2日目、食後の食堂で看板娘が謎を解く
カレーを食べ終えたぼくたちは、山吹さんの話を聞く。
「私の知ってることなんて、殆どないんだけどね。だけど、分かったことはいくつかある」
あ、これ、ぼくが異世界でやりたかった探偵よろしく謎を解く感じの流れだよ。
いつかぼくも、こういう風に話を持っていきたいな。
って、ちゃんと聞かなきゃ!
「そうだ。説明する前に、私もテンゴクに聞きたいことがあったんだよ」
なんだろ?
「前にさ、発想の転換はこうするんだー 、とか言ってなかったっけ? それをもう一度教えて欲しいんだけど」
わぉ、大人に頼られると子どもは無条件で舞い上がっちゃうんですよ!山吹さん!
って言っても、これって父さんが前に言ってたのを、何かの折りに山吹さんに説明しただけなんだよね。
あれは確か、ストローでジュースを飲むなんて思いついた人は凄いよねって話をしてた時だったかな…
大人ってけっこう忘れっぽいよね。
「えっと、基本は物の見方を変えるってだけなんですけど、色んなパターンがあるんです… 何について考えてるんですか?」
大人にも分からないものがあるんだよね!
ちょっと安心する。
「どうして、ジゴクちゃんには名前が無いのか、だよ」
あっ、そこってやっぱり大人にも不思議なんですね!
あまりにも自然に受け入れられてるから、ちょっと大人の社会ではよくあることなのかと思いそうだったよ。
「んっと… 名前が無いのはどんな場合かって考えられるのと、名前を付けない理由は何か、名前のない女の子の使い道は何か… ってとこから考えるくらいかな…」
発想の転換なんてかっこつけた言い方をしたって、結局は自分で考えるんだから、答えが分かると決まってるわけじゃない。
実際、ぼくには考えたって想像も付かないけど、山吹さんなら何か思い付くのかな…
「ふーん、なるほどね。 何に使う… か…」
お役に立ててたら光栄ですよ!
でも、確かジゴクちゃん本人が言ってたんだよね。
「ねぇ、ジゴクちゃんの名前が無いのって、何だっけ? しんいにどうこうって言ってたよね?」
発想の転換も良いけど、本人に聞く方が手軽だよね!
「神威に名は不浄と、こちは聞かされておりました」
山吹さんが目を瞬いた。
「あぁ! しんいってどんな漢字を書くんだい? あと、誰に言われたんだい!?」
そう言えば、気になるね。
だけどちょっとだけ、ぼくが空気になる予感だよ!
「神様の『神』に威圧の『威』に御座います。こち自身もそれが何なのかは知りません…」
人じゃなくて神威、だからお腹も減らなかった…?
よく分からないね…
「こちの知識の大半は『声』と『教典』から教わりました。どちらも人ではありません。」
うーん、やっぱりどんな状況なのか想像できない…
でも、山吹さんには何か分かったみたいで、不敵に笑ってるよ。
「なるほどね。それじゃあ次は解決編、とまではいかないけど、私に分かったことは教えてあげるよ」
解決編! ぼくもやりたかったよ!
話の都合上、今日は他の客が一人も来ていません。
店長は、鍋に入ったカレーを万全な状態に保ち続けて一日を終えることでしょう。
今も、「おかわり」と誰かが言うのを待ち望む店長がお店の奥に居ます。




