3日目、お勉強、はじめました?
あっ、そうだ。
本末転倒、いつ起きたのって話が全くできてないよ。
ジゴクちゃんが眠ってしまった、っていう所から脱線してこうなったんだよね。
まぁ、脱線したからジゴクちゃんにとって大事な話になったんだし、良かったんだけどね。
「それで、いつから起きてたんだっけ?」
あっ!っとジゴクちゃんも、思い出したようだ。
「そう、あれは目覚めてすぐのこと。こちは布団の中での振る舞いが分からずに固まっていたのです」
ジゴクちゃんはさっきまで、それも儀式だって思ってたんだからしょうがないかな。
「こちのせいで『おやすみなさい』の儀式が失敗したのではないかと不安に打ち震える最中、テンゴクが布団から抜け出し動き始めたので、こちも動かねばと思い、テンゴクの背後に付いて動きを真似していたのです」
あれ、最初からずっと後ろにいた感じ…?
気づかなかった…
背後霊か暗殺者のセンスがあるんじゃないかな…
「しかし! テンゴクがこちらの机の上で謎の文を書き始めたのを見て、これは難度が高すぎて如何ともしがたくと諦念を抱き途方に暮れていたのです!」
それで表情が暗かったんだ…
って、なんか言葉の端々はやっぱり分からないけど、日本語には違いないんだよね。
会話は普通に成り立ってるから気にならなくなってきたけど…
わからない言葉はあとで辞書でも引いてみようかな。
「しかし、儀式ではないとすれば、テンゴクはいったい何をしていたのですか!? これも手紙なのですか!?」
ジゴクちゃんの世界観が崩れて、儀式だと思ってたのが自由な振る舞いだと知って、今ではすっかり、気になることに目を輝かせる女の子になってしまったようだ。
喜ばしいことだよね?
うん、大変そうだけど、ちゃんと教えてあげないとね!
「ぼくがやってたのは宿題だよ。小学校っていう、子ども達が集まって勉強する場所があって、そこから出された、家でやる分の勉強だよ」
難しい言葉は知ってるし、頭は良いし、ジゴクちゃんが学校に居たら優等生になると思う。
でも、読み書きはできなさそうなんだよね…
うーん…
そうだっ!
ぼくは、押し入れの奥に片付けてあった小学1年生から4年生分の教科書を取り出して、まず、一年生の国語の教科書をジゴクちゃんに渡した。
って、すっごく久しぶりにみたら、懐かしいっていうより何だか初めて見る物のような新鮮な感じがするなぁ。
以前は毎日使ってたはずなのにね。
ジゴクちゃんは中身を見ると、カタカナの一覧表を見て表情を明るくさせた。
「この文字は読めます!」
あ、それなら他の字を教えるのも楽だね。
ちょっとホッとした。
「それは片仮名で、こっちの表にある平仮名って字と読み方は一緒だよ」
ちゃんと教えてあげれてるかな?
「ア」と「あ」、「イ」と「い」、「ウ」と「う」って順番に一文字ずつ教えていく
何だか先生気分だよ、って思ってたら「け」の辺りから発音の法則を掴んだみたいで一人で読み出しちゃったよ!
カタカナを知ってるからって、初めて見るらしい字をすらすら読むとか、やっぱりジゴクちゃんは頭良いんだね。
「母音と子音の組み合わせで並べられているので分かりやすいですね!」
うんうん、そういうとこに気付けるだけの知識はあるんだよね。
それなのに一年生の教科書で勉強してるの変な感じ!
「漢字は読める?」
あれだけ難しい日本語を知ってるのに漢字は知らないって変だよね?
「読み方を見ると、なるほど、漢字という呼び方は知りませんでしたが、私の知る文字とは形が異なるだけなのでしょうか… 少し覚えれば読めそうな気がしてきました」
形が異なるってどんなかな?
ジゴクちゃんにノートと鉛筆を渡して書いてもらう。
さらさらと書かれたその字は…
「そゆ?」
ひらがなの「そ」と「ゆ」って読めるような気がする。
「天地と書きました」
うーん、言われたら読める気がしないでもない。
「そゆ」より「天地」に近いと思えなくもない…
これは書道家の書く字だよね。
一応、漢字なんだと思うけど、説明されないと読めないやつだよ。
ジゴクちゃんはちょっと覚えたら普通の漢字は読めそうって言ってるし、ぼくの国語の教科書と国語辞典をジゴクちゃんに渡しておこう。
書く練習用にノートも何冊かあげておく。
ジゴクちゃんも喜んでるし、一先ずはこれで良いかな。
ジゴクちゃんは草書体で「天地」と書きました。
漢字を草書体に変換してくれるアプリもあるので、気になる方はそちらで調べることも出来ますよ。




