2日目、異世界チュートリアル設定編
碧さんは自分の身体と同じくらいのサイズの大きな本を開くと、その本の中に手を突っ込んだ。
読まないの!?
「ふむ、天職が術師ならこの辺りだろう」
そう言って、中からジョブ魂らしきものを二つ取り出した。
今まで見たのと違って、そのジョブ魂は透明な色をしていた。
「ほら、これは無料にしといてあげるよ」
ぼくと女の子に一つずつ、透明なジョブ魂を放り投げる碧さん。
手で受け取ろうとしたら、それは名符の方に吸い込まれていった。
そっちかぁ…
「ジョブ魂ごとにステータスが個別に設定できるんだ。早速、いま渡した『闘士』のジョブ魂を出してみなさい」
碧さんに促され、ぼくたちはジョブ魂を出す。
「『ジョブ魂:闘士』」
人前でこういう台詞を言うのってちょっと照れくさいよ。
でも、ちゃんと出た。
「さて、職業のステータスは自身のMPを振り分けて決めるんだ。ジョブ魂と名符を出した状態で『パラメーター設定』と唱えたまえ」
ぼくたちは『パラメーター設定』と唱える。
それにしても、異世界なのに呪文とかまで日本語なんだよね。
碧さんも日本語で話してるし、外国の観光地に来たら自分と同じ国の人しか居なかったって感じだよね。
これが漫画とかなら「異世界に来たら地球からの観光地になってました」ってきなタイトルの物語になっちゃうんじゃ…
ぼくたちの世界の人にしか会ってないけど、チュートリアルだからかなぁ…
ふふふっ、心の中の疑問にここまで返事がないってことは、碧さんは考えてることまでは読めないってのは本当なんだろうね。ちょっと安心した。
そう思った刹那の後に「心の中を読まれてるわけじゃないなら安心だと思ったんだろう?」と指摘された。
「確かに、先の疑問の内容までは分からないさ。これで安心なんだろう?」
そんなフォローもされた。
確かに安心だけどね。
そう思った刹那の後に「あぁ、そうそう。呪文に使う言葉も名符から自分で設定できるんだ。初期設定は私が決めた言葉になっているんだよ」とか言われちゃったよ。
ここでは定番の疑問だっただけかもしれないけど、だいたいは考えてることも読まれてる気がする。
「ふん、どこまで読まれているのか探りを入れるのは大いに結構だがね。しかし、それはもう飽きたので次に進ませてもらうとするよ」
うっ、次は怒られる予感…
いや、気を失って怒られるくらいだし、ここまで二回しか怒られてないのが凄いことに思えてきたよ。
「名符の横にパラメーター設定用の道具が現れているだろう?筆やらペンやら、形はそれぞれだがね」
あれ?
怒られた一回目は碧さんの魔法に抵抗しなかった時で、その時から感情を読まれてたはずだよね。
抵抗しなかったのは自分の命を諦めたように見えたのかもしれないよね。
「それを使うと、名符の自身の情報を書き換えることが出来るんだ」
二回目は、謝っておいた時で、謝って済ませとこうって感情を見抜かれたからで決定だよね。
「ジョブ魂を出している場合は、その職業のステータス設定が出来るから覚えておくように」
つまり碧さんは、ぼくの心がだらしない考え方をした時に怒ってるのかもしれない…
んー、そういうところは良い人だと思うべきなのかな…
「能力の設定はMPを使用して行うわけだが、MPの役割は他にもある。この世界での魔法や技能を使用した場合にも消費するし、攻撃を受けた時のダメージも相応のMPを消費すれば肉体はダメージを負わなくて済む」
相手の感情が見える人への興味が、ぼくの中では大きいのかもしれない。
はっ!
説明をあんまり聞いてなかった!
「MPを能力に多く回せば、相手よりも優位に立てる状況を作りやすくなるだろう。だが、耐久面を疎かにすれば相手の弱い攻撃すら驚異になるし、MPが無くなればまともに戦うこともできなくなるだろう」
設定の幅が広そうで面白そうだけど、ぼくたちって何と戦うんだろうね。
「まぁ、四の五の説明されるより、やってみるのが一番だろう。次は模擬戦闘をやりながら能力を調整してみなさい」
そして、碧さんは今度は大きな扉を出した。




