3日目、自由、はじめました
挨拶とか、食事とか、睡眠とか、そういうのが儀式じゃないってことが、ジゴクちゃんにとっては今まで知っていた世界が崩れるくらいの衝撃だったみたい。
「ジゴクちゃんも、儀式とか、誰かの真似とかしなくても、自分のやりたいように、自由に振る舞ったら良いからね」
自由に振る舞って良いって知ったジゴクちゃんは、これから今までよりも活発的に動き出すんじゃないかって 気がするよ。
「自由…」
そう言って、その言葉を噛み締めるように、その言葉に思いを馳せるように、ジゴクちゃんは目を閉じる。
その姿はどこか神秘的で、邪魔しちゃダメだって感じがした。
だけど、すぐに目を開けて、ジゴクちゃんはぼくに告げる。
「しかし、ならば皆様の優しき振る舞い、厳しき振る舞いにも納得がいくことが多く、こちは目が覚めた思いにございます!」
おっと、何かがジゴクちゃんの中で繋がったみたいだよ。
とても感激しているけど、ぼくにはついていけない。
だから聞いてみる。
「どういうこと?」
ぼくと同じ情報を得れば、頭の良いジゴクちゃんだし、ぼくより多くのことに気付くのは当然だよね。
今までの生き方が違うんだから、気付けることもお互いに違って当然。
悔しくなんかないよ。
「自由であるからこそ、自由であるために、規律が生まれ、優しさが生まれ、協調が生まれるのです!」
うん、なるほどさっぱり繋がりが分からない。
悔しくなんかないよ!
今度、異世界で必殺モードで手を繋いだ時に心の中で聞いてみよう。
あっちだと、ジゴクちゃんが理解した内容がそのまま伝わってくるから分かりやすいんだよね。
でも、いつか父さんが言ってた「自分だけに自由を認めるのは自分勝手と言うものだ」ってのと似たような意味かな。
「誰かが思いやらねば、誰にも思いやられぬのだから、まずは自分が思いやれる者になれ」だっけ…
遠慮しない人は、遠慮されない人になっても文句は言えないもんね、って父さんの言葉に納得しかけたんだよね。
でも、父さんは続けて「だが、それが己を抑圧する理由にはならない。私は何よりもまず、自分勝手でありたいと思う」とか言っちゃうから困ったもんだよ。
うんうん、困ったもんだと一人頷くぼくを見て、ジゴクちゃんが「テンゴクもそう思うのですね!」ってテンション高めに喜んでるよ。
まずいっ!
ジゴクちゃんの勘違いを放ったままにしてると、何だか良いことがない気がしてきたんだよね…
ひょっとしたら、これがジゴクちゃんにとっては初めて自分自身の考えを言葉で伝えた歴史的な出来事だったかもしれないし、ぼくも自分の考えを言っとかないと!
「そうじゃなくてね、」
そう前置きしてから、父さんが言ってた言葉とか、さっき考えてたことを伝えた。
ジゴクちゃんとの対等な関係ってやつを築くためにも、まずは分かり合うってとこから始めようと思うんだ。
「こちの説明では足りないのですね…」
俯き、それでも微笑むジゴクちゃん。
「しかし、それもまた一興に御座います。こちと分かり合おうとしてくれたテンゴクの想い。しかと受け止め、精進いたそうと思うこと。これが、こちの意思による自由な思考による決断で御座います!」
ビシッと、ぼくを指差すジゴクちゃん。
その言葉は、まだ続くようだ。
「こちはテンゴクと対等であれる様に、努め、務められる所存にありて! 然らば、先の指摘に有り難いと想いたもうこと偽り無く! 今後とも宜しくお願いいたします!」
うん、ジゴクちゃんが自分の好きなように喋るとこんな感じなんだね。
うーん、困った。
「意味が分からなければ、悪意の有無を判断しろ。善意だけなら信用はするな、利用しろ」って言う父さんの言葉にすがるのも癪だけど、悪意がないのは間違いないし、なんとなくは意味も分かるから…
いや、利用はしないけど…
うん…
「よろしくね!」
って、言っとこう。
あれれ…
さっきまで何の話をしてたんだっけ?
ここからようやく、ジゴクちゃんが自立的に動き始めます。
テンゴクがしばらく振り回されるかもしれませんが、そんなことは作者の知ったことじゃないです。




