3日目、異世界へ、お泊まり!?
デレデレの照れ照れになった山吹さんとぼく。
お水を飲んでちょっと一息、だよ。
「さて、今日は異世界の町に行くんだけど、その前に注意点を教えとくから、しっかり覚えとくんだよ」
「はい!」と返事をするぼく
それに続いてジゴクちゃんも「はい!」っと返事をする。
儀式じゃなくても真似したいときはあるんだね。
「まず、当然だけど異世界には異世界人がいる。当然だけど異世界人にも色んな人が居るからね。中には悪い奴だって居るし、悪い奴の中にも強い奴ってのが希にいるんだ。レベル50を越えるまでは絡まれたりもするから、一人では出歩かないようにすること」
なにそれ怖い。
ぼくはまだレベル5だから狙われそうだよ。
「あと、異世界人はジョブ魂でジョブチェンジってのが出来ない。中にはジョブ魂そのものを嫌ってる連中も居るから、町の中ではジョブ魂を出さないようにするんだよ」
転職ってこっちの世界の人しか出来ないってことかな。
ちょっと意外だね。
「あとは、ジゴクちゃんを狙ってるやつがこっちの世界で動き始めたみたいでさ。異世界にまでは奴ら直接は行けないはずだから、二人ともしばらく異世界に住んでた方が良いね」
あぁ。
ジゴクちゃんを閉じ込めてたって人達かな。
奴らってことは大勢いるのかな…
「って! 住むんですか!?」
唐突すぎるよ。
いや、生活費の心配もしなくて済むからありがたいかもしれないけど…
「うん、異世界への転移ゲートって二つしかないって言ったっけ? もう一つのゲートが図書館にあるんだけどさ。関係者以外には図書館の方しかしか知られてないんだけど、そこが昨日から奴らに見張られだしてね。あっ、ジゴクちゃんはしばらく図書館には近づかない方が良いよ」
奴らって、暇なのかな?
「図書館って、愁鳴図書館ですか?」
山吹さんは「そうだよ」っと頷く。
ゲートってどっちもずいぶんと身近にあるんだね。
ぼくの住む愁鳴町の普通の食堂と図書館に異世界へのゲートがあるとか…
むむむっ!
この愁鳴町には何らかの謎が隠されているんじゃないかな…
探偵役に少なからず憧れているぼくの血が騒ぐね。
「まっ、ゲートを繋いだのが兆の旦那らしいからね。自分がよく使う場所にゲートを作ったんだろうね」
謎は全てとけた!
って、そもそも父さんは何者なんだろう…
ただの傍若無人な変人だと思ってたんだけど…
いや、傍若無人な変人なのは間違いないか…
変人過ぎて異世界にまでいっちゃったんだろう、って考えると納得しちゃうよ。
今まで父さんに連れられて出かけた場所って、秘境と戦場と山吹食堂くらいだし、そこに異世界が加わってもぼくには違和感がない。
でも住むのはね…
「山吹さん、異世界でも宿題って出来ますか?」
ぼくの唯一の心配を聞いておく。
山吹さんは「ははっ、小学生らしいと言うべきか、らしくないと言うべきか、よく分からない辺りがテンゴクらしい心配だね」
ん?
ぼくは立派に只の小学生だけど、山吹さんのぼくのイメージが何かおかしい気がするよ。
「今から家に帰って準備くらいしても良いさ。図書館に近付かなかったら問題ないからね。っていうか、テンゴクの家にも電話ぐらいないと、こういう時に困るね」
うっ、電話がないとかぼくに言われても困る。
お年玉の残りを合わせても6千4百円しかないぼくには電話なんて高級品だ。
でも、宿題を持っていけるのは本当に助かるよ。
ぼくは今まで父さんに邪魔されて夏休みの宿題をやり遂げたことがない。
今年こそ夏休みの宿題をやるんだって、ぼくは意気込んでいるんだよね。
「こちは、テンゴクが居る世界であれば、何処へなりともお供します」
ジゴクちゃんの、これは建前、かな?
