3日目、感謝感激
「ごちそうさまでした」
そう言って手を合わせるジゴクちゃんの、これぞ至福って感じの笑顔が眩しいね。
「テンゴク! 山吹様! こんなにも素晴らしいお蕎麦をありがとう御座います! 料理とは素晴らしく、人のもつ可能性とは素晴らしく、それらを味わう一時の満ち満ちたりしこと、まさに満足と言うに相応しく、こちは幸せ者に御座います!」
うんうん、近所の食堂で食べる、普通のざるそばで幸せになれるなら、それに越したことはないね。
「へへっ、ジゴクちゃんはお蕎麦が好きなんだね。またいつでもご馳走してあげるよ!」
山吹さんがジゴクちゃんにデレデレだよ。
山吹さんの弱点は笑顔だから、今のジゴクちゃんの至福の笑顔を前にすれば、こんな風に骨抜きになっちゃうのも当然だけどね。
しかも、自分の出した料理で笑ってくれてるから、ゲームに例えると弱点タイプの攻撃が急所に命中したくらいの威力だったかもしれないね。
あれ?
そう言えば、昨日よりもジゴクちゃんと山吹さんが普通に会話してる気がするよ。
お蕎麦を食べた感想を熱く語るジゴクちゃんと、それを聞きながらデレデレしてる山吹さん。
昨日までは、こんな風に会話してるところは想像もできなかったけど、今は目の前にあるんだよね。
「あははっ、それにしてもジゴクちゃん、昨日に比べて明るくなったね。テンゴクと何かあったのかい?」
って、山吹さんがニヤニヤとしながらこっちを見て言ってるよ。
何かって、普通に話してただけだよね。
「はい! 今までこちが居た世界など檻の中のようなものでしかなかったと知りました!」
こういう会話が重たくならないのは、ジゴクちゃんの凄い所だよね。
「その檻を、テンゴクが壊してくれたのです。こちは自由を得たのです!」
こういう会話が照れずにできるのは、ジゴクちゃんの凄い所だよね。
もっとも、ぼくがしたのはそんなに凄いことじゃない。
ジゴクちゃんが元々自由だったことに気付いてくれただけなんだよね。
ちょっと教えただけで文字も自分で読めてたし、きっかけさえあれば何でも出来ちゃうくらいにジゴクちゃんは優秀。
ぼくは、たまたまジゴクちゃんの横に居たってだけだ。
そして、この感謝感激の雨霰がジゴクちゃんから降り注いでくるのも、元はと言えば父さんが仕組んでいたこと、なんだろうなぁ。
いや、それでもこんなに感謝されると照れるし嬉しいけどさ。
「こちは今まで、山吹様の『閉じ込められていた』と言う表現が正に相応しい、そんな扱いをされていたのだと分かりました」
白い家に閉じ込められていて
食べ物は穀物
人形のように自我もなく
昨日は『自己』を得たと喜んで
今日は『自由』を得たと喜んでいる
誰が何のためにそんなことをしてたのか知らないけど、酷い話があるものだね。
「されど今、こちはジゴクであり、こちは自由であるのです。これもテンゴクのおかげです! そして山吹様のおかげでもあるのです!」
うーん、やっぱり照れるね!




