3日目、黒幕登場
山吹食堂を出たぼくは、一人で歩いて家に帰る。
ジゴクちゃんが横にいないのって、何だかすごく久しぶりな気分だよ。
ちょっと寂しかったりとかはしないからね。
さて、持ってくるのは宿題とトマトだけで良いかな…
服もいるよね…
けっこう荷物が多くなりそうだなぁ…
それにしても、ジゴクちゃんが狙われてるなんて実感がわかないよね。
純粋良い子の天才美少女だとは思うけど、ジゴクちゃんじゃないとダメな理由ってなんだろうね?
うーん…
「アナタハカミヲシンジマスカ?」
うーん…?
何だか通りすがりの黒服神父がぼくの前に立ちふさがって勧誘してきた…
「すいません、急いでるんで…」
って言って黒神父の横を通り過ぎようとするぼく。
「カミヲシンジテイルカ、ソレダケコタエテクレレバイイ」
うわー、面倒だな…
答えたら通してくれるかな…
「ぼく、会ったことのない人や、知らないものを信じたりすることはできません」
これで諦めてくれるかな…
ダメなら走って逃げよう。
「ショセンハキザシノコカ、ナラバイイ」
ん!?
父さんの名前を言ったような…
「オマエハシンイヲシッテイルカ?」
っ!
神威って言った!
ジゴクちゃん狙いの人かも!
でも、父さんのことを知ってるなら、この必殺ワードは有効かもしれない。
「父さんが何かご迷惑をおかけしましたか?」
怪神父の目がくわっ!と開かれた。
これはヒットしたに違いないよ!
「そうなのだ!やつは私の大切な神を奪い、今また神になる子を奪ったのだ!やつが何処に居るか知らないか!?」
良かった。父さんの被害者ならさっきの言葉で心を揺さぶられて、誰もが冷静じゃ居られなくなるんだよね。
なぜか話し方も流暢になってるし、こうかばつぐんだね!
じゃなくて!!
この場をどう切り抜けよう!?
父さんの居場所なんてこっちが聞きたいよ!
「父さんは夏休みの間は家に帰らないって手紙に書いてました。見つけたらぼくが教えてほしいくらいですよ」
家はすぐそこだから、この神父ってばぼくの家を知ってたのかな。
「そんな馬鹿な!我も奴の手紙を見てここに来たのだ!」
そう言って神父は懐から取り出した一枚の紙切れをぼくに見せてくる。
‐お前の神はもう居ない。詳しい話はこの日、この時、この場所に、一人で来い‐
文章の下には地図と日付が書いてあって、今この時間のぼくの家の前が指定されていた。
うわっ、放っとくとどう動くか分からない怪しい神父の行動を父さんが手紙で操ってるに違いないよ…
この神父さん、いい人には見えないけど同情しちゃうね。
「父さんのすることですからね。あんまり変な期待しない方が良いと思いますよ」
何て言うか、ぼくも父さんに期待して酷い目にあったことがあるから…
これは経験談、ってやつだよ。
「ああっ! 確かにその通りだ! 我もそのことは存分に思い知っていたのだがな…」
あぁ、もうこの人、悪い人だったとしてもぼくには憎んだりできそうにないね!
父さんの被害者友の会を結成する日も近いよ!
って…
神父さんの後ろから人影が近付いてくる…
そりゃあ呼び出してる本人が来るのは当然だけど…
居ないと「何してんだろうね」って不満に思うけど、居たら居たらで「どこかでおとなしくしててくれ」って思ってしまうね。
「おや、こんなところまで本当に来たのか。典語も居るとは奇遇だな」
はい、父さんの登場だよ!




