3日目、テンゴクの寝言、ジゴクの儀式
「ジゴクちゃん、いつから起きてたの?」
気付かなかったのは、宿題に集中してたからかな…
ジゴクちゃんは、何故か凄く申し訳なさそうな、そんな暗い表情をしていた。
おねしょかな…?
「こちは、昨夜の『おやすみなさい』の儀式が始まった後、どうにも耐えきれずに眠ってしまったようなのです…」
およよ…
眠って欲しかったから良いんだけど、そこの説明が必要だったとはね…
「至らぬまでも出来うる限りは、テンゴクのしていた特殊な呼吸法や、鳥獣の如き奇声を真似し、もう少しで何かが掴めそうだと思ったのも束の間、こちは眠ってしまったのです…」
うひゃあ…
それもう、ぼくって寝てたよね。
ぼくの寝息と、寝言…かな…?
それは真似して欲しくなかった…
「えっと、呼吸法とか奇声って、どんなのだった?」
知られたくないけど知りたい… それが自分の寝言
知られたからには共有したい… それが自分の寝言
「しゅぅぅ…ひょぉぉぉ…しゃみっひほれほれ…風に呼ばれて…旅に出るのも悪くない…ひゅぅぅぅ…しゃみっひほれほれ…しゃみっひほれほれ…」
やぁぁぁだなぁぁぁぁぁ!
「ジゴクちゃん! それ以上はもう良いよ!」
なんなの、しゃみっひほれほれって!?
ぼく、寝てるときに定期的に言ってるの!?
うわぁぁぁぁぁ!
風に呼ばれて旅に出ないからっ!
思ってたより、ぼくの寝言がひどいよ!
「テンゴクが聞いていられぬほど…こちの儀式は未熟なのですね…」
違うよ!
「全然違うよ!」
このままじゃ、勘違いがどんどん大きく膨らんで行く予感!
ここらでビシッと、寝てたって言っとこう!
「そんなに違うのですか… しゃみっひより、しゃめぃっひの方が近い気もしたのですが…どうですか?」
すでに新たな勘違いがここに生まれてたよっ!
違うところが違ってるよ!
「えっと、おやすみなさいは眠る前の挨拶で、眠ったのが正解だよ。未熟とか違うからね! ぼくが自分の寝言に恥ずかしくなっただけだよ!」
うん、これを説明しとかないといけなかったんだね。
「しゃみっひとか、風に呼ばれてとか、そういうのはぼくの寝言とか寝息だよ」
でも、こんな説明をしないといけなかったなんて、思いもしなかったよ。
思い返せばジゴクちゃんって、難しい言葉は知ってるのに、挨拶はぼくの真似をしてばっかりだったかも…
うーん、これは常識だけでも再確認した方が良いかな…
「眠って良いとは… なんと奔放な儀式なのでしょう!」
ほんぽう、って自由ほんぽうとかのほんぽうかな、意味は分からなかったけど、ちょっとずれた驚きかたをしているのは分かった。
「まず、ぼくは挨拶とかはするけど、儀式って言うほど大げさなのはしたことないよ。だから自由に振る舞って良いんだよ。自由が基本」
うんうん、これ常識。
「なんと!!」
ぼくにとって当たり前なことだけど、ジゴクちゃんには大きな衝撃を与えたみたい。
「こちの知る世界が、全て崩れ去ったような衝撃を感じています!」
いや、そこまで大きな衝撃だったとはね!




