2日目、おやすみなさい
ぼくたちが家に帰ると、玄関には大きな段ボール箱が置いてあった。
中身はジゴクちゃんの生活用品一式、着替えもちゃんと入ってある。
全部、同じ服だけど…
これ、父さんだよね!
いや、これは素直にありがたいから良いんだけどさ。
そして、段ボールの中には手紙が一枚だけ入っていた。
内容は、出掛けるときは鍵をかけなさい、って一言だけだったよ。
「これ、ジゴクちゃんの着替えが入ってるから、お風呂入ったらこれに着替えてね」
ジゴクちゃんは、不思議そうに小首をかしげる。
「お風呂とはなんでしょう?」
そこからか…
えっと、ちゃんと説明するのってちょっと難しいね。
「体についた一日の汚れを落としたり、いい湯だなぁ…って言いながら癒されたりするところだけど…」
入り方を教えとこう。
ぼくはジゴクちゃんをお風呂場に連れていって、湯船にお湯を張ってる間にシャワーとか石鹸とかタオルとか、一通りの道具の使い方を教える。
もちろん、二人とも服を着ながらだよ!
「じゃあ、一人で入れるかな?」
ジゴクちゃんに確認すると、はいっと頷く。
「こちにも、溺れないように水を浴びる程度の心得はあります。心配は無用です」
いや、そこまで心配はしてないけど「うん、頑張って」と言っておく。
ちょっと不安そうだったけど、覚悟を決めて一人でお風呂に向かっていくジゴクちゃん。
まぁ、男の子と女の子が一緒に入るわけにもいかないよね。
山吹さんに家までついてきてもらった方が良かったかな…
って、ぼくはどうして成り行きで女の子と二人で暮らし始めてるんだろ…
我ながら、流されやすすぎかな…
もっとも、今日を一日ずっと一緒に過ごして、
夏休みの生活が不安だよ。
明日の朝ごはんはどうしよ…
あっ、服が置いてたんだから食料ももしかして!
ぼくは冷蔵庫を確認する。
なぜかトマトが大量に並んでいた。
うん?
他にはお茶しかない。
うーん、何もないよりは良いけどさ。
服といい、食料といい、何かを買い占めるのが父さんの趣味ってわけではないはずだけど…
「いい湯だなぁ」って声がお風呂から聞こえてきた。
ちゃんとお風呂に入れてるみたいで良かった。
ジゴクちゃんと交代で、ぼくもお風呂に入って、すっきりしてから布団を敷いた。
色々と相談した結果、ぼくの部屋で、布団を並べて一緒に寝ることになったよ。
今日は一日、夢みたいな出来事ばっかりだったけど、確かに現実だったんだよね。
寝る前に、試しに呪文をいくつか唱えてみたけど、当然のように何も起こらなかった。
うーん、不思議だなぁ…
「おやすみなさい」って、ジゴクちゃんと挨拶を交わして、布団に入って目を閉じる。
何だか久しぶりに、普通に眠れそう。




