2日目、ジゴクちゃんの秘密、父さんの陰謀
「まず、ジゴクちゃんは七日に一度しか食事をしないってとこからいこう」
ぼくなら餓え死に確実だよ。
「これは異世界にいる間はマナの働きでお腹が減らないのと同じだろうね」
ん?
確かに、こっちの世界に帰ってきた途端にお腹が減ってた。
いやいや、あっちの世界じゃお腹が減らないってありなの?
そういえば心臓が止まっても死なないとか言ってたし、でも不思議すぎる…
って!
「ジゴクちゃんは異世界に住んでたってことですか!?」
最初からぼくよりレベルが高かったのも、そう考えると辻褄あうよね。
「いいや、それは有り得ないんだ」
って、違ったよ!
「何てったって、あっちとの出入口はここと合わせて二つしかないし、どっちも私と碧さんが管理してる。どっちからこの世界に来ても、少なくとも私は気付くようになってるんだよ」
なるほど…
って、じゃあここって超重要なスポットじゃないの!?
それに、山吹さんと碧さんって超重要な人じゃないの!?
ふう。ちょっと今日は心の中で驚き過ぎたよ。
ちょっと落ち着こう、ぼくの心よ。
「それじゃあ、ジゴクちゃんはどこに居たんですか?」
本人は、白い家に住んでるとか言ってたような…
いや、さっぱり分からないけど。
「こっちの世界にも、マナが吹き出すように出てる場所が希にあってさ。たいていはパワースポットとか、怪奇現象やら心霊現象のスポットになってるんだけど、そういう場所をマナが逃げないように人工的に改造すると、異世界と似た環境になるんだよ。誰かがそこにジゴクちゃんを閉じ込めてたんじゃないかな」
閉じ込めてた…
「いや、ひょっとしたらだけど… ジゴクちゃんは、自分が自我に目覚めたのはいつか分かるかい?」
ん?
物心ついたときってやつかな…?
ぼくにはそんな想像しかできなかったけど、ジゴクちゃんの返答はぼくの想像の遥かに外だった。
「こちは今朝、きざし様に基本的な言語と人格を与えて貰いました。それまでは自分と言うものを持っておりませんでした」
今朝…!?
それまでは何だったの!?
山吹さんは「やっぱりか…」って言って納得してる…
何だかヘビーな話になってきたけど…
ぼくも参加してて良い話なのかな、これ…
「そして、テンゴクに喋ることを許され、名を貰い、人として扱われ、こちは確かにジゴクという自己を得ることができたので御座います!」
あ、ハイテンションなジゴクちゃんになりかけてる…
いやいや、ぼくってジゴクちゃんにそんな大層なことをしてたの!?
聞いてたら、ジゴクちゃんを人間にした恩人みたいのが父さんとぼくってことになってない?
いや、主にぼくってジゴクちゃんは思ってるよね!?
「こちにとってテンゴクが、名付け親であり、はじめての友達であり、人としての教本のような存在でもあるのです!」
いやいや、物心ついたのが今日で、その日にできた友達がぼくってなったら、そりゃあもう大層な存在だと思われててもしょうがないけど!
異世界での必殺技モードの時の心が通じあった感じとか、今まで父さん関係以外は普通に生きてきたぼくにとっても中々のインパクトがあったんだけど、自分の人格が生まれたばかりと言ってるジゴクちゃんにとって、人と心が通じ合うのって、どれだけの出来事だったんだろ!?
うわぁ!
考えてみると急に恥ずかしくなってきた!
今までは、ちょっと大げさだなぁって思ってたけど、何かジゴクちゃんの気持ちが分かっちゃったら恥ずかしすぎる!
ジゴクちゃんが尊敬の眼差しでこっちを見てるとか、ぼくには勿体ない!
いやいや、落ち着こう!
ヘビーな展開でブルーな気分も嫌だけど、これはこれで感謝されすぎててヘビーな気分だよ…
「あ、今日はこのくらいにしとこうか…?」
山吹さんがぼくに気を使うように、だけど、にやっと笑いながら言う。
「ちょっと、気持ちの整理もしたいだろう?」
確かに、これ以上の話をする前に心の中を整理したい。
じゃないと耐えられないよ!
閉じ込められてたとか、感謝しまくられてるとか、心の振れ幅が大きすぎて大地震みたいだよ!
「はい、今日は色々ありすぎたので、帰ってゆっくりしようと思います!」
そう、朝から本当に色々ありすぎた。
そもそも、ぼくって父さんの手紙をジゴクちゃんに読んであげただけで、ぼくは自分の意思ではとくに何も、
も…
も!?
その手紙を読むところからここまでの流れと、ジゴクちゃんに感謝されまくられてるところまで、父さんの手紙のせいじゃないかな!?
いや、絶対にそうだよ!
だって、父さんだもん!
こうなるように仕向けてるよ!
こう、みんなが喜んでるのに、ぼくだけ何故か心労を背負ってる感じとか、とっても父さんの陰謀っぽい!
あぁ、今日は本当に色々ありすぎたね。
日記には何て書こうかな…
店長はまだ、カレーと向き合っています。
鍋に入ったカレーをかき混ぜるイメージをずっと思い浮かべながらここまでの話を読むと、きっと店長の気分になれます。