建前と言うか、前提という方が近いかも…
いや、ぼく以外に友達がいない今の状態が、ジゴクちゃんにとっては心細い状態なんだろうね。
ぼく以外にも、ジゴクちゃんに友達が出来たら良いんだけど…
山吹さんはお姉さんって感じだもんね。
「しかし、こちも宿題というものをしてみたいのです。何か宿題をさせては頂けないでしょうか? それと、異世界でもお蕎麦を食べれますか?」
好奇心が芽生えてきてるジゴクちゃんも、異世界だけじゃあ満足できないかもしれないね。
「そうです! 国語の教科書も、もっと読みとう御座います!」
うーん、色んな話が読みたいなら、図書館に近寄るなって言うのはちょっと酷だね…
「そうだね。持ってこれる分だけ取ってきたら良いさ」
うん、兎にも角にも、準備をしに行こうかな。
「それじゃあ、すぐに用意してきます」
きっと早い方が良いよね。
ぼくは食堂から出ようと扉を開ける。
ジゴクちゃんも、ぼくの後に続いて食堂を出ようとする。
「あっ、ジゴクちゃんは狙われてるからね。あんまり外に出ない方が良い。ここで私と留守番しようか」
何だろう。真面目な顔で言うべき台詞を、山吹さんが嬉しそうに言ってる。
そこには違和感しかなくて…
「なんと!! テンゴクと離れるなら宿題も教科書も必要ありません! 今すぐ異世界へ向かうことを進言いたします!」
此処まで嫌がるとは…
うーん、でもジゴクちゃんが嫌がりそうなことを喜んでする山吹さん…
何かがおかしい…
「ふふふっ、ジゴクちゃんはここに残って、私とガールズトークをするんだよ」
あぁ!
山吹さんってば、ぼくの居ないとこでジゴクちゃんと話したいだけに違いないよ!
仲良くなりたいに違いないよ!
それが楽しみでにやけちゃってるに違いないよ!
「があるずとおく… 画有る図と置く?」
ジゴクちゃん、カタカナ語はたまに苦手そうだ。
「テンゴクとは異世界で手を繋げば心の奥まで通じ合っちゃうんだからさ。たまには私と話そうぜ!」
そう言って、自分をビシッと親指で指す山吹さん。
「山吹様がこちとお話をしてくださるのですか!?」
いやもう、お話したくて堪らないのは山吹さんも同じに違いないよ!
「山吹お姉さんって呼んで良いんだからね!」
ブレブレのキャラがでノリノリの山吹さん。
「はい! 山吹お姉様!」
あぁ、うん。
この空気…
なんか邪魔しちゃ山吹さんに悪いし、ゆっくりと荷物を取りに行こうかな。
「それじゃあ、ジゴクちゃんを宜しくお願いします!」
山吹さんへのお土産に、冷蔵庫に余ってるトマトを持ってこようかな。
置いとくのも勿体ないよね。
あれ…?
ジゴクちゃんが連れていって欲しそうにこっちを見てるような…
「テンゴク、その… こちも共に行きたいのですが… 」
うっ、ここは我慢してくれないと…
狙われてるのは本当だろうし、守れる自信なんてない。
「しかし、こちはすでにテンゴクに拐われた身に御座います。 これ以上は誰にも拐われたくありません。」
その理屈はなんか変だけど…
うん、留守番してくれそうなら問題ないよね。
「それに、お姉様との画有る図と置くにも興味があります。テンゴクに自分の気持ちを説明する時の役に立ちそうに思います!」
があるずとおく、意味は勘違いしてる気がするけど…
ジゴクちゃんの経験には、誰かと話すってことが足りてないと思うし、ぼく以外の人と話すのも大事だと思うし、納得してくれてて良かった。
「よし、山吹さんと仲良くしてあげてね! それじゃあ行ってきます!」
そう言って、ぼくは自分の家へと向かうのであった。




