。 ちなみに、神威と書いてカムイと読む。覚えておけ」
やっぱり、うちの黒幕(父さん)が元凶かな。
さっきからエルピテさんはショックを受けてばっかりに見える。
「しかしだ。あの神は消えたが、お前のしていたことは、けして無駄では無かったのだよ。冗談のようなあれらの資料も、正鵠を得ていた部分があったようだ。なぁ典語」
エルピテさんの名前を聞いといて呼ぼうともしない非情な父さんが、ぼくの名前を呼んだ。
「えっ?ぼく?」
あぁ、話しを振られる前に逃げたかったよ。
もう忘れられてるかと思って油断してたね…
「お前の所に預けた少女がどうしているか、説明してやれ。ついでにお前達の天職もだ」
ん?
ぼくのも?
言いたくないなぁ。
嫌な予感しかしない。
でも、父さんってば知ってるからああいう風に言うんだろうし…
言わないと余計に悪いことになる予感しかしない。
異世界の碧さん、ぼくはこんな風に考えるうちに、流れに逆らわない子どもに育ったんですよ…
異世界で死にかけたって抵抗しなかったから碧さんに怒られたけど、そこら辺の元凶も父さんだと思ってほしいよね。
まぁ、ぼくのことは、ぼくの問題なんだろうけどさ。
「はぁ…」
おっと、説明する前にため息でちゃった。




