2日目、はじめての空腹、はじめての夜
来るときの道は色んな決まりがあってややこしかったけど、帰りは一瞬で家についた。
『リターンゲート』と山吹さんが唱えただけで、碧さんの部屋の出口から最初の家、「占い処 千歳」の玄関へと道が繋がったのだ。
あとは玄関のドアを開け直すだけで元の世界へと帰ってこれた。
異世界なのに簡単に行き来出来るなんて変な感じだね。
実は同じ世界だったり…
って、そう言えば、世界ってなんなんだろう。
「この世界」と「あの世界」って呼び方が違うだけかな…
あれ?
よく分からないや。
異次元とか異空間と、異世界って違うんだろうか?
まぁ、異次元も異空間もよく分からないから、考えていても分からないものが増えていくだけだね 。
辺りは暗くてすっかりと夜になっていた。
山吹食堂から漂ってくる美味しそうな匂いがたっぷりの空気を吸い込むと、帰ってきたのを実感する。
さっきまでは減っていなかったお腹も、そんな空気を吸ったとたんに空腹をうったえてくる。
「テンゴク!大変です!」
急にジゴクちゃんが慌てだした。
まだ繋いだままのぼくの手をブンブンと振り異常を訴えてくる。
「どうしたの?」
こんなにジゴクちゃんが慌てるなんて珍しい。
「こう、お腹の中がぎゅうっと握り締められているような、疲労と虚脱が混じり合いながら蠢いているかのような…」
そう言いながら、ジゴクちゃんは繋いでいるぼくの手を自分のお腹に当てた。
「この辺りなのです!」
ぐうっとジゴクちゃんのお腹が鳴る。
うん、これは…
「こちのお腹から異な音がっ! もしやこちは悪霊にとり憑かれてしまったのでしょうか!? もしや、世界が闇に覆われてしまっていることと何か関係があるのでしょうか!?」
えっと…
とりあえず…
「お店の中に入ろうか。 きっとすぐに治るよ」
多分、ジゴクちゃんはお腹が減るのも初めてなんだろう。
ひょっとしたら、夜に外に出たのも初めてなのかもしれない。
今まで、どんな生活してたんだろうね?
山吹食堂に入る前に、ぼくのお腹もぐうっと鳴った。




