2日目、異世界チュートリアル責任編
うん…
あれ、
ここはどこ…?
ぼくは誰…?
うーん…
ぼくはテンゴクで、ここも天国ってオチは嫌だな…
見回すと、そこは厳かな雰囲気の和室で…
って、碧さんの居た建物の中っぽい…
今日は目を覚ますの、もう三度目になるよ。
朝、見知らぬ車の中で目覚め。
二度目は気を失って倒れて。
今回は、なんで寝てるんだっけ…?
いつ、ここに戻ってきたんだろう…
確か巨大な仮面と戦って…
それから…
「おや、気が付いたようだね」
碧さんの声、
隣の部屋に居るみたい。
もしや、隣の部屋からでも感情が読めるから、目が覚めると同時に感情が読めるようになって、起きてるかどうか分かるとか…
「ふん、この社のある空間は私のテリトリーだからね。ここで私に見通せないものはないのさ」
それ以上だった…
完全な監視社会の完成形がここにあったようだ…
ジゴクちゃんと心の中で会話するのは平気だったのに、碧さんに心を読まれるのは何とも落ち着かなくなる。
きっと、向こうから一方的に読まれてるからだね。
碧さんの居る部屋へ行ってみると、山吹さんとジゴクちゃんもそこに居た。
なんでか、山吹さんは土下座をするように、頭を床に付けて正座してる。
何かに祈りを捧げてるようにも見えるけど、なにしてるんだろう?
「すまなかった!」
山吹さんが祈りのポーズで『すまなかった』を唱えた。
って!
謝られた!?
あれ?
本気で土下座みたいだよ…?
ぼくが人生で初めて土下座される相手は父さんであって欲しかったのに…
山吹さんにそんなことされたら、ぼくの方が申し訳ない気持ちになっちゃうよ。
何があったにしてもね。
今までお世話になってばかりだから、ぼくには山吹さんへの感謝の気持ちしかないのだ。
だけど、ぼくの前で山吹さんは土下座をしている。
どうしたら良いのかな…
「私が至らぬばかりにパーティーを全滅させてしまった!テンゴク達の初めての冒険を失敗に終らせてしまうなど、案内人として失格と罵られても仕方がない!」
まくし立てるように謝り続ける山吹さん。
ジゴクちゃんは困った顔で立っているし、碧さんは…不機嫌そうだった。
全滅…?
仮面は倒したよね…
山吹さんが至らなかったら、それはしょうがないような…
仮面を倒したあとって何があったっけ…?
んー、思い出せないよ。
「何があったか思い出せないけど、ぼくは山吹さんのやることなら絶対許しますよ!」
全滅っていうなら、山吹さんも被害者だよね。
あっ、土下座してる人には「顔を上げて下さい」って言うんだよね。
うんうん。
でも、そう言う間もなく。
「思い出せないくらいにショックだったんだね!」
と言う感じで謝り続ける山吹さん。
うっ、そう取られちゃったか。
ぼく、実は途中までは何があったか覚えてるんだけど、超怖かったんだけど、それくらいじゃ山吹さん相手に怒る理由にならないんだよね。
碧さんが不機嫌そうなのは、きっとぼくがとぼけてるせいだと思う。
同じ事をぼくたちがしても、山吹さんは絶対許してくれるから、それに怪我もないし、怒る理由がないよ。
でも、全滅って、何でだろ?
ジゴクちゃんが気を失って…それで地化がとけたから引っ付く力がなくなって、本気を出した山吹さんのスピードに吹っ飛ばされたんだと思う。
それは間違いない、はずなんだけど。
「山吹さんも、何かにやられたんですか?」
ぼくは唯一の疑問を聞いておくことにした。
「ふん、『パーティー登録:テンゴク』」
ん?
碧さんからパーティーのお誘いが来た。
勝手に名符が出てきて「はい」か「いいえ」かの選択肢がぼくの前に現れる。
碧さんのパーティー申請を許可したけど、何するんだろ?
山吹さんとジゴクちゃとのパーティーは解除されてるみたいだった。
「テンゴク、ジゴク、私に攻撃してみなさい」
碧さんが言うので、ぼく達は仕方なく『天化』『地化』を碧さんにかけ、『天撃』『地撃』を…
って、人に向けて撃つのはやっぱり抵抗あるね。
碧さんも何となく強そうだし、大丈夫なんだろうけど…
「『地撃』」
あっ、ジゴクちゃんはわりと遠慮なく撃ったよ。
黒い光弾を、碧さんは右手でパシッと受け止めた。
なんかキャッチボールでもしてるみたいで、全然平気そうだよ。
じゃあぼくも、「『天撃』」
そう言えばMPは回復してるね。
寝たら回復するみたい。
ぼくの白い光弾を、山吹さんは、
痛っ!
うけとめなかったよ…
ほっぺにガツンと当たったよ…
痛そうだな…
あぁいうのって、見てる方も痛くなるんだよね。
碧さんは全然平気そう…
って!
「ぼくのほっぺが本当に痛いんだけどっ!」
シールドも減ってるし!
「という具合に、パーティーメンバーへの攻撃にはペナルティーが発生して、自分のダメージになるんだよ」
なにその自分は痛くないから防がなかったっていう自分勝手!
あぁ、山吹さんがジゴクちゃんの地撃を平手で消したのって、山吹さんの優しさだったわけだ…
それにしてもほっぺ痛い…
「そしてだよ。お前たちが恐怖に耐えきれずに気を失っていると気付かないまま、調子に乗って本気で走るヤマブキは、見事にお前たちを落っことしてしまった」
山吹さん、あんまり自分の好きなことをやるってイメージが無かったからなぁ…
山吹さんの「楽しい」についていける人って確かに少なそうだし、ちょっと可哀想だよね。
「その落下のダメージがお前たちへの攻撃と認識され、今のテンゴクのようにヤマブキ自身へとダメージが入り、ヤマブキのMPはゼロになったんだ」
高速で走りながら、人を壁か床に投げつけた感じだし、攻撃って感じはするね。
それにしても、パーティー組んでるだけで痛みもダメージも相手に移るんだから、魔法とかある世界だって分かってても、やっぱり不思議なシステムだね。
「ヤマブキのMPがゼロになり、お前たちが二人とも気を失った状態になった時、ヤマブキの持つ全滅回避の守りが発動して、ここに全員が転送されたのだよ」
ちょっとはしゃいだらパーティー全滅…
そこに責任を感じての土下座のようだ。
うん、全員が無事でなにより…だね。
「さて、話は以上だ。ヤマブキへの処罰をどうするかは、パーティーを組んでいたお前達の問題だ。皆で好きに決めると良い」
処罰…
「この世界には、法律なんてなければ裁判すらないんだからね。無罪にするのも極刑にするのも自由だよ。自分達で決めなさい」
その責任重すぎる自由はなに!?
山吹さんも「煮るなり焼くなり、テンゴク達の好きにすれば良い」とか言ってる。
平和な国で日常をのほほんと生きている小学生にとって、これは荷が重い。
「ちょっと、ジゴクちゃんと相談してきます!」




